第14話 炎上の海 白村江

 歴史書である旧唐書(きゅうとうしょ)は、語っております。


 中国の唐(とう)と朝鮮の新羅(しらぎ)の連合軍の、唐水軍(とうすいぐん)の大将、劉仁軌(りゅうじんき)は朝鮮半島、百済(くだら)近郊の白村江(はくすきのえ)で、倭軍(わぐん)と四戦し、倭軍の船 四百隻を焼き、その赤々とした炎と黒い煙は天を覆い、海は倭人兵の血で赤く染まる。


 そして、朝鮮での歴史書、三国史記では、


 倭国の船兵 来たり、百済(くだら)を助ける。和船、千艘 白村江に停り・・・


 日本、倭国としては、かなりの軍船を送り出し、朝鮮半島の当時の大国、百済の援軍にむかったようです。

 白村江の海戦は、日本軍、倭軍の劣勢で口火がきられました。

 最初から、唐の罠にはまった倭軍。

 倭軍、大和朝廷軍の中大兄皇子(なかのおおえのみこ)、大海皇子(おおあまのおうじ)の兄弟二人は急ぎ、数人の兵士達とともに、日本の東北の民である蝦夷(えみし)を成敗し、征服・制圧するという、大和朝廷の領地拡大と、基盤がためをする為の戦いで使用したのと同じような、単騎の帆船(現代ではウィンドサーフィンのような、小型シングルセーリングのようなもの)で参戦をした。

 その帆船は以前の蝦夷制圧(えみしせいあつ)の時の帆船とは違い、マストの帆を、銅板でパッチワークのように張り合わせをして、強固な盾(たて)としても働きを持つように、防御力を強化してある。

 そのうえ、帆船の先端部分には長い金属の刃が、何本も取り付けられている。帆船自体が、強力な刀になるようにしてある。

 そして、矢の先に火をつけるための風、波よけのついた、オリンピック聖火トーチのようなものが、種火が消えないように帆を操作するためのマスト、軸に取り付けられており、続けて何本でも火矢を射ることができるようになっている。

 以前とはくらべものにならないくらいに、補強、改造が施されておりました。

 中大兄皇子(なかのおおえのみこ)と、大海人皇子(おおあまのおうじ)の兄弟が、東北遠征での戦いから帰り、阿倍比羅夫将軍ひきいる日本海側の港を拠点とする海軍に残り、あれから次々に帆船を自分達の戦いやすい武器として改良を重ねてきたのでした。


 中大兄皇子(なかのおおえのみこ)、大海人皇子(おおあまのおうじ)、そして倭軍の兵士たちは次々に、浅瀬で動けなくなった倭軍の大型軍艦から、帆船ごと海に飛び込み、帆に風をうけ戦闘体制を整えるのでした。

 胸と胴を隠すだけの、軽量で簡易な鎧(よろい)と、頭にがんじょうな革を巻き付け、兜(かぶと)の代わりにしている。

 そして、帆の操舵棒を胸に縄でくくりつけ、両手を自由にし、自由に弓を射る体制にある。

 兵士たちの中には、矢の先に火をつけて敵艦めがけて、次々に弓を射るものたちもいる。


 唐(とう)・新羅(しらぎ)の連合軍は、倭軍船団を挟み撃ちにしながら、さらに、倭軍(わぐん)の戦艦1艘を倭戦艦より小型の戦艦2艘ではさみうちにして、左右両側から攻撃を仕掛けておりました。

 相手は小ぶりの戦艦とはいえ、倭軍めがけて片側に集中する新羅・唐連合軍の二艘(そう)と、左右両側の二方向を相手にしければならない倭軍の戦艦となってしまいました。

 一対二の戦いに、倭軍の戦艦は一艘づつ火だるまとなり、沈められていったのである。

 中大兄皇子(なかのおおえのみこ)ひきいる、倭軍の単騎の帆船軍団は、敵戦艦の合い間を駆け巡り、火矢、弓矢で果敢に戦った。

 中大兄皇子は、まず、燃え盛る船の間を吹き抜ける風と、高い波を利用して帆船を空高くジャンプさせ、そして敵艦の片端に飛び落ちるように船体を叩きつける。

 そして次に続く部下の帆船が間をあけず同じように、同じところに、自身の船体を叩きつける。敵の艦船は、片揺(かたゆ)れがどんどん大きくなり、そして、ついには大揺れして転覆(てんぷく)してしまう。

 また、先端の刀のような部分を相手の船に何度も繰り返しあてて、穴をあけて浸水させる。

 後ろななめに控える護衛役の部隊は、その敵艦めがけて火矢を次々と射る。援護射撃ともいえるが、敵艦を炎上させるのが目的である。

 皇子たちの護衛にまわった隊員は大変である。緊張する。後ろから皇子に、帆船の船体の先の刀があたらないよう気が気ではない。

 帆船にブレーキなどない。

 帆いっぱいに取り込んで受けている風を逃がすか、帆を逆にして、逆風を受け、 バックするように止まるか。

 左右前後に向きを変えながら大変な技術である。

 選りすぐりの訓練された兵士たちである。

 中大兄皇子らは三隻一組で船体の合間を縫(ぬ)うように走り回る。


 敵船から大量の弓矢が雨、霰(あられ)のように飛んでくるが、それに向かっていく場合は、銅板で補強されたマストで防御し避けている。しかし、ジャイブしてターンをした場合、相手に背を向けるかたちになってしまう。

