第276話 外堀から埋めていく

「『アルカナダンジョン攻略者またしても現れる』」


 そんな新聞の見出しをタックは読み上げる。


「それにしても本当に凄いな。今回のダンジョンも難易度激やばだったんだろ?」


 タックは新聞を下すと僕に聞いてきた。


「うん、まあ、今までのと同等くらいの難易度だったからね。タックやマリナも、潜れば最奥まで行けたと思うよ」


 アカデミーの談話室で、僕らはアルカナダンジョンについて話をしていた。

 タックにマリナにルナがそれぞれ席に着き、テーブルには菓子と紅茶が並べられている。


 イブとミーニャは給仕に徹しており、背後に控えて僕らの話を聞いていた。


「まあ、今回は僕よりもルナが活躍したからね」


 色々あったものの、今回、アルカナダンジョンを攻略できたのはルナの力が大きい。


「うん、頑張った!」


 そう言うと、ルナは椅子を引き、僕にぴったりとくっついてくる。


「その……エリク。あなたとルナの距離が近いことが妙に気になるのですが?」


「シルバーロード王国のアルカナダンジョンは完全に隔離された空間って話だよな? 若い男女が二人っきりで一週間も籠ったんだ、何もないわけないだろ?」


 タックが下卑た笑いを向けてきた。こういった邪推でからかうのはいつものことなのだが……。


「うん、ルナはエリクにプロポーズしたから」


「はっ?」


「えっ?」


「嘘っ⁉」


 今回ばかりは的外れとも言えない。


 ルナの爆弾発言に、タックとマリナとミーニャが驚き声を上げた。


「何か文句ある?」


 ルナは後ろを振り返ると、イブに言葉を投げかける。


「いえ、ありませんよ」


 意外ではないのか、イブはニコニコと笑うとルナの言葉を肯定した。


「元々、イブはルナさんのことを高く評価していましたから。なるべくしてなったというところじゃないかと思いますね」


「そっ、ありがと」


 二人の間で会話を完結させている。


「ちょっと、まてっ! それで、エリクは何て答えたんだ?」


「もし付き合うとしたら、エリクがシルバーロード王国を継ぐのですか?」


「あわわわわわ……」


 矢次ぎに質問が飛んでくる。


「ん。エリクはルナのことを保留にした。だからこれからはルナが積極的にアピールしてエリクを虜にする予定」


「人聞きが悪い⁉」


 ルナのあまりにも直球な言葉に僕は抗議する。


「それにしても、ルナさん。アルカナコアを手に入れたんですよね? ちょっとくらい見せてもらえないですか?」


「駄目、エリクがルナと結婚すると言ったら差し出す」


「そ、そんなぁ……。ちょっとだけ、先端だけ、ちょっと撫でさせてもらうだけでもいいんですよぉ!」


 イブが涙目になりルナにすり寄るが、彼女は首を横に振って断った。


「それにしても、本当にルナ一人でダンジョンボスを倒したのですか?」


 マリナは僕とルナに交互に視線を送ってきた。


「うん。危なかったけどギリギリ倒せた」


「今回のボスはダンジョンで強化されたフェンリル、それも二匹同時に出てきたんだけど、ルナは立ち回って魔法で倒していた」


 特に最後に使った魔法だが、以前に同じものを見たときよりも威力が格段に上がっている。

 まだ改良中らしいのだが、この先威力を高めていけば世界の脅威となるのではないだろうか?


「……それって、俺やマリナでも倒せたと思うか?」


 タックとマリナが真剣な表情を浮かべて聞いてきた。僕は二人の身体を見て、これまでの特訓の成果から動きを予測し、フェンリルとの対戦をシミュレートする。


「いや、はっきり言ってしまうと悪いけど、二人ならフェンリルと一対一で戦っても勝てないと思うよ」


 あのフェンリルたちはそのくらいの強さを誇っていた。単純な話、力と速度が足りない上、相手の弱点を突くような多彩な技を使えるわけでもない。戦ったところで、自力負けしてしまうのがオチだろう。


「そんな、ボスモンスター相手にルナさんはどうして勝てたんですか?」


 ミーニャが復活すると、必死な様子で聞いてきた。ルナは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「愛の力。ルナはボスを倒したらエリクに告白すると決めていた。たとえ命を散らしてでも引く気はなかった」


「うっ……」


 ルナの気合に何やら気圧されたミーニャ。

 どや顔でアピールしているが、普通に愛が重いと感じるのは、僕の恋愛経験が足りていないからだろうか?


「マスター愛されていますね」


 満面の笑みを浮かべるイブ。彼女は元々ルナのことを気に入っている。ルナが僕に対して行動を起こしたことが嬉しくて仕方ないらしい。


「なんだかよくわからないですが、親友として応援させてもらいます」


「まあ、妙なことになったけどいいんじゃないのか?」


 マリナとタックはそう言うと、生暖かくも苦くもあるような微妙な表情を浮かべると、ルナの応援をするのだった。

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