カキテヨマレテ=The End Story=

小欅 サムエ

カキテヨマレテ

「こんばんは、呉 メイです。今夜もあなたの心に響く言葉を、精いっぱいお届けします。」


 ここは、とあるラジオ番組の収録スタジオ。今喋っている彼女は、メインパーソナリティの呉 メイ。彼女は、ラジオパーソナリティでありながら、他の人には無い、特殊な能力を持っている。


 そう、彼女は、送られたメールの送り主の心が読めてしまう。


 その人の書く文字から性格判断する人は存在する。しかし、彼女が見るのはメールの文面だ。しかも彼女は、性格を分析するのではなく、心を読む。それが今、この時代に受けて、ラジオという古臭い媒体でありながらも、それなりにオーディエンスを集めることに成功している。


 さて、今日は一体どんなメールが読まれるのだろうか。



「それでは、本日もお送りいただいたメールを読ませていただきます。


ペンネーム、ハシビロコウ様。


『はじめまして、いつも番組を聞いています。私は高校三年生なのですが、未だに進路が決まっておらず、毎日のように先生や両親から、早く決めなさい、と急かされます。でも、私にはやりたいことが見つかりません。どうしたら、やりたいことが見つかるでしょうか。』


 貴重なメール、ありがとうございます。そうですね、高校三年生ともなれば、将来について悩み、苦しむ時だと思います。」


 彼女は、一瞬だけ目を閉じた。メールの文面をプリントした紙を、さらりと撫でる。


「……はい、あなたの心、私にしっかりと届きました。」


 彼女はそう言うと、ポタリ、ポタリと目から涙を零した。


「……辛いよね、悲しいよね。そんなことを言われても、苦しくなって、飛び出したくなるよね。」


 静寂がラジオブースを包む。彼女の涙が机を叩く音だけが、この部屋に響いている。


「あなたが今回選択したことは、間違いだったかもしれません。あなたはきっと、すごく後悔していると思います。でもね、その選択も、あなたのやりたいことの一つなんだと、私は思います。だから、どうか。」


「どうか次は、やりたいことをする前に、私に相談してください。さいごにやりたいことが、それだったのだと、胸を張って言えるように。」



 真夜中のラジオ番組、『Re : Quiem』。今夜も彼女の声が、世界に広がっていく。

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