第3章「僕たち私たち」その7
僕はいつもよりも四十分ほど早く家を出発することにした。
学校にいけば、何か昨日の不可解な現象のヒントが見つかるんじゃないか、
そう思えてならない。
フィクションの世界によくある異世界に移動したり、人外の力を手に入れたり、
弱き者を助けたり、敵なんてものが現れたり、
僕もついに都合のいい人間になれるのかもしれない。
しかし僕は学校を通り過ぎ、駅が近くにある商店街の方に向かった。
なぜって?
怖かったからだ、今の「普通」が無くなることが。
僕が思い描くような都合のいい世界が待っているとは限らない。
この社会同様、理不尽や不平等がごまんとあるんじゃないのか?
僕はいつも能天気に浮かれた考えをする度、
その反対の思考が脳裏に繰り広げられていた。
ただこの時、僕は他人に自分の運命を託していることを恥とは思わなかった。
それにしても、なんで僕はこれほど考えているんだろう。
本当は喜ばしいことではないのか。
死を選んだ少女を助けたことは誰もが賞賛することのはずなんだ。
商店街を通り過ぎ、踏切に差し掛かった。
遮断機が閉まり、多くの人が立ち止っていた。
隣のスーツを着た男性が今か今かと電車を待ちわびていた。
なぜこの人は時計とにらめっこをするのだろう?
いくら焦ったところで、遮断機が上がる時間は変わらないというのに。
いつもより一時間早く起きた僕にとって、
彼の焦る気持ちなどとうてい理解などできなかった。
そして、ようやく電車が来た。
待ち望んだ電車は多くの人を乗せ、線路に沿って僕に近づいては離れていった。
その間の軋む音が僕の心にやけに突き刺さった。
その音がきっと電車と線路以外ではとうせい出せないものだと思ったからだ。
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