「チーズフォンデュはいかが?」
夜空には数え切れない程の星がまたたいている。
深い青のグラデーションが、澄んだ森の空気と混ざり合い、清廉な空気を醸し出す。
「そろそろ晩ご飯にしようか」
カヤのその一言で、今日1日を締めくくる夕食作りに取り掛かる。
エイダは薪を運び出し、マッチをこすり火を点ける。
ふたり火を囲む。
丸太の上に向かい合わせで腰掛け、足元には数本のビール缶が並んでいる。
焚き火の上には小ぶりの鍋が置かれていて、鍋の中にはたっぷりのチーズが入っている。
カヤは時々鍋の中が焦げ付かないように掻き混ぜながら、話し始める。
「ねぇ、この前起きた街の事故ってどう思う?」
「ああ、元高級官吏が子連れの親子に車で突っ込んだっていう…。」
「そう」
返事をしながらカヤはプシュっと缶ビールを開けて一口飲み干す。
「もの凄い批判の的になってますけど、僕には皆が寄ってたかって彼をいじめてるようにしか見えません。」
エイダも彼女にならいビールを開ける。
「それに彼を責めるどの言葉も、自分で自分を着飾るためのものにしか見えないです」
そう言って彼はビールを煽り、話を続ける。
「皆、自分は純粋で罪のない人間だとアピールしたいが為の言葉に思えます。しかもそれは、他人だけじゃなくて自分自身に対してのアピールにも見えます」
カヤは静かにエイダの話を聞きながら鍋の中のチーズを御玉(おたま)でかき回す。
それからよく考えてこう言った。
「…皆、人を攻撃する事でしか自分の中の善性を証明できないのかもね」
「そうかもしれませんね」
そう相槌を打ちながら、エイダはまたビールを煽る。
カヤは火に両手をあて温めながら、エイダに話しかける。
「最近、何でもかんでも人を追い詰めて、批判してばかりだよね。間違いを犯した人を。
ねえ、皆何でそういう事をすると思う?」
「さあ…なんででしょうね」
「そういう人達は皆、『自分はこうはならないだろう』と思っているんだろうね。
つまり…、自分だって過ちを犯す可能性があるだなんて考えてないんだろうね。
だから自分には関係ないものと思って、どんどん人を責め立てて、追い詰めていくのかもしれないね」
「…なんだか世の中全体が息苦しくなっているように思えてなりません」
「そうだね…。自分たちで自分たちの首を締めているような、そんな気がするな気がするな。私は」
鍋の中のチーズがグツグツと煮えてくる。
「さ、鍋が煮えたよ。食べよう」
2人はパンやブロッコリー、ベーコンを刺した串を鍋にひたしながら、他愛もない会話を繰り広げる。
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