第2章「悩み部屋」その6


「羽塚くん、羽塚くん。」


聞こえる。僕を呼んでいる。


僕は眠っていたようだ。


光がいつもより嫌にまぶしく感じる。


後れて、自分の後頭部に温もりをも感じた。


枕にしては弾力がない。目を開くと、人の顔が視えた。


近いな…よく見ると、先ほど僕にトラウマを植え付けた見覚えのある顔だ。


平木だ。そして、見なくても分かる。


この温もりは彼女の太ももだ。



「うおぉ、平木?、何しているんだ?何で膝枕なんて。」



「いえ、羽塚くんを起こそうと思って。あなた、二時間くらい眠っていたから、


いい加減しびれを切らしちゃって。」



そこには飛び降りたはずの彼女がいた。


現在の状況説明したところで、


僕は仰向けの姿勢から一気に起き上がり、彼女の顔を見た。




「それにしても生きていたんだな。」


「えぇ。あなたもね。」


「ここは?」



部屋だ。ワンルームだ。


広さは畳10枚ほど。


2人ならちょうどいいくらいの広さだ。



床や壁、天井は原色の赤、青、黄、緑の4色で、天井にはランプが一つ。


中央には丸い机が一つと端っこには小さな棚がある。


子ども向けに作ったようなオシャレな部屋だ。



平木は机を挟んで僕の真向かいで正座をしている。


「ここは天国でも、地獄でもないわ。」


まぁそうだと思う。


それにこんなワンルームが天国や地獄とは思いたくない。



わけがわからなさ過ぎて、何から聞けばいいのか分からない。


だから僕は彼女の反応をずっと伺っていると


「私には悩みがあるの。」


平木は唐突に悩みがあることを告白した。


さも当然のことを言い出したので少しあきれてしまった。


「そりゃ悩みなんて誰にでもあるでしょ。」



「ここは私が作った部屋なの。」



僕の返答には全くの無視だ。



ー悩み部屋ーそう彼女は命名していた。



「悩み部屋は、悩みを抱いた本人が作りだしたもの。」


「つまり、君の悩みがこの空間を作り出したってこと?」


「そういうこと。」


にわかには信じられないなぁ。


悩みなんて、誰にでもあるだろう。


僕だってある。


でもこんな空間を作ることが出来るとは思わない。



「ここはどこなんだ?日本なの?」



「分からない。ただ私たちが普段暮らしている場所ではないわ。」


さっきから何でこの少女はこんなに冷静なんだ?



「つまり、ここは異空間ってことか?」



「そう。」



「でも僕らは何でここに来られたんだ?


何かきっかけがあったはずだよな?


つまり、それがあの飛び降りるってことだったのか?」



「ーそうよ。」


「君は何でここにたどり着けることが分かったんだ?」



「分からなかったわ。」


「私は知らずに飛び降りたの。」



あっ、バカだ、僕は。


そうなんだ。


彼女は知っていた。


屋上から飛び降りた後の結末を。


飛び降りた後、普通ならどうなるか彼女は知っていたんだ。


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