第168話小休止中の様子

 かくして幕が開かれた第二回格闘技大会。


 去年同様その場で行われるくじ引きによって対戦相手が決まり、そしてリングへと上がり激突する。


 殺し厳禁など幾つものルールで縛られてるとはいえそこはそれ。制限かけられた中でも鎬を削る真剣勝負というのは盛り上がるものである。


 前回の上位に登った者らは当然の如く勝利をつかみ場を沸かす。一試合目では実力者同士の潰しあいにならずに済んだのは運が良かった選手的にも大会運営的にもな。


 そうでない選手らも、今年こそはという気迫に溢れており、それが観客にも伝わり今後への期待を込めた声援を送ったりして熱意の相乗効果を呼び込む。


 一年経過してるとはいえ身体が覚えてるのか加減の仕方も心得ており、去年と比べてグダグダな試合運びをする者は今の所ほぼおらず。


 五日に分けて行われる大会初日としてはイイ出だしと思いたいとこだ。


 そう、前回よりも増えて今年は五日間の開催期間を設けてるのだ。


 前回は最後辺りになると夕方になり、秋の夕暮れともなれば遠くの席ともなれば暗くてよく見えない。


 想定はしてたものの開催後に控えめながらもやはり苦情が幾つか届けられた為に考慮した結果だった。


 個人戦三日、相棒戦二日と確保してある。増えた分一試合ごとに余裕も生じるだろうし、それでも間が空く時があれば武芸に覚えのあるやつに演武じみた余興やらせて尺稼ぎすればいい。


 抽選に勝って安くもないチケット代金支払って来たお客さんからクレームこないよう対策は講じないとイカンよマジ。


 とりあえず、今回の初日は一回戦と二回戦。二日目は準々決勝と準決勝戦。三日目は決勝戦と三位決定戦の予定を建ててる。


 前回はオリンピックとかじゃねーんだからと没にした三位入賞も日時拡大に伴って取り入れる事にした。


 これによって前回生じた夕暮れ時になると後方席程暗くて観辛くなる。という問題も解消だ。


 なら去年の時点でやれよと言われそうだが、試合時間も客入りも不透明だったんで。


 ついでに開始も前より遅めにしたし、一日の大半を会場の席に座って過ごすという事態も避けた。小休止時に物売り巡回させてるとはいえ、どうせ来たなら会場外の祭りも行きたいだろうしな。


 時間はこのように調整したが、他に特色あるとしたらトーナメントのやり方だろう。


 参加人数は増加したことにより、降り落とすには惜しいという現場の感情的な事情が働いて三八名の参加となった。


 でまぁお分かりの通りこの人数だと本選一回戦までは問題ないがそれ以降は数が余る。


 前回優勝者のガーゼルにシード権行使させても準決勝辺りで問題になる。その時点で五人とかどうやっても割り切れねーだろが。


 この「誰か予選の時点で初歩的な計算ぐらいしとけや」と言いたくなる悩みに関して、俺はこのいう類のノウハウが現地に無いのをいいことにマイルールを作る事にした。


 それは、準決勝の片方は三人でのデスマッチを行うというアホみたいなルールだ。


 単純明快に三人をリングに叩き込んで一人生き残るまで潰し合わせるという乱暴な方法。二年目にして個人戦でこんな事やらす羽目になるとは俺も想像してなかったわ。


 これに関しては当日の選手らの引き運といざ放り込まれた際の機転を祈るしかない。正直文句言われたら謝罪待ったなしだからなコレ。


 予選の運営担当に次回以降はちゃんと数を考えるように厳命するので今回限りではある。


 しかし、評判次第ではたまになら組み込むのもやぶさかではない。そこんとこは臨機応変に対処だなぁ。


 とにかくもトーナメントの数の問題を一応解消したことで大会開催の支障にはならず。


 開催前に急遽ルール制定された事に関しては、観客側は珍しい趣向だと興味津々な感触を得ている。見物客としては大して関係ないというのもあるだろうけど。


 選手側からはしばしなんとも言い難い顔をされつつも「じゃあちゃんとする為に人数削減な」と言われて予選落ちするよりマシ。と、割り切って了承を得た。


 ちなみにその関係で三位決定戦は準決勝敗退三名に加えて、本選参加者限定で別の場所で予選を行って一名選出の計四名にて行われる。つまり三日目は試合三回行われるので短くはないぞ。


 そんな場当たり的な裏事情あれども試合は進んでいき、昼を少し過ぎた頃に一回戦が終わる。


 ガーゼルはシード権により準々決勝まで出番無しなのでベスト18が揃ってる。


 前回優勝者の活躍を初日から見れずに観客、特にブラク・ヘイセ王国の面々は少し残念そうであったが、他の魔族参加者の出番には応援の声を飛ばしてそれなりに楽しんではいた。


