第173話カンスト




「あっ、マスター。ダンジョンコアがランクⅦへと到達しましたよ」


 アスタナ島を復興させてから数ヶ月が経ち、ぼちぼち平凡な学生生活に退屈を覚えた頃、イブが報告をしてきた。


「おっ、本当に?」


 ダンジョンホテルの各所に設置していたコアの1つがカンストしたらしい。


「カジノフロアのコアですね。やはり探索者達が入り浸っているので成長が早いようですよ」


 町の外に設置してある星屑が採れるダンジョンで適度にモンスターを出現させてドロップアイテムを落とさせている。


 彼らは稼ぐのが容易となりその余剰金を得てはカジノで散財してくれる。

 お蔭で探索者達がカジノに滞在する時間が長くなり、こうしてSPを回収できるようになった。


「どうしますか? 解析するとなると一部の機能が制限されてしまうんですけど……」


 そう提案してくるイブ。そういえば以前もランクⅦのコアを解析してもらったのだが、丸三日ほどかかったうえ疲労困憊していた気がする。


 僕はアゴに手をあてると……。


「今後を考えるとイブが解析しなくても良い方法を見つけないとな」


 今やゴッド・ワールドは僕だけが利用しているわけではないのだ。

 アスタナ島のダンジョンホテルの他に、モカ王国最大の訓練施設としても運営を開始した。


 それらのダンジョンから得られるSPのお蔭でコアの成長が著しく、臨時休業などで客を遠のかせたくない。


「何か方法無いかな?」


 ゴッド・ワールドに対する知識が乏しい僕はイブに妙案はないか聞いてみるのだが……。


「そうですねぇ。解析の魔法具を作ってみてはいかがでしょう?」


「解析の魔法具?」


 僕がおうむ返しに問い返すと、イブはゆっくりと頷いた。


「マスターには現在保有しているコアの能力について説明書をお渡ししてあると思います」


 それはイブが調べ上げたコアの力を纏めてくれた1枚の紙のことだ。


「現在保有してあるコアの中に【鑑定】の恩恵があったじゃないですか」


「ああ、最近あまり使ってないやつだね」


 市場に出回っている魔道具でも可能なアイテムを鑑定する能力だ。

 イブが冬眠状態の時は活用していたが、今はイブに確認した方が早いのでお蔵入りしている。


「【付与】に【増幅】を使用すると【固定】という能力が使えるようになります」


 イブの説明に僕はひとまず頷いておく。確か【固定】になるとアイテムに能力を固定できるんだったかな……。


「さらに、【鑑定】に【増幅】を使用すると【神眼】の能力になります」


 おぼろげにイブが言いたいことが解りはじめる。【鑑定】はアイテムを鑑定するだけの能力なのだが、【神眼】は『全てアイテム鑑定と対象のステータスを視ることができる』能力なのだ。


「今回出来上がったランクⅦのコアを触媒にして【神眼】を【固定】させるんです。完成すれば【神眼】の力を常に使う事ができるようになります」


「そうすれば、コアの解析ができるようになると?」


 神眼の能力は全てのアイテムを鑑定とステータスの看破。この場合、コアはアイテムではないのでステータスを視るということか……。


 僕の言葉にイブは首を横に振る。


「いいえ、今回はそれだけでは不完全だと思います。出来上がった【神眼】は強力な魔法具ではありますが、ランクⅦ相当の力しかもたないので、それを超える存在のステータスは視られません」


「つまり、その【神眼】で解析が可能なのはランクⅦまでということか」


 僕の答えにイブは頷いてみせる。

 正直ランクⅦの解析ができるだけでも随分と助かるのだが、僕たちの最終目標はアルカナコアだ。


「そうすると……。アルカナコアを1つ手に入れた上で犠牲にしてそれに【神眼】を固定する必要があるってことかな……?」


 もったいないので出来ればやりたくはないのだが……。


「いえ、ここはランクⅦのコアでいきたいと思います」


「どういうこと? それだと今後を考えると対応できなくなるよな?」


 あくまで一時しのぎなら良いが、僕は将来他のアルカナコアも集めるつもりなのだ。

 その時になってコアの解析が出来ず、イブを休眠状態にするのは完全な愚策だろう。


「マスターはイブが嵌っていた台座を覚えていますか?」


「まあ、覚えてるけど」


 今はダンジョンの奥に隠されているゴッド・ワールドを維持しているコアが嵌っていた台座だ。


「実はあの台座にはダンジョンから吸収したSPの一部を蓄積する機能があるんですよ」


「確かに。どのダンジョンもコアは台座に嵌められているな」


 僕はこれまで手に入れてきたコアの状況を思い浮かべた。


「今回はこの機能を利用しようと考えています」


 ダンジョンの新たな知識に感心しているとイブは更に説明を始めた。


「固定で作った魔法具を台座に嵌め込みます。するとその魔法具はダンジョン運営で得られるSPを蓄積していくのです。そしてその蓄積したSPがコア容量をカンストすると…………」



「カンストすると?」


 イブは指を立てると僕に顔を近づけ間を溜めると……。



「おめでとうございます。魔法具は存在を昇格させ神器へと生まれ変わりました」


 大げさな身振りでバンザイしてみせた。


「つまり神器になった【神眼】ならアルカナコアも解析できるってことか?」


 イブの大げさな動きに付き合う事無く冷静に確認すると……。


「…………そうです。そうすればイブが解析しなくても自動でコアの解析をおこなうことができるわけです」


 やや不貞腐れた様子でそう答えた。その仕草が妙に可愛らしかったので一瞬頬が緩む。


「なるほど、今後を考えると必要な神器だし早速とりかかろう」


 ランクⅦのコアもそうだが、今後アルカナダンジョンを攻略する予定もある。

 そのたびに1年間機能を停止していたら何もできない。


 それを解決できるアイデアがあるのならできるだけ早く用意しておくべきだろう。


「そうすると……まずは【固定】を使って【増幅】を固定させるのが良いか?」


「えっ? どうしてですか?」


 イブは目を丸くして質問をしてくる。


「多分だけど【神眼】を【固定】させるのに1度や2度の【増幅】じゃあ無理だよな? だったらまずは【増幅】自体の回数を増やさないと時間が掛かることになる。それに【増幅】の魔法具があればこの先有用だろ? ランクⅦのコアがある程度手に入る目途はついてるわけだし、必要な物から手に入れた方が良いよな」


 僕は頭の中にロードマップを描くと。


「まず【増幅】と【固定】の魔法具を作る。そしてそれを台座に……ってイブの台座に置けばいいんだっけ?」


 ランクⅦのコアが手に入るまで時間が掛かるので魔法具を神器にしておけば良いかと思って聞いてみると。


「それなら、宝物庫の各部屋にある台座を利用すると良いかと。あれはコアが嵌っていた台座と同じものですから」


「なら出来上がった順に宝物庫の台座に置いて昇格させていこう。【増幅】と【固定】が完成すれば【神眼】は作って台座に設置すればいいし、ほかに使える能力を魔法具にしてそこから神器を作れば……」


 色々と想像が膨らんでくる。僕が頭の中に浮かんだ素晴らしいアイデアにわくわくしていると……。


「マスター。まずは最初の【増幅】からお願いしますよ」


 動かない僕にしびれを切らしたのか、イブがそう促してくるのだった。

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