第5章「白紙の手帳」その3


「羽塚くん、今日の三教科は全て満点なんでしょうね?」


それは突然だった。


何の前触れもない、しかしそれがまた僕の心を揺れ動かした。


僕らはさも当然のように帰り道を二人で歩いていた。


方向的に僕と平木は一緒なので、そこは問題なかった。


放課後に女子と帰るなんて、僕の予定には組み込まれてはいなかった。


高校生活が始まって以来、僕は一人で登下校をしていたので、


これは嬉しい誤算だった。



「ねぇ、聞いてる?」


この状況について考えていると、返事をすることを忘れてしまった。


「いやさすがに満点はな...」


「聞くまでもないわね。


私がテスト1週間前から教えてあげたんだから、


これでクラスの平均点以下なんて取ろうものなら、


逆立ちして土下座してもらうわ」


「どうやってやればいいんだよ」


相変わらずの暴言だな。


「そんなに人をいたぶって楽しいか?」


「えぇ、楽しいわよ」


「あなたが初めてなのだから」


ドキッとした。


その言葉は刺激が強すぎた。


「何が?」


「こんなに罵られても、恍惚とした笑みを浮かべているから」


こいつは本気で言っているようだ。


眼科に行った方がいいのか、いや脳外科なのか。


「そんな顔した覚えはないぞ」


「そんなことよりさぁ、


まだ明日、明後日とテストあるけど勉強はするのか?」


「当然でしょう」

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