第2章「悩み部屋」その4
「じゃあ、君が飛び降りたら、僕も君の言うとおりにするよ。」
その場で思いついたものにしてはいい発言だと思った。
これだ。
これで、彼女も理解するだろう。
「分かった。じゃあ、私が先にここから飛び降りるわ。」
そう言うと、平木は屋上の柵をゆうゆうとよじ登って、
あと一歩踏み込めば、落ちるところまで行った。
僕は今になってようやく事の重大さに気付き、焦りつくしていた。
「おい、今すぐ降りろ!まじで死ぬって。ここは7階だぞ!」
自分が放った一言が、本当に実行されそうなことになり、
唐突な後悔と罪悪感が僕を襲った。
パニックになる僕をよそに、平木はすこぶる冷静だった。
まるでこれから起こることを理解していないような。
いや後から思い返せば
誰よりも理解しているからこそ、冷静でいられたのだ。
「大丈夫。私が飛び降りた後、
もし私の死体が見つからなかったらあなたも飛び降りて。」
「何を、」
「じゃあ、また後で。」
「ひら、」
「あ」
風の音が聞こえる。
今、飛び降りた。
一瞬すぎて、何がなんだか分からない。
でもさっきまで僕と喋っていた彼女はもうそこにはいない。
血の気が引いた。
僕は目の前で命が消えたのを見た。
いや、正確には消えたと思った。
なぜなら僕は飛び降りた瞬間を見ただけで、
死んだ瞬間を見たわけではないのだから。
でもここは7階だ。結果はわかりきっている。
やばい、まずは救急車を呼ばないと。
それよりも彼女の安否が先だ。
もしかしたら重症だけで済んでいるかもしれない。
僕はおそるおそる下を見た。
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