 新規参加者の内、人間族二名、獣人一名、ハーフエルフ一名が生き残ってた。ハーフエルフ以外は州外の者であるので、遠路遥々来るだけあるということかもしれん。


 人間族は傭兵のジェムズ、冒険者のハライズミ、獣人は山羊の頭をした冒険者のメーリー、ハーフエルフはメイリテ・ポルトから来た猟師のロアンという顔ぶれ。


 ロアンは中肉中背の三十後半の男性で、海沿いの県にしては珍しく平地や山で魔物に分類されない動物を主に狩る猟師として生計を立てており、今回は仕事で培った肉体にて祭りに飛び込んできた。


 メーリーはヴァッサーマン州の冒険者で二十半ばにてDランクの剣使い。地元ではCランクも間近な有望株として一目置かれてるらしく、腕試しと賞金目当てにやってきた。


 ジェムスは傭兵として他国を旅しており、今年に入ってプフラオメ王国へ入国。その足で商都へ赴いた際に大会の話を聞いて興味が湧いて船でやってきた。


 そしてハライズミというも冒険者として商都に居た所を話を聞いてジェムスと同じ船に乗ってきた男。見た目は若い、それこそ十代後半ぐらいの男なのだが素手での戦いなど自信あるという。


 と言う情報は、提出してもらった簡単な自己紹介文及び確認の為の面談の際にお出しされた話。どこまで本当か知らないが、報告受けた身としては面談担当者の人を見る目を信用するしかない。


 実況兼解説者として試合展開見たが、いずれも本選出るだけの力はあるだろうが、そこまで目を瞠るレベルは居ないな。


 いやまぁ、強いて挙げるなら冒険者のハライズミか。


 予選は知らんが一回戦では難なく相手を倒してたので腕に自信あるのだろう。


 ただ強さというより、なんか全体的に妙な違和感覚えた。根拠が勘なのでまだ自分の中で納めてはいるがね。


 ぶっちゃけて言うと、この世界の人間か怪しく見えるんだよ。


 見た目でいうと、服装はちょいと質の良さげな冒険者装備に身を包んでいるがありふれたものだし、容姿も特異なものはない。


 茶髪混じりの黒髪とか顔の彫りなどで日本人に見えると思い込めば見えなくもないが、如何せん相手が「遥か遠くの東大陸から来た」「血筋に東大陸人が居た」とか言い張られたら追及しようがない。


