第76話次来るときはどう発展してますかね

 目視でササッと確認してみると十数人ぐらいか。全員馬に乗って奇声あげつつこちらへ向かってるな。


 こっちはお供含めて何十人も居るのにどんだけ強気なんだよ。


 まぁヒャッハーに考えることなんて難しいとはいえだ。どこから監視してたが知らないがこちら人数だけは多いのを見越しての襲撃だろうな。


 なにせ数だけなら三、四倍とはいえ半分はほぼ丸腰なわけだからな。馬で蹴散らして持ってる刃物適当に振り回せばどうにかなるとか思ってるんだろ。


 俺がそう思考してた僅かな時間でモモやターロンら護衛組は抜刀して構えを取り、ヴェークさんらは腰に下げてた呼び出し用の鐘や笛を鳴らしつつ後ろの方へ下がる。


 俺もモモ達の邪魔にならないよいに平成と一緒に壁際まで下がろうとしたときであった。


「黄昏よりも暗き存在、血の流れよりも……えーとなんだっけ。とりあえずドラグなんとかをドーン」


 なんだか著作権という三文字が背中を掻いてくるかのような事をのたもうたマシロの指先から一筋の閃光が走った瞬間、あと十秒足らずでこちらと正面衝突する勢いで突っ込んできそうな賊らが馬諸共四散絶命した。


 いやそれ絶対呪文と内容不一致だよね?知らねーけど直感がNOと叫んでるからね?


 などと思ったがツッコミする空気ではないので沈黙。


 奇声と馬蹄の響きは絶えてつい先程までの静寂が戻る。立っているのもマシロより後ろに居た俺達だけである。


 いや、よく見ると人と馬の死体の後ろの方で二、三人がバラバラになった馬に縋りつきつつあまりの事に驚愕の体で竦んでいる。どうやらやや遅れて移動してた故にマシロの超絶手加減攻撃を免れたらしい。


 自失から立ち直るのが早いのは何度も見ていて耐性のある俺らの方だ。俺はすぐさまターロンらに命じて生き残ってる賊の捕縛を命じた。


 生き残りの賊らは捕縛されて俺の前に引きずり出された時点でようやく我に返ったのか青ざめて狼狽しだす。


 無理もないよな。数秒前まで前を走ってた仲間が次の瞬間サイコロステーキになってしまうんだから。


 僅かながら気の毒には思うが賊は賊だきっちり情報絞り出した後は裁かないとな治安維持的に考えて。


 縄を掛けられ背後でモモやターロンに刃を向けられてる賊らは俺が節令使だと名乗ると絶句してしまい恐怖も忘れてこちらを凝視する。


 他の護衛らが「無礼な!」と言って頭を押さえつけるのを見た後に俺は直々に問いかけを行った。


「単刀直入に訊ねよう。お前らはこの場に居るだけか、それともどこかの大きい賊にでも所属してるのか」


 最初は口をモゴモゴさせて喋ろうとしなかった賊らであったが、刃の先端が顔や耳に押し付けられて一筋の血が流れ出ると共に小石程残ってた反骨も消え失せて語り出した。


 こいつらは最近ヴァッサーマン州のピーノ県で暴れて出したというマオスという賊の配下と名乗った。


 マオスという男は元々その県のとある村でいわゆる不良とかワルとか言われる類の問題児だったらしく数年前までは村の嫌われ者だった。


 しかし図体もデカくて腕力もそれなりにあったので村を飛び出して数人の手下と共に野盗をして生活しだした。


 社会の片隅で悪さしてた不良上がりが急に規模を大きくし出したのはここ一、二年。不況や社会全般の疲弊の陰りがはみ出し者を生み出していき、マオスは彼なりに努力してそういうのを拾って手下にしていったというのだ。


 今では二〇〇人近くの人数を擁しておりピーノ県では悪名高き野盗集団として恐れられてる存在であるという。


 ピーノ県はこの関所及び森林地帯と隣接しているのでこの辺りも彼ら的には一応見回る範囲にあるのだが、去年の秋の終わりにたまたまやってきたら関所付近が急に人や物の往来が増えてきたのを発見。