 ジグザグに帆船を操り、後ろから飛んでくる敵の矢は避けるしかない。

 後ろを見る訳にはいかない。

 中大兄皇子も、大海人皇子も、おのおの隊列を組んでおり、後ろに護衛が二艘ついていました。

 Uターンしてから、後ろからの敵の攻撃には、防ぎようもなく、防御などが出来ない状態で、背中をさらしてしまいます。大体は、最後尾の戦士が敵の飛び道具にやられてしまう。

 その時は、すぐに、別の補充の兵が回り込む手筈(てはず)にはなっているようである。

 倭軍の隊列、主に攻撃する隊列と、それを援護する隊列があり、こちらからは、ほかの部隊が敵に対抗して弓をいる。

 単独で狙われないように、帆船と帆船との間隔はつめておかなければならない。 波状攻撃とならなければならない、危険極まりないのである。

 どうしても、相手を沈められない場合は、相手に向かっていき、銛(もり)を打ち込み、船体とともに、大きくジャンプをして相手戦艦に乗り込むのである。

 敵艦甲板上で弓を一度に数本同時に射る、舞うように、大きく長い薙刀(なぎなた)を振り回す。

 両の手に剣を持ち、身体ごとまわり、敵を切り倒す。

 血みどろの肉弾戦である。

 中大兄皇子がもっとも得意とする戦法である。

 そして、船上の敵らのすきを見て、帆船とともに海に再び飛び込むように戻る。

 素早く体制を整えて敵艦から遠くに距離をおく。

 背後には、赤き海に沈みゆく敵船体がある。


 日本書紀は、この戦いの様子を、次のように語っております。


 初戦で、倭国軍は唐軍に負けてしまい、一旦退却します。その後、日本の将軍と百済(くだら)の王が、先をあらそうかのように唐(とう)・新羅(しらぎ)連合軍に攻めこんでゆき、霧で前があまり見えないにもかかわらず、なんの策もなく猪突猛進(ちょとつもうしん)していった。そのまま敵(唐・新羅軍)の作戦にはまり、挟み撃ちになった日本と百済の連合軍は、唐軍の猛攻を受け大惨敗(だいざんぱい)をしたのでした。


 中大兄皇子(なかのおおえのみこ)と、大海人皇子(おおあまのおうじ)は、単独で隊列を組んで健闘、そして阿倍比羅夫(あべのひらふ)将軍は、指揮を立て直し、しょうもない百済のバカ息子の王の指揮系統を断ちきり、奮闘いたしました。

 この時点では、すでに遅く、倭国・百済連合軍は壊滅的(かいめつてき)に敗退したのでした。

 これで百済復興勢力(くだらふっこうせいりょく)は崩壊(ほうかい)し、百済王の余豊璋(よほうしょう)は同じ朝鮮の大国、、高句麗(こうくり)へ亡命したのでした。


 しかし、壊滅的な打撃をこうむった倭国軍は、敗走することとなったのですが、不思議な記述をしている歴史書もあります。

 軍船など壊滅状態なのに、百済の皇族、貴族など多数を救出して、日本に連れ帰っているというのです。


 日本の豪族たちは、この白村江の戦いの敗戦での出費、新たな国防への出費などで疲弊しており、朝廷、とくに中大兄皇子への不満が渦巻いておりました。

 中大兄皇子は、今後の国内政治には大海人皇子を加え、中臣鎌足(なかとみのかまたり)とともに協力を仰ぎ、ご自分の権力をより一層、強大なものにしてゆくのでした。

 中大兄皇子たちは、この敗戦での豪族の不満を解消させる目的で、地方のあらゆる人が官僚になれるような路がひらけるように現状の官位を、十九から、二十六に増やしました。

 一般の人々への人気取りです。

 現代でいう、何とか大臣だの次官だの官職をふやすというものです。

 そして、人はみな、平等として大化の改新で豪族たちに奴隷を持つこと、人を奴隷としないこと、武器をもたないこと、などの法律をつくりましたが、豪族の不満を解消させるために、武器を与え、武器をもつこと、奴隷をもつことを再度、許したのでした。


 鬼のような中大兄皇子の目指したものは、聖徳太子の目指した律令国家。

 政治と、権力の死守に奔走することとなります。

 中大兄皇子の非情な力は、人としての道徳なく鬼のような一味を抑え込むため、必要だったのです。

 どんなに無茶な強権発動であれ、人との戦いを無限に繰り広げることになろうと、この国、朝廷を永遠に存続させようとしたのでした。

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