黒き陣風のエクスキューショナー
キロール
甦る最後の記憶
魔族との戦争で劣勢に陥っていた人類は、古代人の魂が宿るとされている希少金属を錬金術の果てに従属化に成功し、その力を魔族にぶつける事を思いつく。
人形兵器を動かすのは、僅かな動力エネルギーと錬金術にて生み出され魂の従属化に成功したソウルメタルと呼ばれるコアだ。
コアが無事なら体は幾らでも換装が効く。
古代人が有する魔力を用いた射撃、白兵とコアを制御する錬金術師の指揮官による攻勢に魔族は次第に押され、今では戦況は人類が優位になっていた。
だが、技術は流出する物である。
遂には魔族も古代人の魂の宿る希少金属の従属化に成功し、
魔族の兵器運用は荒さが目立ったものの、戦況は拮抗状態になるであろう事が予想されていた。
魔族との戦争で荒廃した大地を走る武装馬車。
側面の扉に描かれているのは、人類側のある部隊の隊章。
規律を歪める人形兵器を処刑する部隊『エクスキューショナーズ』を表す目隠しをした機械仕掛けの人造天使が描かれている。
「所属の
「該当部隊の
「どうやら、篭絡されていた模様で……」
「――馬鹿め。何をしようが勝手だが、
ただ1頭の歪な馬が引っ張るその馬車の中には、2人の男女が向かい合って座っていた。
男の方は処刑部隊の
女の方は黒い布地で目元を隠した女……
服装は
黒一色の服装はその肌の白さと共に、金色の髪を際立たせていた。
揺れる馬車の中で報告を終えた
視覚で感知する事は叶わないが、それ以外の感覚で悟るのは、即断即決の恐るべき
「
「貴様の忠節に疑う余地はない。が、
「……差し出がましい口を利きました。決断を下すのは閣下であります」
能力的には彼女等と差など無い筈だが、この指揮官は未だに自分を認めないのだろうかと、
それを知ってか知らずか、処刑人の敬愛を一身に集める
「貴様に任せよう、
「――っ」
思いがけないと言うよりは、いつか来るであろう時が来たことに
唇を僅かに噛み、忌まわしき記憶を脳裏に過らせた。
しかし、その僅かな間は、処刑部隊の
「出来ぬのならば、他に任せる」
「閣下のご期待に、背く訳には参りません」
「……ふん、貴様はまだ私を信用していないと見える。まあ良い、そこまで言うのであればやって見せよ」
恐るべき
だが、敬愛すべき
そして互いが無言のままに、馬車が目的地に着けば、杖を突きながら
後に残された
少年型も無いではないが、成人男性の型をした
一方の指揮官となる錬金術師は人間の男である事が多い。
両者の間に生まれる感情は、上官と部下以上の物が生まれやすい環境である。
上層部がどの様な意図でそう配置したのかは不明だが、結局はその意図を
感情の暴走が友軍を、指揮官を、そして全くの第三者を巻き込む事件が数度続けば、それに対応する部隊を創設する必要性が出る。
その帰結の結果生まれたのが処刑部隊『エクスキューショナーズ』。
「感情の暴走……」
光無き闇色の網膜に繰り返される蛮行にうんざりとした口調で呟き、彼女は漸く馬車を降りた。
風が金色の髪を靡かせる。
「あの日も、今日くらい風が吹いていたかしら」
再度再生される過去の記憶に思いを馳せながら、彼女は暗い感情を込めて呟いた。
北方の81部隊に派遣されたのは、既に2年は前の事だ。
かの部隊が防衛する場所は、激戦区の一つであり
錬金術ラボより派遣されたばかりの彼女は、不安に押しつぶされながら81部隊の元へと向かった。
だが、着任した
仲間達や指揮官はやるべき仕事を親切に教えてくれた。
だから彼女は、ここでならば何とか戦い抜けると希望を持って職務に励み、功績を重ねていった。
それがいけなかったのだろうと、今ならば分かる。
あの部隊では目立つべきでは無かった。
81部隊の指揮官の目に留まると言う事が、どれだけ危険な事であったのかと
あの指揮官自体が如何と言う訳では無い。
指揮官の目に留まると言う事実が問題なのだ。
他の
嫉妬と言う名の感情の暴走が。
81部隊には嫉妬に狂えば、戦闘中であろうとも問答無用で友軍を襲う狂った
「貴方がいけないのよ――、貴方が奪おうとするからいけないの。私からすべてを奪おうとするから」
「な……にを……」
「大丈夫――。今までの咎人は皆地獄に行っているわ、寂しくない。だからね、さようなら」
彼女たちは答え終える前に数多の魔族を屠って来たであろう魔銃の銃口を、魔力で制御された弾丸を放つ恐るべき兵器を後に
それで終わり、その筈だった。
(ふざ……けるな……ふざけるなよ……何だ、これは。何なんだ、これは)
壊れていく記憶が叫ぶ、軋みを上げて崩壊するコアが轟く。
襲撃からどれ程日数が過ぎたのかは不明だが、撃ち捨てられていた彼女は再起動を果たした。
だが、記憶を司る頭とコアを傷つけられた彼女は暴走していた。
訳も分からず仲間だと思っていた者に壊された。
そんな理不尽に穏やかな性根であったかつての彼女は、ある感情を暴走させていたのだ。
その感情の名は憎悪。
憎しみ、怒り狂う死に掛けの
「壊れかけか」
呟く言葉と何処となく悲しげに見えた緑色の瞳が、心に突き刺さる。
そして振るわれた鋭い杖の一撃に、死に掛けの
次に目を覚ませば、杖を持った恐るべき男が目の前に立っていた。
破損個所は修復され、軋みを上げていたコアも落ち着きを取り戻している。
訳も分からないまま男を見やれば、その男は面白くも無さそうに告げた。
「
彼により
ネーミングセンスはどうかと思うが、人を殺さず自分を保ってこれたのは、彼のおかげである。
その期待を裏切る訳には行かない。
だが……やり過ぎないと言う保証も無い事に、
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