第85話ダンジョンどうでしょう~おみまいしていくぞぉ!(俺以外の奴が)~
それ以降、今までの空振りっぷりが嘘のように宝箱が出現した。
そして中身は金貨や貴金属類ばかりであった。
俗すぎる。せめてエリクサーぐらい入れとけよ。と、内心贅沢承知でボヤいたのは内緒な。
お金は冒険者にとって大事だし多くあるに越したことはない。こういうストレートなものは基本的に万人共通な価値あるものだから正解ともいえる。
けれどもそれはそれとして武器や宝具や様々なアイテムなどダンジョンだからこそ得られる物というのは欲しい所だろう。
冒険魂というか浪漫というか、感情に訴える寄りとも言えるがもう少しワクワク出来そうな要素があってもよかろうに。
ちなみにドキドキの方はお腹いっぱい通り越して破裂しそうなぐらい接取したからもういらんわ!
宝箱は一階層に一つか二つの頻度であるが魔物は相変わらずエンカウント率高すぎてうんざりする。
つくづく現地の冒険者じゃ無駄に死人量産するような殺意高いとこだ。帰還後のヒュプシュさんらの青ざめた顔が見物だわ。
マシロとクロエが適当にぶん殴っては適当にアイテムボックスに放り込まれていく。最早この場の誰も確認すらしなくなったので結果は帰還してからのお楽しみ状態。
冒険者ギルドの人らには精々驚愕に震えながら徹夜仕事をやってもらいたいもんだな。美味しいとこばかり取られるのも癪に障るし。
しかしいつになったら終わってくれるのかなこれ。
四日目が過ぎて五日目となってと、州都で日に日に溜まってるであろう決済案件への不安が燻り続ける以外は順調であったが、ついにお望みな終わりがやってきた。
二十三層目。そこに降り立った時に目にしたのは巨人が余裕で潜れる程に大きな石造りの扉であった。
マシロやクロエぐらいパワーあるなら問題ないが、これは通常開けるの無理ではないのか?苦労してやってきた末にこれとか苦情殺到もんではないか?
疑惑と不安が過りつつ少し調べてみたが結果は杞憂に終わった。
扉の隅にある柱部分に見るからに何か仕掛けがありますよ的なレバータイプの器具を発見。おそらく物理以外でも扉開く為のカラクリみたいなものと思われた。
何人たりとも通さぬ。とかいう仕様にはどんな高難易度になろうともそうならないのがダンジョンの不思議なところだ。
意地の悪い考え方すれば僅かでも希望をチラつかせて犠牲者呼び寄せようとするそこはかとないドSを感じたりもする。
俺のダンジョン論評はさておき、すぐさま突入するべきかと思案したもののマシロとクロエから「明日でよくね?もういい時間だからひとまず休んでからでいいよー」と意見が出たので放棄。
二人に疲労は見えないが、確かに斃した後に帰る事も考慮したら朝一で倒して出発の方がいいかもしれんな。
倒す前提なのも俺の感覚も大分麻痺してるかもしれんが、そこは無視して俺はキィらに休息を告げる事に。
心身の疲れに加えて眼前に飛び込んできた、いかにもデカい何か扉の向こうに居そうな事態に絶望しかけてるのか、キィ達は焚火を起こした後はそれを囲んでダンマリ決め込んでしまっていた。
ここまで含めて戦う事は一切なかったとはいえ、自分達では成す術もないような魔物らの出現ラッシュを数日かけて体験すればそうもなろうよ。
気持ちはよく分かるので俺は何も言わずに視線を彼らからマシロとクロエの方へ向きなおした。
いつもと変わらぬ様子で携帯コンロで湯を沸かしたりカップを取り出す二人を見てると、そのブレなさは危地において頼もしくもあり、同時になんか無性に腹も立ったりもする。
おめーらの方は少しはブレろや。加害者の分際で平然と茶を飲んでるんじゃあないよ。