 たまに気まぐれで寄っていた所で思わぬ発見をした彼らは当面様子見をしていき、やがて何かしら奪えそうなものが多くあると踏むに至る。


 今回は先行偵察目的であるが場合によっては略奪一番乗りも視野に入れての出撃だったのであれほど威勢が良かったのだという。


 とまぁ聞きだした事は概ね以上の事だ。


 賊といっても場合によっては圧政や苛政に反抗する反乱分子的な意味合いのもあるのだが、今回遭遇したのは本当に文字通りの賊である。


 そうなると対処レベルは国家規模でなく地元の行政お任せになる。つまりヴァッサーマン州節令使が責任もって対処して始末すべき案件なわけだ。


 この件で俺がやるべき事を把握したので次は目の前の事を処理だな。


 つまりまぁあれですわ。


「そうかお前達の話をとりあえず信じるとしよう。しかしなこの度の節令使襲撃及び強盗行為は看過しきれないものなのでこの自白によって罪を消すわけにはいかない。よってお前らはこの場において斬首とする」


「はぁっ!?」


 言われるがままに知ってる事を白状したというのにこの場で裁判なしで死刑となった事に当たり前だが賊らは絶句する。


 そもそも強盗行為はともかく俺を節令使と知らずに襲ったわけだから即死刑は抗議の一つも上げたくなるだろうし近代法治国家じゃ100%無理だ。


 だがしかしここは中世文明。その時点での権力者の一声で割とどうこうなるのが良くも悪くも成立してしまう野蛮な世界なんですよこれが。


 こういうヒャッハーは生かしておいてても後々確実にトラブルから消せるときに消してた方が賢明だ。降伏した賊を戦力に組み込む段階ではないしなまだこっちは。


 などということを一々口には出さずに俺はしかめっ面のままに左右に居る護衛らに無言で指示を出す。


 心得てるターロンやモモが賊らが絶句して硬直してる隙に問答無用で首を刎ねていく。


 これに関しては武芸や血生臭いことにあまり縁のないヴェークさんら工事関係者も何も言わなかった。彼らからすれば仕事を妨害して人命や物を奪う輩なぞ死んでもさして心が痛まないからな。


 この場で唯一平成がグロ光景を直視しないように目をほぼ瞑りつつ俺の方に何か言いたげな顔をしていたがあえて無視した。


 言いたい事は分かるが言ってくれるな純正現代日本人。


 俺が言うのもあれだがお前さんが来たのはこういう世界なんだよ。どこぞの世紀末世界が舞台の漫画よりマシだと割り切ってくれや。


 刎ねた後は、俺はヴェークさんら現場作業側から人手を寄こして貰ってサイコロステーキ状態になってる死体共々火葬と埋蔵を頼むことにした。無論、仏心ではなく死体野ざらしにしてるとそれ目当ての魔物がやってくる恐れがあるからだ。


 急に無駄な仕事が一つ増えた事で作業現場が些か騒がしくなってるの尻目に俺はターロンの傍に歩み寄った。


「ターロンちとばかし頼みがある」


「なんでしょうか坊ちゃん……じゃなく節令使様」


「今いる護衛連中率いてこの後ヴァッサーマン州の州都へ赴いてそこの節令使に会ってきてくれ。ついでに通るとこだけでいいからあそこの様子見なんかもして欲しい」


 目的は放置しておけば日ごとに人数増やしかねない賊の存在を知らせて対処してもらう為とあとは言ったとおり他州の現況を少しばかり知っておきたい。


「ははぁ新年早々ちょっとした大仕事ですな。退屈しないのは良きことではありますが人使いの荒いことで」


 口ではそう言いながらも基本的に何か行動するのが好きな昔馴染みの部下は楽し気な笑みを浮かべつつ頷き返す。


 手順や形式踏むなら一旦州都へ帰還して役人の中から選抜して送り出すのがいいんだろうが、さっさと済ませたい故にこの場でベストなチョイスをしたわけだ。


 顔見知りだから信が置けるし武芸に優れてるから今のご時世でも少人数で行動させても安心。しかも今の時代どころか現代地球でも巨漢と称せるガタイの良さもあるから適当に綺麗な服でも着せとけば見栄えもたつ。


