第5章「白紙の手帳」その2


「では、試験を終了する。筆記用具を置いて」


僕は握っていたペンを机にそっと置き、先生に書く意思がないことを示した。


いや、自分自身にも示したつもりだ。


張りつめていた教室のこの空気が、一瞬にして力が抜けたように


落ち着きを取り戻したかのようだった。


やっと一日目の試験が終わったんだ。


どれも終了時間5分前に終わったので、あまり心地のいい気分ではない。


本当に出来る奴は試験時間の半分程度で全て解き終わって、


後は見直しをするなり、あるいは寝るなりするのが特徴だ。


具体例として僕の右隣の少女はどの試験も開始20分程度でペンを置き、


その後はまるで見尽くした観光スポットを眺めるように問題用紙を見ていた。


まったく、羨ましい。


その余裕と時間を少しでもいいから僕に分けてくれよ、


そしたら僕も学校が楽しくなるだろうに。


ちなみに今、解いたのは数学じゃない、化学だ。


今日の試験は数学、国語、化学の順だった。


そして、僕がこれらの試験を解いている時の心情を書いても


つまらないと思い、残念ながら大幅に省かせてもらった。


問題用紙と回答用紙が回収された後、


僕は買ったばかりの筆記用具を鞄に入れて、帰り支度をした。

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