露骨に舌打ちしたげな顔をする俺に気づいたマシロとクロエは鼻で笑って流してしまう。
「ラスボス戦前にして今更どうこう言わないでよー。どんだけ根に持ってるのー。ネチッこい男はモテないぞー?」
「拉致加害者が笑いながらほざく台詞じゃないよな?この期に及んで謝れとまでは言わんが少しは俺に申し訳ないとか思えよド畜生ども」
「反省してまーすー」
「おうこの時代身分高いやつが下のやつを斬り捨て御免しても割と許される愚かで馬鹿みたいな風潮あるの忘れるなよ?俺の身分伯爵様で節令使様なの忘れてるなよ?」
「くくく、無駄な体力ゲージはダウナーな根源。温存すべきパワーは踏みとどまりしクラージュなタイム」
「何言ってるか分からんが、やるだけ無駄と嘲笑されてるのは分かったぞこんにゃろう」
舌打ちしたげな顔してたがそのまま大きな舌打ちをする。
そんな俺の様子をゲラゲラ笑いながらマシロがカップを渡してくる。中を見るとお湯と共にティーバッグが入ってる。
「セイロンティーのやつでいいよねー?答えはきいてないとか言ってみたりー」
「……この世界と時代にそぐわないようなブツをお手軽に出すなってるだろが。なんでもアリすぎだろ常識的に考えて」
「あれー?アッサムとか烏龍茶のがよかったー?」
「うるせー馬鹿!そういう意味じゃねーよ!?てか分かってて言ってるだろテメェら!?」
まぁこんな状況でいつもみたいな毒の吐きあいしてる俺もキィ達からすれば異常者側になるんだろうな。
正直俺だって恐怖のあまり頭抱えて寝込みたいよ。だけどもうここまできたら腹くくるしかないじゃないか。
はてさてこの扉の向こうには何が居る事やら。
100%ロクでもねぇのが居座ってるのだけは確定してるんだけどなぁ……。
翌朝。何事もなければ、行き限定で言うなら最終日をついに迎えることとなった。
ここまでの精神的疲労と扉の向こうの存在を想像するだけで込み上げてくる恐怖に苛まれて俺達はロクに眠れなかった。その中に当たり前だがマシロとクロエは含まれてない。
朝食も水と干し肉を一枚齧っただけだ。俺ですら流石に緊張を完全には振り払えないようだ。
傍らに居るド畜生どもはアイテムボックスから卵を取り出して目玉焼きを作り、これまたアイテムボックスから取り出した黒パンに乗せて「いえーい、ジ〇リ飯ー」とふざけた事を言いながら食べていた。
主戦力というか唯一の戦力の平常運転に一々ツッコミする気力もないので俺は食べ終わるまでの間に身支度を整えることにした。
そんなこんなで起床から一時間後には俺達は改めて扉の前へ立つことに。
昨晩確認していた扉の隅にあるレバータイプの器具。こちらは特に奇をてらったようなものではないらしく、トューハァトの一人がやや苦労しつつレバーを引き上げると同時に扉が軋むような音を立てだした。
時間にして十数秒経過した後に音は止まる。特に変化が見受けられないのでキィ達に扉を調べるよう指示を出した。
差ほど間を置かずに効果が確認出来た。どうやらレバーのアレは解除キーみたいなものだったらしい。
巨人が余裕で出入り出来るような大きく厚い扉であるが、解除されたと同時に大の大人二、三人が押すだけで扉が開きだした。しばらく押していくとバイクも通れるほどの隙間が眼前に出来ていた。
さて後は突入あるのみだが、ここからだと薄暗くてよく見えないな。やはり入らないと分からんか。
「別に言うまでもないが、一応最後の階層だから言わせてもらう。各員前進せよ」
「はい了解ー」
「くくく、ゴートゥークエスチョンの果てをいざ見にゆかんとする」
俺の掛け声と共にマシロとクロエ、そして俺を乗せたバイクが動き出す。数歩遅れて武器を固く握りしめたキィ達が追ってくる。
