第2章「悩み部屋」その1


さて、どうするか。


とりあえず屋上まで行ってみよう。


話はそれからだ。


教室から出た僕は一年の渡り廊下を歩いた。



ここの屋上は6階から7階上がる階段の先にある。


つまり6階までが建物内ということだ。


そこに平木がいる。


いやまだいると決まったわけではない。


もしかすると屋上にいるのは平木ではなく不良どもで、僕を貶めるためのものかもしれない。


でも、何かがあると思う。


期待すべきものか憂るべきものなのかは分からない。



だが、学校の授業や友だちとの遊びの中では


とうてい得られない何か、そんなものが待っているような気がした。



渡り廊下を歩き終わり、一歩また一歩と一段ごとに登っていく。


急ぎたい気持ちはあった。


しかしここで小走りで屋上に向かう姿を見られることはとても恥ずかしかった。



6階の上り階段までついた。


見ると、そこには無数もの机と椅子が置かれて、電球などの照明の類も見当たらない。


完全なゴーストタウン状態だ。



人は使わないものには無頓着になるらしい。


確かに片倉の言った通り、机や椅子は乱雑に置かれていて通れそうもない。


本当に平木はここを通って行ったのか…。


入ってはいけない雰囲気だけは感じ取ることが出来る。


これから悪いことをするかのような気持ちになった。


僕はこの罪の意識と恐怖心を引っ込めるのに、少しばかり時間がかかった。



打つ手なしか…と思い、僕の心は


まるで磔に吊るされたような気持ちから解放されそうになっていた。



その時、パッと左端に目がいった。


人がギリギリ通れる隙間があったのだ。



たぶん彼女もここから入ったんだろう。


僕は体をしぼめて、かがんだり机や椅子をどかして、


おそらく数メートルはあるこの要塞をかいくぐった。


すると前に扉が見えた。



おぉ。何だか興奮してきた。


入学して約1ヶ月、はやくも秘密の場所を見つけたようで、


僕の喜びは子どもの頃の冒険心を思い出したかのように頭の中でコサックダンスを踊っていた。


そのせいもあってか、扉に貼ってある立ち入り禁止の文字など、


僕は気にも留めていなかった。

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