第154話新機能【ダンジョン作成】の解放②

「それにしてもゴッド・ワールド内でダンジョンが出来るのって不思議な気分だな」


 僕はイブを伴って水のダンジョンを歩きながら感心していた。

 ここは当時、僕が初めてイブに案内されたダンジョンそのものだったからだ。


 肌に感じる冷たさも、水のせせらぎも。ダンジョンの地形さえも緻密に再現されている。だが……。


「どうかしましたかマスター?」


 立ち止まった僕にイブは首を傾げてみせる。


「いや、モンスターがいないなと思ってさ」


 ダンジョンにおける基本行動はモンスターとの戦闘だ。

 このぐらいのダンジョンであればフロストゴブリンとかがいてもおかしくないと思ったのだが。


「ああ、モンスターを御所望ですか? それなら魔核を一ついただけます?」


 僕はイブに従って魔核を彼女の細い手に乗せてやる。


「出来立てのダンジョンには基本的にモンスターはいません。時間経過で自然に発生するようにも出来ますが、それはコアがソウルパワーを得て自動的に生み出しているんです。生み出せるモンスターの種類はコアの強さや属性によって異なりますが、イブ達はモンスターの記憶を呼び起こすことでこうして……」


 説明をしながらもイブは魔核に何かをすると地面へと投げる。地面に落ちた魔核は何やら輝きを放つと次第に姿を変え、ついにはモンスターへと変わった。


「ダイアウルフか」


 無人島試験でも遭遇したDランクモンスターだ。


「とりあえずこんなところでどうでしょうかね?」


「グルルルル」


 イブは振り返ると僕に聞いてきた。


「これもゴッド・ワールドで使えるようになった新機能? 多分だけど、魔核からモンスターを再現できるってところかな?」


「流石マスターですね。その通りです」


 渡した魔核はこの前の課外授業で僕が間引いたモンスターのものだ。

 その中にダイアウルフがいたので見当が付いた。


「にしても、こいつ大人しいな」


 野生のモンスターなら襲い掛かってくるところなのだが、顔をこちらに向けじっとしている。


「召喚したモンスターは召喚主には逆らえませんからね。万が一マスターに襲い掛かろうものならイブが許しませんし」


 何やらイブが怖い事をいっているようだが、どうやら安全らしい。

 僕はダイアウルフと距離を詰める。普段戦闘しているときはギラついている目には知性がともっているのか落ち着いた表情で僕を見ている。


「お手」


「グル」


「おかわり」


「グル」


「伏せ」


「グルル」


 僕の命令に従って動くダイアウルフ。


「よーしいい子だ」


 僕はそんなダイアウルフの頭を撫でてやる。

 こうしてみると大型犬のようで中々愛嬌があるな。


「こいつってずっとこのままなのか?」


 撫でながらも僕は疑問に思った事をイブに問う。


「維持するのにもソウルパワーが必要になります。なので、倒されるかソウルパワーが尽きるか、もしくは召喚を解除するまではこのままですよ」


 その答えに僕は考える。


「こいつってゴッド・ワールドから出しても平気かな?」


 僕の命令を聞くのならばアカデミーの学生の訓練に使えるのではないかと考えたからだ。

 実戦の有用性については課外授業で証明して見せた。


 僕が目を光らせながらモンスターと実戦を積ませることが出来ればアカデミーに在学しながらも高い戦闘経験を積むことができるのではないか。


「召喚されたモンスターはあくまでダンジョンを守るために存在していますからね。外に出してしまうとソウルパワーを得られずに弱体化して消えてしまうんですよ」


「なるほど……それじゃあ無理だな」


 外に出して訓練してもあっという間に消えてしまうようじゃ駄目だろう。


「それにしても何をするにもソウルパワーが必要ってことか」


「そうですね。ゴッド・ワールドを活用するにはたくさんのソウルパワーを集める必要があります」


 ダンジョンを維持するにはソウルパワーが必要で、ソウルパワーを得るためには生物がダンジョンに入る必要がある。

 つまり、この場に人間をおびき寄せなければならないという事になるのだが…………。


「それって厳しくないか?」


 僕の恩恵の真実について極力人に知られたくはない。だが、恩恵の力を発揮させるためにはそれをしなければならないとなると、どうしても不都合が生じる。


「ううーん、良くない仕事をしている人達をさらってきたらどうでしょうかね?」


 唇に手を当てながら物騒な事をいうイブに僕はストップをかける。


「まあ待て。そもそも犯罪者を入れるのは嫌だし、彼等にはしかるべき罰が存在するから」


 どの国でも法律によって裁かれる方法が決まっている。引き渡してしまえばいいだけだ。


「そうですね、それに弱い人を長期滞在させたところで得られるソウルパワーはたかがしれていますので」


「得られるソウルパワーの基準はどのぐらいなんだ?」


 参考までに聞いておく。


「そうですねぇ。イブが【スター】で確認した感じですと、アークさんとフローラさんとロレンスさんぐらいなら1日で200SP程。タックさん、マリナさん、ルナさん、セレーヌさんなら1日で100SP程。その他の中堅どころの探索者さんなら1日で80SPでしょうかね」


 前者はこの世界でも有名な人物なので得られるSPは世界最高峰と考えておけばよいだろう。


「ちなみにさっきのダイアウルフを召喚するのにかかったSPは?」


「えっと……10体ぐらい召喚して1SPになるかってところでしょうかね?」


 Dランクモンスター10体はCランクモンスターに相当する。そうなると1SPあればCランクモンスターを召喚する事が出来るということか。


「この島に招待されている学生でどのぐらい得られる?」


「多分、1日で5SP程かと?」


 そうなるとあまり大人数を集めるのは現実的ではないか。


「まあ、当面はマスターから得られるSPでどうにかなると思いますよ」


「ちなみに僕から得られるSPってどのぐらいなんだ?」


 何気なく聞いてみるのだが、イブは笑顔を浮かべると答えた。


「マスターが1日滞在して得られるSPは1000ですよ」

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