二十三階層目は今までの階層を一つの部屋にしたような広さ。と、なんとなく感じた。
前も左右も上も果てが見えない。薄暗いのを差し引いたとしてもかなり広い場所かもしれん。
空気の流れは感じるから狭くはないのだろうが、それにしても何が出てくるか分からない異様さを際立たせてるような大きな部屋だ。去年急増した会場よりデカいんじゃないのかもしかして。
そんな状況で唐突に思い出すのは前世の頃。
ゲーム好きな親戚が居て、彼が自宅で古臭いゲームやってたのを子供の頃隣で観てた覚えがある。
確かダンジョンRPGで太ったおっさんを操作してモンスター蔓延るダンジョンを攻略するやつだったか、そのゲームで何層かに一回は大きな部屋にモンスターが密集してるような最悪な仕掛けがあったような。
そういう思い出浮かんだからか、最後の場所だから今までの魔物が一斉に襲い掛かってくるとかいう嫌な全員集合オールスターズ想像してしまった。
けれども少なくとも見える範囲では気配はまったくない。ここまでの経験だと既に何かしら姿見せてる筈なのだが。
肩透かし喰らう気分を味わうには、しかし空気が何故か重いのだ。
威圧感というか、嫌な予感を絶え間なく訴えるような殺気が肌を嬲ってるような。
他の者も同じなのか、互いに不安げに顔を見合わせつつ自然と戦闘態勢をとりつつあった。
マシロとクロエは無言で前方を見据えてる。二人は既に何か感知してるのか。
疑惑が解消されるのにあまり時間は掛からなかった。
最初は遠くからの地響きと言われないと気づかない程度の揺れだった。
それが少しずつ大きくなり、やがて部屋全体に響くような唸り声が鼓膜を叩いてくる。
音と揺れの発生源は先程からマシロとクロエが見ている方角。
暴れ出そうとする恐怖心を押さえつけつつ俺達は同じ方向を見る。
地響きは一歩ごとに大きくなり震度で言うなら三か四は軽くあるであろう揺れに身体を揺さぶられる。サイドカーに乗ってる俺ですらそうなのだからキィ達は武器を杖にしたり片膝ついて倒れまいと苦心していた。
こんな状態というのに揺れなどないかのように平然と立ち続けてるマシロとクロエ。
どんなバランス感覚してるんだよ。と、普通なら言いたくもなるが、それを言う前に俺は絶句することになった。
薄暗い場所でも一目で巨大な存在と分かるソレが俺達を見下ろしていた。
去年のクラーケンの倍以上は確実にあるであろうデカさ。その巨体に相応しい太く大きな翼が不気味に揺れている。
灰色気味な黒色の鱗がギラギラと全身を煌めかせており、オーガの牙よりも太い刺が長い尻尾に幾つも生えていた。
そして、なによりも異様なのは頭部。
ソレは双頭の竜であった。
二つのドラゴンの首が四つの目をギラつかせつつ俺達を見下ろしていた。
双頭竜。もしくはダブルヘッドドラゴン。
この世界のドラゴンの一種であり、Sランク指定されている災害クラスの魔物の一種でもある。
口を大開きにして見上げたまま硬直。辛うじて思考停止はしなかったが、気分的には逃避待ったなしだ。
双頭竜が出す唸り声や地響きの大きさが聴覚を占めている中で近場にて小さな別の音が聞こえた。鎧や武器を鳴らす音と共に何かが倒れる音だ。
意識や五感が前に居る巨大なドラゴンに向いてるので確認は出来ない。なので僅かに動けてる脳細胞回転させて察するにキィらが気絶して倒れたのであろう。
完全にメンタルのトドメさされたようなもんだよな。
冷静そうなコメントが頭に浮かんでるけど俺も絶賛恐怖に打ち震えてる最中なんだよ。
硬直してる上に少しずつ震えまで出始めてる。漏らしてないだけマシとはいえ相手側の出方次第では一線も二線も超えかねない醜態晒すわこれ。
醜態だけで済めばいいが下手しなくても死ぬかもしれなくね?
