第6話 夢の終わり

 二度とないと思ったから、行為の最中の麻衣子はとても素直だった。

 もっと来て、離れちゃいやとしがみついて、まるで娼婦のようだったから、たぶん彼も欲望をぶつけられたのだと思う。

 彼の大事な人は壊れやすい細工物のような少女だから。自分はちょうどいいはけ口になれると、うぬぼれていられた。

「痛かったか」

 けれど行為の後、包むように後ろから抱きしめられて、麻衣子はもう出ないと思っていた涙が流れた。

「全然」

「嘘ばかりつくな」

 唇を寄せて涙をなめられて、麻衣子は憮然とした。

 彼の言う通りだった。処女の血を流した体が、麻衣子の強がりを暴いていた。

「なんで初めてだって言わなかった」

 晃はまた怒ったように言う。

「振り向きもしない男などやめておけ。俺がお前の最初の男だ。それで不満か」

 そっか。私、初めてを晃にあげられたんだ。麻衣子はぼんやりとそれに気づいて、思わず笑った。

「麻衣子。答えろ」

 苛立たしげに名前を呼ばれるのも、晃だとこんなにうれしくて、哀しい。

 麻衣子は体を丸めて泣いた。晃は腕をほどかなかったから、息苦しいくらいだった。

「忘れるつもりだろう。……忘れさせるか」

 振り向かせられて、荒々しく口づけられた。足を開かされて、麻衣子の中に入ってくる。

 晃が何に苛立っているのかはわからなかったけれど、その行為の行きつく先はわかっていた。

 ……だめ、そんなに奥まで入ってきたら。繰り返し欲望をぶつけられた体は、麻衣子ではどうにもできない形を結んでいるかもしれなかった。

 嵐に翻弄される木の葉のように、昇っては落ちる。食い入るようにみつめる晃のまなざしだけが見えていた。

 晃が麻衣子を離したのは、明け方のことだった。

 抱き上げてシャワー室に連れて行かれて、体を洗われた。その頃には麻衣子は強がりも言えなくて、晃のなすがままだった。

 体から流れていく晃の残滓を惜しいと思いながら、これで終わりなのだとうつろな目で虚空を眺めていた。

 晃は麻衣子の体を拭き終わると、ガウンを着せてベッドに寝かせた。

「少しだけ夢を見ていろ」

 晃は屈んで、麻衣子の唇にキスを落とした。それは昨晩の嵐の中のキスとは違って、存外に優しいキスだった。

「……起きたら、俺と現実を歩くしかないと気づくから」

 子どものように頭をなでられて、麻衣子はその心地よさに目を閉じた。

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