第178話プリン作り

「ふーん、それでずっと顔出さなかったの?」


 【神眼】の魔法具を完成させた翌日。僕は社会復帰を兼ねて久しぶりに表に出た。


「うん。正直まだ眠かったりするよ」


 そこでばったり出くわしたルナに声を掛けられたので、アカデミーの調理室に移動してお茶を飲んでいた。


「できればソフィアに訓練つけてもらいたかったな」


 ルナは最近ではイブに訓練をしてもらっている。やはり女の子同士の方が良いのか仲良く訓練をしている姿を時々見る。


「あいつなら今頃寝てるよ」


 僕が眠った後も色々やっていたようだ。魔法具を台座にセットしたり、後片付けをしたり。副議長に新たな指示をしてダンジョン運営をしたりなど……。


 その無理が限界を超えたのか僕が起きたときにはゆりかごの様なベッドを作って眠っていた。

 その姿は童話に出てくる妖精みたいで、寝起きということもあり一瞬見惚れそうになった。


「エリクはこの後どうするの?」


「僕? そうだな……。流石にまだ疲れてるし午前中はここでお菓子でも作って食べて、午後は本でも読んでゆっくりするよ」


「……お菓子」


 ルナの瞳が揺れたのを僕は見逃さない。王族としての教育なのか、ルナは物を乞うようなことをしない。


 何かを得る場合対価が必要と思っているようで、こういう場合は何を差し出せばよいかわからずに口を噤んでしまうのだ。


「今日はプリンを作ろうと思ってるんだ。市場で新鮮な卵を仕入れてきたからね。これにゴールデンシープの乳から作った生クリームを乗せてやれば上品な甘さと滑らかさを兼ね備えた極上のプリンができるんだよ」


「そ、そそ、そうなんだ……」


 そわそわと顔をあちこちに動かしながら時折目が合う。

 まるで小動物みたいなその仕草に僕は思わず吹き出すと。


「ルナも食べていく?」


 からかっているのが分かったのか、ルナは少し悔しそうな顔で僕を睨みつけると……。


「意地悪エリク……。でもありがとう」


 食い意地が張っていると思われて恥ずかしいのか頬を染めるとプイと横を向くのだった。




「やっぱりエリクは俺の国に来て専属料理人になるべきだって」


「それなら我が国の方が良いですよ。破格の条件で雇いますから」


 あれから、プリンを完成させると、まるで狙っていたかのようなタイミングでタックとマリナが現れた。

 なんでも、連休も終盤ということでどうやら2人で訓練をしていたらしい。


 激しい訓練を終えて軽く何か食べようという話になったらしく、食堂に向かおうとしていたのだが、なぜか勘が働らきここに引き寄せられたらしい。


 こんなこともあろうかと、僕は皆に配るためにプリンをかなり多く作っていたので現れた2人にも振舞った。


「あははは、僕には城仕えみたいな堅苦しい仕事は似合わあないよ。あくまで趣味で楽しんでやってるだけだから」


 気分転換変わりなのに毎日では飽きてしまう。趣味は仕事にしない方がよいというのだが、どれだけ好きなことでも毎日繰り返すことで刺激が無くなってしまい、作業になると好きではなくなるのだ。


 皆に追加のお茶を淹れながら僕はそんな断りの返事をしていると…………。


 ——ガチャ――


 調理室のドアが派手に開けられ部屋にいる全員の視線が入り口に集中する。


「ハァハァ。エリク様……やっと見つけましたわ」


 息を切らせてこちらに向かってくるのはアンジェリカ。今日は外出していたのかドレス姿をしている。


「やあ、アンジェリカ。丁度良いところに来たね美味しいプリンを作ったんだ。食べてみてよ」


「そんなこと言ってる場合じゃ……むぐっ!」


 焦って詰め寄ってきたアンジェリカの口に僕はプリンを突っ込んだ。


「どう? 美味しいでしょう?」


「ええまぁ…………」


 どうやら落ち着いたようだ。僕はアンジェリカを安心させるために笑って見せると……。


「大丈夫だから落ち着いて話してくれていいからさ」


 向かいの席に座るように促すのだった。



     ★


「うーん、むにゃ……えへへへコアがいっぱいですねマスター」


 ゴッド・ワールドでイブは夢を見ていた。

 アルカナコアの1つを得て恩恵の機能の一部を開放していらい、肉体を持った彼女は普通の人間のような生活を送れるようになっていた。


 エリクの前世の記憶を元に作りだしたベッドを揺らしながら心地の良い夢を見る。

 内容は、エリクと共に潜ったダンジョンに大量のコアが積まれていてどれから物色しようか考えている夢だ。


「全く、こんなに一杯だなんてどれから手を付けていいか悩んじゃいますよぉ」


 夢の中でいざ手を伸ばそうとしていると…………。


「えっ?」


 急にがばっと身を起こす。その際に肩から落ちかけた寝間着の紐を直すと。


「この気配は……なんでしょう?」


 何やら妙な気配が伝わってくる。


「わざとこちらに知らせている?」


 イブは自分の索敵レーダーを広げてその気配を探るのだが…………。


「…………消えましたか」


 だが、気配は補足されるのを嫌ったのか、かき消えてしまった。


「恐らくこれは…………。それにこの方向は…………」


 イブは何やら考え込むと普段エリクには見せたことのないような冷たい表情を作る。そして…………。


「ひとまずマスターに報告しなければなりませんね」


 そういうとベッドから抜け出しエリクの元へと向かうのだった。

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