大いにあり得る現実に俺は声に成らないうめき声をあげるしかなかった。
やっぱり恥も外聞も捨てれるだけ捨てて途中リタイアを強行させるべきだった。ここまで来てしまったことを「仕方がない」で済ますんではなかった。
更に後悔の念まで伸し掛かってきて発狂寸前の叫びを挙げそうになった。いや正直に言えばあと十秒もあればそうしてたかもしれん。
だがそうはならずに済んだ。
「わーデカいわー。でも半端なデザインねー。頭もう一つ増やして全身金色にしたらもうちょい有名になりそうなルックスしてるのにねー」
「くくく、ゴールデンなヴィーナススターが古な設定のモンスター。半端な外見は滑稽なコッペリアの見掛け倒し」
「……えぇ…………」
前に居るマシロとクロエは双頭竜に睨まれてるこの状況下でも平然としたものであった。そのあまりにもいつも通りな発言が俺の心を辛うじて踏みとどまらせる。
だけどねそれはそれとしてお前ら空気読め!?
いや君らそこに居るのSランクだからね?AやA+よりも一段上の災害級の脅威と恐れられるヤバイやつだからね?
王都に居た時にもSのやつ討伐したことは知ってるよ。確かベヒーモスとかいうの二匹倒してみせたとか言ってたし報告も聞いてるからね。
だけどなんかイメージ的にドラゴンていうのが強いイメージ想像しやすい分かなりヤバめに思えてしまうんだよ俺。
お前らが出鱈目な強さ持ってるの分かってるけどさ、これ本当に俺とか無事に帰れる?倒せたとしても巻き添えで大惨事とか嫌だよ?
俺がいっぱいいっぱいな心境の中、見下ろしてる人間共で恐れ入ってない存在に気づいた双頭竜が低い唸り声を再び上げた。
「愚、カナ……人間ドモ、我ヲ、恐レヌトハ……不敬ナ…………スグ贖ナワセテヤルゾ……アァ、スグ殺シテヤル……」
重いものが軋むような声が双頭竜の口から漏れ出る。
竜種はワイバーンなどの低位はともかくある程度格の高い奴らは簡単な人語を喋れるとは聞いたことがある。しかしいざ聴くと喋る事に驚きもするし低く重い地の底から湧くような暗い声音は背筋を寒くさせる。
だが双頭竜の脅しにマシロとクロエはなんら感じ入る事もなかったらしい。なにせ見るからに微動だにしてないのだ。
後ろに居る俺は今のアイツらがどんな顔してるか分からないが、次の発言から概ね想像は出来る気がした。
「図体デカいだけのトカゲが何を偉そうにほざくのよー。来たら居たし居たからぶっ殺すってだけよー」
「くくく、ジャイアントキリングの問う質。二つ頭の潰れる音色の狂乱狂騒曲の調べをインテンスすべし」
二人のストレートな煽りに面食らったのか双頭竜は数瞬程沈黙したが、すぐ様怒りの咆哮を挙げて翼や尻尾を大仰に動かしだした。
鼓膜が割れそうな響きと翼の風圧に溜まらず耳を塞いでサイドカーの席上で反射的に前かがみになってしまった。
攻撃が来る恐れもあるので警戒しつつ耳を塞いだまま恐る恐る顔を挙げる。
「おーいリュガ生きてるー?鼓膜大丈夫ー?聞こえてるー?」
「はぁっ!?」
眼前にマシロの顔が飛び込んできて思わず声を上げかけてしまった。
いやお前双頭竜が今まさに攻撃してこようとしてるのに何を背を向けてるんだよ!?油断ってレベルじゃねーぞ!!
「あぁうん一応アンタとか近くに転がってる雑魚連中守らなきゃって思い出してさー。私が今回は守備でクロエが攻撃役でー」
言われてみてみると、後ろに下がったマシロとは反対にクロエは数歩前に出ている。双頭竜と単独で対峙してる様相となっていることに俺は再度声を上げた。
「いやいやいやいや!?幾らクロエでもアレを一人とかヤバイだろ!?」
「いやいやー大丈夫よー」
「なんで自信満々通り越してさも当然のような口ぶりと平気な顔してるのお前!?」
「図体デカいだけのトカゲ如きにクロエが負けるわけないじゃない」
「……」
この時だけふざけ一切無しの真顔ガチトーンで即返答されてしまい俺はこれ以上抗議の声を上げられなかった。
果たしてこの一戦どうなるんだろう。
知識チート持ち転生者な筈なのに、今の俺はただただ震えがりつつ次元の違うチートの戦いを見守るしかない無力な存在であった。
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