 俺は懐から金貨を十枚程取り出してターロンに押し付けた。彼とその部下の当面の活動費と現地で使者っぽい服を買う程度はこれで出来るだろう。


 その前に節令使に宛てた書状作成せんといかんから一旦関所のとこまで戻らないといけないがな。


 ターロンらが護衛組が不在になってもモモら部族部隊だけでも俺の守りは十分だろう。つーかそもそもマシロとクロエ居る時点でいらんという現実。


 現場作業員らに後始末を任せて俺達は一旦関所にある休憩所へ戻ってきた。


 戻ってまずやったのは紙とペンを手に取ってつい今起きた事に関する報告と苦情混じりの警告を記すこと。


 戻る間に考えていたのでさっさと書き上げて印を捺す。しばし待ってインク乾いたのを確認して俺はそれを控えていたターロンに手渡した。


「遅くても諸々済ますには半月ぐらいといったとこか。道中気をつけていけよ」


「了解です。それにしてもまぁ来て早々この関所防衛強化やるべき説得力を目にするとは、坊ちゃんはそういう引き運ありますなぁ」


「おいやめろそういうのいらねーから。少なくともあんなの遭遇するの今年初で最後にしたいわ」


 溜息交じりの愚痴を聞いたターロンが豪快な笑い声挙げつつ一礼して去っていく。護衛部隊の面々を俺に頭を下げつつ彼に付いていった。


 ターロンらが去っていったのを見計らい今度はヴェークさんが声をかけてくる。


「それにしても伯のお陰で助かりました事お礼申し上げます。たかが十数人だったとはいえ、刃物持っていきなり襲われたら私らなんぞひとたまりもなかったでしょう」


「礼なら私の傍に控えてるマシロに。私も武芸の手ほどき受けてるとはいえ精々一人二人斬り捨てるのが関の山だったでしょうから」


 モモ達も居たとはいえマシロが数瞬早く発見してくれたから退避や構えを取る余裕が生じたのだ。それがなければ乱戦で怪我人ぐらいは避けられなかっただろう。


 ちょっとした手柄を立てた本人は既に忘却済にしてるのか俺の後ろでクロエと共にモモらを引っ張ってボードゲームやりだそうとしてた。


 うんまぁ室内に居るし俺から離れてるわけではないから別にいいんだけどね。普通なら護衛としてどうかと思うよその態度。とはツッコミしたくなるけどね。


 困惑した視線を俺と後ろのド畜生二人に交互に向けるヴェークさんに俺は咳払いを一つして断ち切らせた。


「しかしながらまだ勢力としては取るに足らないにしても今後の国……いや近隣の治安情勢を考慮すれば要塞の一日でも早い強化は進めていくべきでしょうな」


 まだだ。まだ流石に国規模で論じるにはちと早いかもしれない。俺は想定しててもヴェークさんらにはまだたかが地方の治安悪化にしか思われないだろうから。


「確かに。ですがレーワン伯、土台になる石材の確保がまだ十分ではないので当面は木材を積んで土や泥で火付け対策を行うぐらいしか出来そうにないかと」


 単にデカい石を適当に積むだけなら周囲は大山脈なのでちょいと探せば手ごろな大きさの石なんて簡単に入手は出来る。


 しかしここを本格的な防衛拠点として末永く活用するにはそんな手抜きは選べない。城一つ造る感覚で挑むならばちゃんと形を整えた巨石を積んでいきたいとこだ。


 だが基本的に工作機械の類なぞ存在しないこの世界においては均等に形整った石を作るには時間は必要となる。


 そこで俺は一つの案を出すことにした。面倒な作業ではあるが材料あればここでもやれる上に巨石を槌とノミでチマチマ削るよりかはマシであろう案。


 セメント造ってコンクリート量産だ。


