第三章 x=?:??????????

Rev.1(x=2)

 呆然とする俺達の耳に、ジリリリリというけたたましい異音が舞い込んできた。何事かと思うと、向かいの銀行の盗難防止用アラームらしい。地球滅亡一歩手前にして、暴挙に走る者はどんどん多くなっているようだ。俺と声子は顔を見合わせ、アラームが付いていないショーケースから、例の槍を取り出した。重いがとりあえず持っておく。下手に目を離して無くなっていた、なんて事があったら笑えない。

 俺達は資料館の中をもう一度見直すことにした。伝承の中に何かしらの情報を求めていたのだ。今分かっている事は少なく、殆どが類推して求めた情報である。せめてもう少し裏付けなり、新たな情報が欲しかった。期待は出来ないが、とりあえず周りを見渡してみると、係の腕章を付けた男性が、最初の資料館で見たのに似た掛け軸を見つめていた。こちらに気づくと、手元の槍をを見て言った。

「あれ、それ…。」

 不味い、泥棒と思われてしまう。確かに実際のやっている事といえば完全に泥棒だが、それは理由があってのことだ。慌てて二人で斯く斯く然然と説明すると、

「なるほどねえ。確かに、どうにか出来るかもしれないなあ。」

と言い、大きく頷いた。個人的には驚いたのだが、彼は納得した様であった。

「ですよね!ですよね!きっとこの槍に何か人知を超えたスゥパァパゥワーが備わっていて、何か物凄いことが起きるんですよね!!」

 彼女は、頼むからそう言ってくれ、という顔で彼に尋ねた。すると彼は考え込んで

「今のままだと…わからないかなあ。」

と言った。何故ですかと問うと、彼は彼が見ていた掛け軸を指差した。

「これを見てみてくれ。」

 俺達はそれを見た。


 目を奪われる絵であった。

 空から降りてくる巨大な赤い男。その生物から舞う火の子で焼ける街並み。それを迎撃する青い女性。丘の上に立っており、俺が持っている槍と同じ形をしたものを持っていた。最初の資料館で見たそれに似ていたが、色彩はこちらの方がより鮮やかであった。時代について尋ねると江戸中期のものらしい。よくこれほどの状態で保管されていたものである。

 問題は細部に違いがあるという点であった。槍は今自分が持っているものより極めて巨大で、かつ光輝いている。そしてもう一つ。槍の中央に何かの宝玉のようなものがあった。それは虹色に光り、ギザギザで太陽のような形をしていた。赤い男についても違いがあった。巨大であることは変わらない。だが口には牙が生えている。また、前に見た絵では球状の何かを持っていたが、こちらでは球状のものは持っておらず、逆に背後にそれがあり、割れていた。まるで卵のように。

「この絵は…一ノ瀬資料館にあったものと違いますね。」

声子が言うと、係の人が肯定した。なんでも、一ノ瀬資料館にあったものよりも古く、より正確なのがこちらの掛け軸らしい。そして彼は続けた。

「この槍は実際に使われたと言われているので、恐らく何とか出来る力はあるんだろうね。ただ、この絵にある宝石が無いから、完璧じゃないんじゃないかなと思うんだ。」

 彼が伝承のことを知っていて何もしていなかったのもこれが原因らしい。仮に伝承が正しいとしても、今ある槍は不完全。落ちてくる本物の隕石に対抗出来るとは思えなかったので、半ば諦め気味に掛け軸を眺めていたとのことであった。それを聞いて俺達はまた溜息を吐いた。結局、どうにもならないのだろうか。諦めが二人の間に漂っていた。

「いや、待て、待って。…この宝石、どこかで見たわよ?」

 俺も見たことがあった。それにこの絵に描いてある場所。青い女性が立っている場所。これも覚えがあった。

「宝石は…そういえばこの形…。三枝展示館にあったような…。」

「この女性が立っているのは…そこから東に行ったところに街を見下ろせる丘があったよな?あそこじゃないか?」

 丘の形がそっくりだったような気がした。係の人も同意した。

「確かに似てるねえ。もしかしてあそこに行けばいいのかなあ。」

 その言葉を聞いて、俺と声子は顔を合わせて言った。

「「また戻るのぉ!?」」



 ここで世界は一度暗転した。もう時間は無い。文字数も。

「いい加減にしてくれ!!何度往復させるつもりだ!!」

「そうよ!!この資料館にあったことにすればいいじゃない!!丘もこの近くに移動させなさいよ!!」

 係の人が冷凍されたかのように動きを止めている中、俺と声子は天に向かって怒鳴り散らした。

「大体、あんな描写をしたから今から戻るなんて無理じゃないの!!後先考えなさいよ!!」

『いや…その…なんだ…申し訳ない…。』

 勢いに押されてか、どことなく力無く寂しそうに天の声、即ち作者は答えた。

『仕方ない…。ある程度地図まで書いたのだが書き直そう…。五十嵐資料館の近くにある事にするから許してくれ…。』

 作者が涙声で言った。

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