ラストアイス
浮谷真之
出会いは強引に
まだいる……。
紺色のセーラー服を着た幽霊を視野の片隅で捉えながら、俺は心の中でつぶやいた。霊感がある俺にとって幽霊は珍しいものではない。子供の頃から見慣れてるし、しょっちゅう部屋にも入ってくる。ただ、普通は入ってきてもすぐ出て行くのに、この幽霊はさっきからずっとここにいるから気味が悪い。まあ、顔は結構かわいいけど——。
!?
さりげなく顔をチラ見するつもりが、思わず二度見してしまった。女の子がスカートの裾を持ち上げてパンツを見せてたら、そりゃ男なら誰だって二度見する。罠だと気付いた時にはもう遅かった。
「あ、やっぱりー。私のこと見えてますよね?」
やべー、話しかけてきた。どうしよう。今まで飽きるほど幽霊を見てきたけど、会話したことは一度もない。大体、身内でもない人間に幽霊が用事なんてあるはずがない。これ、俗に言う悪霊ってやつなんじゃ? なんとなく、関わっちゃいけない気がする。
「もしもーし? おじさーん? もしかして、見えるけど声は聞こえないんですかー? もしそうなら頷いてくださーい」
そうだ、見えるけど聞こえないんだ。だから頷かない。そんな手には乗らない。俺はこの悪霊疑惑のある幽霊のことを頭からシャットアウトしてパソコンに向かい、大学のレポートに専念することにした。
「ぬぅ……もういいです。お邪魔しましたー」
しばらくするとそんな声が聞こえたが、手は止めない。念のため、何も聞こえなかったふりをしてキーボードを打ち続ける。お陰でだいぶ進みそうだ。
十分ほど経ってからさりげなく横を見ると、彼女はいなくなっていた。恐る恐る部屋の中を見回したが、どこにもいない。どうやら本当に出ていったようだ。俺はレポートを保存してパソコンを閉じ、シャワーを浴びることにした。
脱衣所の無いアパートなので、部屋の中で服を脱ぐ。そのまま浴室に入り、最初に全身を軽く洗い流した。そして、いつものようにシャンプーを頭でゴシゴシと泡立ててから、シャワーで泡をあらかた洗い流して目を開けた——。
「うわああぁぁぁ!」
ホラー映画ばりの光景に思わず絶叫してしまった。目の前の洗面器から、さっきの子が生首みたいに頭を出していたのだ。
「何? 何なの?」
っていうか、待てよ。その高さだと、ちょうど目線の先に……
「小さいですね」
「うるせぇ! 小さくねぇわ!」
「やっぱり聞こえてるんじゃないですか!」
はぁ、どうやら会話せざるを得なくなったようだ。とりあえず彼女には外に出てもらい、俺は残りのシャンプーをわざとゆっくり洗い流した。
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