第2章「悩み部屋」その2
ドアノブを回した、重みはない。
よし開いている。僕はゆっくりと扉を開けた。
そこは初めて見る景色だった。
うっ、夕日がやけに眩しい。
でも不快ではない。風が心地よい程度に吹いている。
「遅かったわね、羽塚くん。待ちくたびれたわ。」
逆光を浴びた少女が僕に話しかけた。
平木だ。
言葉通り、彼女は相当待ちくたびれたようで、
さっきからグランド側の方をさして意味もないような、ただ退屈そうに見ている。
ようやくお目当ての僕が到着したというのに、
一向に僕の姿を目で捉えようともしない。
それにしても相変わらず上から目線だなぁ。
人を急に呼び出しておいて、この返しだ。
昨日のお詫びもなしだ。
しかし今の僕に怒りはなかった。
荒波に漂う船から碇でも下したような静かな心持ちだった。
もし今の「上から目線」について彼女を責めるのならば、
この1ヶ月の僕のボッチ生活(これは僕のせいでもある)、
昨日の消しゴムを拾ったのにお礼の一つもないこと、
人の恩情を意味不明な罵倒で返したこと、
挙げていけばきりがない。
だから、僕は怒りなんてとうに置いてきたのだ。
意識に忘れ去られるくらいに。
「ごめん。まさか屋上に入れるなんて思わなかったから。」
素直に謝った。
僕も大人になったということだ。
平木は納得したようで
「そう。」
と言い、なびく髪の毛を抑えている。
聞きたいことは山ほどある。
しかし僕が聞きたい全ての質問に、
この少女が全て答えてくれるとは思えない。
だから一つだけ。
一つだけに絞ることにする。
それは僕が最も気になることにしよう。
「それで何で僕をこんなところに呼び出したの?」
あんな下駄箱に手紙なんて、
電子機器が発達した現代において
常人なら考えもしない方法で僕を呼び出したその訳を。
僕はこれほどだれかに訳を求めたことはきっと無いだろうと思った。
僕が質問を投げかけると、
彼女は目を閉じ、数秒間黙りこくった。
僕を見つめている。
そして、決心をつけたかのように深いため息をつき、
か細い声でこう言った。
「あなたにお願いがあるの」
何だ?お願い?平木が?僕に。
平木は僕と目の前にいた位置から数歩進み、
グランドの方を指差した。
ちゃんと親指で指差した。
「ここから飛び降りて」
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