きせつのうた
西行枝@
歳明け 20200101
さて、時間です。私たちが立っている山の向かいにある大きな山から、間も無く今年いちばん最初の太陽が顔をのぞかせるでしょう。
私たちのいちばん前にねずみのおじいさんが立っています。今年は彼が、1年さいしょの行事の進行を務めます。彼は上着をさぐり、中からねずみの顔ほどある紙を広げ、ここにいる動物たち全員に聞こえるよう声を張り上げ、こう言いました。
「今、山をこえ、天にのぼるあの星は、われらを照らし、暖め育む大神さま。
今、山をこえ、身にふけるこの風は、われらを祝い、背を押すラッパの音色。
われら地にはう卑しいねずみ。されど仰ぎ敬われるものと足る。
ならば歌おう感謝の祝詞。
ならば歌おう願いの祝歌。」
その言葉がおわると同時に、私たちは一斉に構え、ネズミの指揮のもとにその歌を厳かに歌いはじめました。
田畑をたがやすものたちよ
見よ 太陽がのぼるあの山を
部屋でもの書くものどもよ
聞け 新しき歳のはじまりを
夏こえ 秋こえ 冬をこえ
また あたらしき春がきた
夏こえ 秋こえ 冬をこえ
季節をめぐって 春がきた
めぐるうちに歳をとり
うまれ しにゆく ものがいる
めぐるうちに聞く鐘は
われの こころを あらいゆく
夏こえ 秋こえ 冬をこえ
わかき もゆる かわい芽の
夏こえ 秋こえ 冬をこえ
つぎの 歳には もういない
めぐるうちに明日を見ず
やせて 老いゆく ものもいる
めぐるうちに見る日差し
めをやき 産まれた ものがいる
部屋でもの書くものどもよ
悼め 誰もが帰る あの空を
田畑をたがやすものどもよ
祝え 命うまれる あの山を
歌い終わったのち、私たちは静かに日の出を見届け、誰となく家に帰り、今年初めてのご飯を食べ、喋ったり、遊んだりして、また元の1日に戻っていきました。
新しい年のはじまりです。
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