 多国籍通り越して世界規模で人種の坩堝なのが異世界クオリティ。髪や瞳や肌の色ぐらいでは分かったような顔は出来ない。


 平成だって現代地球人の服装だから即座に看破出来ただけで、あの時部族の服装されてたらすぐには気づかなかっただろうな。


 異物感のような独特の雰囲気や、試合以外でも妙に場慣れしてない感や、時折何か探るような視線を周囲に向けてたりとか。


 勘の根拠と言えるのはこれぐらい。こればかりは説明し難いものだ。あー平成ならなんとなく分かってくれそうなやつ。後で少し相談してみるかこの件。


 マシロとクロエ?アイツラにとっちゃどーでもいい存在過ぎてスルーしてるに決まってるだろ分かってても。


 でだ俺も勘が当たってると仮定して、コイツが他国の召喚されし者なのか、平成みたく野良なのかが問題だ。


 後者でもまぁ面倒ではある。しかし前者ともなれば呑気に構えてもいられないからな。


 ステータス閲覧して情報得るのも考えたが、今の俺がステータスオープンするには目立ちすぎてるし目立つところに居るから迂闊に使えない問題もあった。


 勇少年のときは周りが俺の存在ほぼ眼中無し連中だったから使用出来ただけで地味に目立つんだよなアレ。


 まぁ今の所は普通に選手として参加してるだけだし、緩い監視程度に留めておくが、さてどうなることか。


 などという微量な不安要素除けば概ね順調な流れである。


 一八人中他所からの新規四名、前回参加者一三名、州内参加者新規で一名という顔ぶれ。


 ガーゼル、フージ、ファンユー、モモなど上位は当然ながら、幾人かは前回は一回戦敗退の憂き目にあった者もおり、リベンジ果たせて意気揚々としてる。


 実力もだがくじ運次第では更に上を目指せるので意気込みもあるしやる気満ちてるのはイイ事だ。


 と、評価する半面、一回戦突破しただけで浮かれ気味な姿見てると優勝の事はどう考えてるのか意地の悪い質問したくなる衝動にも駆られるわけで。


 リングの清掃とくじ引きと二回戦に向けての準備する短い時間。それは同時に観客の小休止時間ともいえるわけで。


 俺も大きな伸びをしつつ実況解説の席を立ちあがり、軽い挨拶にでもと貴賓席へと足を運ぶ。


 果実水満たしたコップ片手にマシロとクロエも俺の後を付いてくる。更にその後をフォルテ将軍が付いて来ようとしたのだが。


「いやすぐに戻りますので将軍に特に頼む事は私らはないです。なので将軍も部下の方々と寛いでてください」


 と、もっともらしい提案を出してステイさせた。ちょっと離籍するだけで一々ついてこられても割と困るんだよね怖い顔した鬼の巨漢とか。


 自らに課した立場を気にして食い下がろうとする動きも見られたが、クロエがウザったそうに手を払う仕草をしてみせたとこで渋々と頷いて魔族の皆さんの所へ向かっていった。


 心なしかしょんぼりした鬼将軍の背中を一瞥した後、気を取り直して貴賓席へ顔を出す。


「皆様楽しまれてるでしょうか?何か入用ありましたら遠慮なく申し付けて頂きたい」


「おぉこれはレーワン伯。お陰様で中々刺激的な催し物楽しませてもらってます」


「今年はどんな番狂わせ起こるか楽しみですな」


「外も中も賑わってるようで結構なことですなぁ。どこもかしこも今までこういったのをやってないのが不思議なぐらいの盛況さは流石」


「いえいえこれも皆様のご尽力お力添えあってのことです。出資された分の楽しみを得て頂けたらと」


 政治家なのかプロモーターなのか自分でもよく分からん立ち位置的な返事になったが、幸い気分よく飲み食いして試合観戦してた面々からツッコミはされなかった。


 この州のトップの顔出しに新規スポンサーの小金持ち連中は露骨に恐縮しきりに頭を下げ、リヒトさんら地元貴族とその家族は軽く驚きつつも静かに会釈して満足の意を伝え、アーベントイアーさんは陽気な笑みを浮かべつつ酒杯を掲げて機嫌の良さを示した。


 まだ一回戦とはいえ熱気は前回に勝るとも劣らない。そしてこれからの盛り上がりへの期待感。更には大きな催し物に参加してるという特別感。


 それらが合わさり生じる祭りを楽しむ空気に貴賤無し。


 今の所は実にイイ出だしといえよう。運営側としては手堅くでもいいから無事に今年も乗り切って終わらせたいと改めて誓いたくなる感触だ。


 特に用もなく本当に挨拶がてら様子見に来ただけなので、俺は適当に相手側の話に相槌打ちつつ、チラッと肩越しに振り向く。


 臨時に拵えた応援席に座る州外からのお客人の様子を覗うも、あちらも特に悪い訳ではなさそうだ。


 ただそこは温度差があるわけで。


 ブラク・ヘイセ王国の方は、使節団の長であるフォルテ将軍が自ら進んで無位無官の小娘の舎弟みたいな振る舞いをしてることに困惑しきりである。


 試合は試合で楽しく観戦はしてるようだが、いつ自分らの将軍が白昼堂々衆人環視の中で顎で使われるか気が気でないのか、時折視線が俺らの方角へ注がれてるのを肌で感じた。


 かといって使われなきゃ使われなきゃで落ち着かないのだろう。現につい先程フォルテ将軍があしらわれて帰された際に「もう少し配慮願いたいんですが」と言いたげな顔をした者が何名か居たよ。


 外交的に考えたらもう少し気を配るべきなんだろう。当の将軍がどう思おうと国外の官にある者としてそれなりの遇し方というのはあるのだから。ちゃんと双方を諭してあるべき形に戻してやるべきなのだ責任者が。


 まったくもって常識的で理性的な思考だ。社会人としてもほぼ正論だろう。


 不可能と言う点に目を瞑ればな!


 そんなんすぐさまやれるぐらいの権威と力あるなら、そもそも俺は左右に控えるド畜生共へ配慮するよう命じて実行させてるわ!コイツラが適当に負けたフリしてれば今の事態になってねーんだから。


 数か国は隔てた外国の客人にそうぶっちゃけるわけにもイカンので、俺は彼らの無言の要求を黙殺するしかないのだ。


 一方のプフラオメ王国の方は、役人や兵士というよりディクシア、アリステラー両名の反応が少し気にはなってた。


 見た感じでは楽しそうな様子ではあった。嘘や虚勢の類も見受けられはしないから、多分その辺りは問題ない。


 後は外の様子も含めて、ヴァイト州という、王都から見たら辺境のド田舎が思ったより発展してる件に何を思ってるかだ。


 全てを見せたわけでも見たわけでもないとはいえ、格闘技大会一つとっても他州では聞かない催し。それをやってのける余裕が此処にある証左ともなり得る。


 州全体を見聞するわけでないとはいえ、気づく者なら州境の関所と州都の様子だけで今までとは違うと気付く筈。


 これからの事を考えたら王都に住まう王や貴族連中には可能な限りヴァイト州は変わらず辺境のド田舎であり、一応数には入れるが捨て置いても良い場所の認識でいてもらいたいものだ。


 いつかは王都やそこに紐づいた人間が見聞きする機会あるだろうと予想してとはいえ今回の来訪は予想をちと外してるからな。


 そこから狂いが生じるのも困るので、ある程度手の内見せるが、勇少年と彼が心底信用してる相手以外口外厳禁だと釘はさしておくべきだな。


 時間にして十数分足らずの小休止の最中、俺は幾人かの顔を見つつ思案するのだった。

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