 地球の歴史では古代ローマ時代には存在して活用されてた由緒ある建築素材だ。今もなお当たり前のように使われてる信用高いものでもある。


 そんだけの代物なんだから多分この世界のどっかでも類似品は絶対ある。ここやこの近辺の国ではないだけだろう恐らくは。


 木か石で建築物おっ建てるの主流なとこならコンクリート製のモノは驚きの存在となるだろう。壁を分厚くして鉄筋で補強すれば百年以上は余裕で持ち堪える点も石造りの建物にも負けないものがある。


 案の定ヴェークさんら大工関係者はコンクリートと言ってもよく分からない顔をして首を傾げた。「人工的に石を作るみたいなものですかな?」と反応してくれただけ上出来だ。


 なので俺は知識スキル使いつつ紙に概要書きつつどういったものかの説明から始まり、セメントをはじめとする材料、製造施設(ここでやるには現場練り式になるだろう)、施工の流れや継続した管理方法などを細々と語った。


 質問に答えつつだったので一通り語り終えてとりあえず納得してもらったときには既に日が暮れかけていた。


 モモら部族部隊の面々は自重してたがマシロとクロエは勝手にどこから持ち込んだか分からない夕飯を食べだしていた。


 部族の面々自重してたとはいえ、最初はゲームに参加してた上に途中で俺の話に耳を傾けたものの話理解出来ずに居眠りこいてやがった。


 あの真面目なモモですら最後辺り眠気と戦う為なのかいつも以上に顔面に不機嫌さを刻み付けていた。まぁ座学で眠気との戦いは前世の学生時代に身に覚えあるから別に咎めはせんけどよ。


 喋り続けて喉が渇いたのでコップでなく皿の方に水を満たして飲み干す。飲みつつヴェークさんらの方をチラリと見ると、彼らは俺の書いたセメントやコンクリートに関する説明を熱心に読みながら興奮気味に話し合っていた。


「これは凄い。最初の製造施設建設などが骨折れそうですが、上手く稼働に持っていければ一々石材を削り出すよりかは捗りそうですな!」


「まぁ先程説明したとおり言う程簡単なものではないですけどね。強度確保の為に養生期間も必要なので大規模工事ならまだしもさっさと家造るだけとかなら時間がかかりすぎる代物なので」


 謙遜でなく割とマジな話である。欠点羅列してやる気削ぐわけにはいかないが、場合によっては木や石より駄目なとこもあるのも事実なんだからコンクリート。


 そもそもまずセメント用意する為の簡素でいいから製造施設造るとこから始めないといけないわけで。今の人数でやれんこともないが建設速度鈍らせたくないから悩みどころだ。


 やはり州都に戻ったらすぐに人材派遣すべきだな。幸い今日も含めて州の内外から求人見てやってきた人らがそこそこ居るから数は搔き集めれそうだ。


 護衛の為の兵士はどうするかねぇ。ひとまず州都の警備に回してるのを派遣して凌ぐか。空いた穴は民間で穴埋めするとして。


 一つ対策建てても課題が山積みだから解決した感ないものだ。こんな事がまだ当面続くんだから気が滅入る。


 けど厚く高いコンクリートの壁を築き上げることが出来たのなら安心度は高まるから必要だ。と、この事業開始してから何十回目かの言い聞かせをすることで折り合いをつける。


 俺は提示した。後はヴェークさんら現地の人らの実力信じて結果を待つのみだ。


 次に訪れるのは春半ばに商都へ行くときだろう。


 その時にはどれほど変わり映えしてるのか楽しみなもんだねぇ。


 こうして俺の要塞建設現場視察の夜は更けていくのであった。

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