第2章「悩み部屋」その13


「でもその正しさの潔癖が君を苦しめてしまった。


それは母親として気づけなかった彼女の責任だ。」



「だったら何?母に不満をぶつけろって?


そうすれば一体何をしでかすか、他人のくせに偉そうに言わないで!」



正直怖かった。心臓がばくばく言って、今にも飛び出しそうで、


でも抑えきれない。


自分に酔っていたのかな。


熱くなりすぎてもうそんなこと忘れてしまった。



「例え自分を育ててくれた親であろうと、


間違っていると思うのなら否定するべきだ!


ただ怒りや思いをぶつかるんじゃなく、丁寧に、論理的に。


そうすることでしか君の意志は主張できないだろう。」



「刃物を使う可能性があるのなら、隠しておけばいい。


君ももう十五歳だ。母親に力負けすることはないだろう。


暴力で向かってきたら、止めることは出来るはずだ


もしそれでも不安なら、僕がついていく。」



「いや、でも...」


いつのまにか僕は立ち上がっていた。


「君は二度、屋上から飛び降りたんだ!


それが君にとって、母親にとってどれほど重大か分かっているのか!?


とことんぶつけるしかないだろう。


そこまでしなければならないことなんじゃないのか?この問題は!」


ここまで叫んだのは生まれて初めてだ。


喉が痛いし、頭もクラクラする。


きっと僕も悩んでいるんだ。


まだ人生の折り返し地点にも達していない


十五歳の僕が考えた論理は果たして正しいのかどうか。


いや仮に正しくなかったとしても、


今はそれよりも彼女が


自分という存在が無いという認識を勘違いだと分からせる必要があるんだ。


どんなに気を遣おうと、どんなに操られていようと、


自分がいないなんてことはあり得ないんだ。


きっと自分という人間の価値を小さく、小さくしすぎて無くしてしまったのだろう。


だから、自分が無いと錯覚してしまう。


だから、悲しくなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る