第1章「平木尊」その3


僕の右隣の席の少女、平木尊、以前そこは空白だった。



僕がこの徒歩十五分で通う高校に入学してからちょうど一カ月。


その間に、この席を座った者は誰もおらず、まさに前人未到の座席だった。


しかしこの座席に触れる機会は何度かあった。


といっても、僕が先週と昨日、掃除そうじ係になった時に床を掃除する為に移動させた瞬間だけだ。



…いや、思い返せばまだあった。


入学式から一週間程度は、学校に関するアンケートや親に渡すプリントが


それこそ山のように配られたので、隣の席の僕は彼女のプリントを整理するために、


机の中をまさぐったことがある。


いや、この言い方は何やら語弊ごへいがありそうだな。


しかし、これだけ触れていようとそこに生気というか本来なら人がいるという事実を一向に感じることが出来なかった。


神聖なものなのか禁忌きんき的なものかもしれない。


そのせいかここからは人の気配というものは全く感じられず、


僕の中で右隣の机はまるで置き物のように変わっていって、色あせた気がした。


まぁ、誰も座っていないんだから、それが当たり前なんだろうけど。


それが今では、彼女の席には本来あるべき形になっている。

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