第7章「移りゆく時期」その4


授業を終え、家路を歩いていた僕は明日のことを考えていた。


それと同時に平木に報告するべきだったのかと思い悩んでいる。


別に付き合っているわけでもない。


意識するのもおかしいんじゃないか、



平木だって僕の知らないところで男と遊んでいる可能性だって十分ある。


僕らの関係はこの先どうなるかわからないが、


今はまだ知り合いと友だちの間くらいの仲だと思う。


一緒にいて楽しくないわけじゃないが彼女の行動一つ一つが


僕の理解や常識にあてはまらないものが多い。


そのせいか会話をしていても、ついつい気をつかってしまう。


臆病(おくびょう)なのかそれとも無知なのか、


自分には彼女を理解するのに何かが足りない、


心の片隅でその違和感を感じまいと意識している。



平木もきっとそうなんだと思う。


僕という人間を描くために僕をからかい、楽しんでいるのだろう。


お互いを知ろうとして腹の中を探り合っている感じだ。


そう考えると、人との関わりって誠実さよりも相手の空気を察する機敏さの方が


他人と円滑な関係を築けるんじゃないのか。


西山はきっと後者が長けているのだろう。


ただ可愛いだけでは同性から妬まれるだけだ。


「可愛い」とか「カッコいい」が他人をけん制する武器だとするならば


使い方によっては自分を殺す武器にもなるはずだ。


まあ自分の武器が何なのかさえわからない僕に


この理屈は不可欠とはほど遠い、地球から星をあがめるようなものだ。



家の曲がり角を歩いていると、


目の前を小学生が平均台のように白線のように歩いているのが見えた。


僕の姿など目もくれずに笑顔で手を水平に伸ばして横切っていった。


これを境界線にしか思えない僕は大人になったということだろうか。


いやきっと違うな、見え方が変わっただけなんだ。



どちらが多数派かはわからないけど、僕の方が間違っているといい。


僕の願いは道路の片隅で誰の耳にも届かず、宙をさまよっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る