第254話旅行の誘い
目の前ではサクラがメアにもたれかかって眠っている。
腕にはカイザーを抱き、肩にキャロルを乗せている。
三匹ともサクラになついており、今ではゴッド・ワールド内のどこにいてもサクラについていた。
あどけない顔をして眠る彼女を見る。
鮮やかな桃色の髪を見て、過去に居た世界の花を連想した。名前が必要だったので咄嗟に浮かんだ言葉を口にしたが、直観のわりによく似合う名前を付けたものだと感心する。
「これで二つ目……」
手に入れたアルカナコアのことを考える。
最初に手に入れたのは【ⅩⅦ】の刻印が刻まれた【ザ・スター】だ。
僕の恩恵の【ザ・ワールド】を【ゴッド・ワールド】へと進化させ、ダンジョン作成を可能にした。
さらに【メテオ】という地形すら変えてしまう魔法を使うことができる。
そして今回手に入れたのは【ⅩⅤ】の刻印が刻まれた【ザ・デビル】だ。
魔力をコアに写し取ることで記憶・能力まですべてコピーした本人とすんぶん違わぬ存在を生み出せる。
使い方次第では国を亡ぼすことも、世界を支配することもできるだろう。
「もし、すべてのアルカナコアを手に入れたらどうなる?」
たった二つでこれなのだ。他のアルカナコアに秘められた力はどうなのか?
今のところ、ダンジョンコアから力を引き出せるのは僕の恩恵【ゴッド・ワールド】のみだが、同じような能力の持ち主が生まれない保証はない。
「進むべきか、それとも踏みとどまるべきか……」
過ぎた力は身を亡ぼす。僕はサクラを見つめながら悩み続けるのだった。
「えっ? キリマン聖国に旅行だって?」
アンジェリカが唐突に切り出してくる。
「そうです、エリク様どうですか?」
サクラが生まれてから数カ月が経過した。僕らはアカデミーの三年に進学していた。
「ええ、ロベルトを含む三年生は騎士団試験やらで忙しいみたいですが、エリク様は今のところ特に予定もないとお聞きしているので」
アカデミーも三年になると段々とピリピリし始める。
基本的にアカデミーを卒業した人間は優秀なので、城勤めや、街中でも良いところに勤めることができる。
だが、それには試験が合ったりする上、人気の職場は競争率が高いため採用枠が決まっている。
確かロベルトは近衛騎士団に就職を希望しており、数カ月の間は試験で様々な場所へ赴くとか言っていた。
「私は王国を継ぐ予定ですので、特に就職活動はありません。エリク様も暇でしたらどうかとお誘いしたのですが……」
胸元に手を当てて確認してくる。緊張しているのか顔が赤い。
「キリマンか……」
二年前に聖女として神殿に就職したセレーヌさんを思い出す。確かキリマンにはアレがあるという話だったか……。
「いいね、僕も丁度一度行ってみたいと思っていたんだ」
「そ、それじゃあ……」
肯定的な言葉を告げるとアンジェリカは顔をぱぁっと綻ばせた。
「他に誰を誘おうか、ルナとかマリナにタックは他国の人間だから就職しないだろうし、ミーニャさんも誘えばついてくるかな?」
僕がそんなことを考えていると、いつの間にかアンジェリカが前に立ち両手を僕の肩に置いた。
「で、できれば今回は二人が良いです」
「う、うん……アンジェリカがそう言うなら」
その素早い動きに驚いたこともあるが、普段らしからぬアンジェリカの様子に僕へ気圧されてしまい、首を縦に振った。
「ほ、本当ですかっ!? 後から皆さんが来るとかなしですからね?」
まあ、確かに思い返してみると、あの連中が一緒では休まる時間がない。
目を離せば物を壊したり、喧嘩を吹っ掛けたり。はたまたトラブルを引き寄せたりするから。アンジェリカの提案は、たまにはゆっくりしたい僕にとっても良い落としどころだった。
「それでは、エリク様。私は父上と母上の許可を貰いに王城へと向かいますので」
「うん、わかった。僕は旅行の準備と観光名所の確認とかしておくから、またね」
アンジェリカは上機嫌で馬車に乗る。僕はというと、他の連中に気取られないようにするための対策を練るのだった。
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