第四章 ききをだっしよう
Rev.1
身の丈程はある古い槍を小脇に抱えて歩くというのは、結構な重労働であった。それまで街中をバタバタと駆けずり回って体力を消耗していたのも相まって、俺の体力はガンガン削られていった。しかしながら、そんな労力を費やしたとしてもやらなければならないことがあった。
俺達は受付の前を三度通り、資料館の中へと入っていった。受付はもはや素通りであった。俺達は顔を暗く下げてショボくれながら歩いた。向かうのはこの槍があったところ、係員の所であった。
「どうしたの。嘲笑いにでも来たのかい。」
彼がやさぐれた様子で尋ねてきたので、俺は言った。
「…これどうやって使うの。」
これとは即ち槍のことである。宝玉を取り付けて輝いているこの槍を、どう使えばあの隕石を、生物を、鮫を倒せるのか。それを知りたかった。それを知っていそうなのは、今のところこの男しか知らなかった。
だが彼の答えはある意味予想通りであり、ある意味期待外れだった。
「知らないよそんなこと。」
まぁ、そうだろうな、とは思っていた。だが、だとすればどうすればいいだろうか。そこで彼は一つ提案というか方向性を提示してくれた。
「まだ時間はあるし、このフロアの掛け軸とか調べてみたら?何か書いてあるかもしれないよ。」
それしか方法が無さそうである。残り約二時間。丘に向かうまでに掛かるのは三十分程度。一時間は時間が割けるだろう。俺と声子はフロア内を一通り見てみることにした。
五十嵐資料館は他の資料館よりも『炎と海の神の伝説』に関する物品が多かった。殆どの解説パネルや展示物は既知の情報ばかりであったが、一つだけ目新しいものがあった。古びた本であった。所謂古文書という奴である。
「素敵ね…。このボロボロの表紙と綺麗な中身が何とも神秘的じゃない…。」
声子が恍惚とした顔で言った。こいつはオカルトマニアというより、ロマンチストというか雑食というか、不思議なものなら何でもいいんじゃないか。
それは置いておこう。重要なのは中身である。そろりそろりと傷つけないよう、表紙がこれ以上崩壊しないように細心の注意を払いながら、その本を開く。
文字が古過ぎて読めなかった。
当然と言えば当然である。俺は歴史家ではない。古文は学んだことはあるが授業の一環程度で、しかも文字が読めない事など無かった。そもそも文字が読めないのにそれを解き明かすも何も無い。
声子に尋ねて見たが、俺と同じく読めなかった。係員も同様である。念のため受付にも聞いて見たが、言わずもがなという奴であった。
「誰も読めないんじゃどーにもならないじゃんかよぉ。」
俺は思わずボヤいた。
「じゃあ方法は一つね…。」
声子が溜息混じりに言った。
「というわけでよろしく。」
天に向かって。
『どういうわけなのか説明を乞う。』
「いやー、分かるでしょ?」
つまるところ彼女はこう言いたいのだ。"読めるようにしろ"と。それに関しては俺も同感であった。少なくとも誰かしら知識を有してくれないと困る。或いは読まずに何とかなるようにするか。どちらかは要求したいところであった。
作者は沈黙し、やがて諦めたように言った。
『仕方あるまい。丁度明太郎に何らかの役割や特別な能力が必要だと思っていたのだ。その、主人公としての資質的な物だけで無くだ。』
渋々ではあるが了承が得られたようである。…待て、俺?
『声子に古文書解読の役目まで任せるわけにはいかない。テレパシーが使えてグルグル眼鏡にオカルト好きで、更に古文書まで読めるのは流石に属性過多すぎるだろう。』
言われてみればまぁその通りではある。仕方ない。俺が担当することにしよう。
そして世界の時は巻き戻っていった。
「素敵ね…。このボロボロの表紙と綺麗な中身が何とも神秘的じゃない…。」
声子が恍惚とした顔で言った。こいつはオカルトマニアというより、ロマンチストというか雑食というか、不思議なものなら何でもいいんじゃないか。
それは置いておこう。重要なのは中身である。そろりそろりと傷つけないよう、表紙がこれ以上崩壊しないように細心の注意を払いながら、その本を開く。
その文字は古いながらも、俺にも読める内容であった。
「えー何々?『この街を襲った危機が再来した時に備えこれを記す』…。」
かつて隕石が落ちてきた時のことをまとめた資料のようである。
「え、読めるの?それ。」
声子が驚いたように尋ねてきた。むしろ読めないのかと返すと、全然と言われてしまった。そういえば昔、蔵にあったこの手の古文書を『読めたら面白そうだ』と思い、解読方法などを学んだことを思い出した。読めるのはその時の知識のお陰だろう。何が役に立つか分からないものである。俺はかつての自分に感謝しながら、ページを捲り、読み進める事にした。
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