第155話新機能【ダンジョン作成】の解放③

「僕からそんなにSPが補充できるんだ……」


 意外と言えばそうかもしれないが、ある程度は予想が付いた答えに納得する。

 これでも単独でアルカナダンジョンのボスを撃破しているのだ。


 戦闘力で考えればそのぐらいのSPを補充できなければおかしい。


「なので、イブとしてはコアが育つまではマスターに滞在してもらえればいいんじゃないかと思うんですよ」


「コアが育つ?」


「ええ、ダンジョンに侵入してきた人間からSPを吸ったコアはそれらを防衛用のモンスターに変えたり、コア自身の力に溜めたりするんです。そうしてコアが成長していくことでダンジョンとしての格が上がり、上位ランクのダンジョンになるんですよ」


「つまり、集客さえできれば高ランクのコアを量産することも可能ってことか」


「そうなりますね」


 僕の言葉をイブがあっさりと肯定する。僕は口に手を当てて考える。

 これまでダンジョンコアを手に入れるために色々なダンジョンを攻略してきたが、まさか自分が運営する側に回るとは考えてもいなかった。


 もし効率よくSPを補充することができるとしたら、それはこれまでとは比べ物にならない程効率的に恩恵を集める事が出来るのではないか?


 ふと僕は一つのアイデアを思いついたのでイブに確認してみる。


「イブ。このフロアを最大限に拡張して芝を生やしてゴールデンシープを連れてきたらどうだろう?」


 先程のイブの説明では【生物】が中にいればよいと言った。それならばゴールデンシープを連れてくれば多少のSPは賄えるのではないか?

 僕がその辺を説明して見せると……。


「残念ながら、すでにゴールデンシープからもSPを徴収していますね」


 予想外の返事をされた。


「一体いつの間に?」


 僕が続けて質問をするとイブは右手で髪を弄ると目を向けてきた。


「ワールド内では一部の【恩恵】や【スキル】はテリトリーを持つんです。そしてそのテリトリーに滞在している生物からはSPを受け取れるんですよ」


 僕がその説明に聞き入っているとイブは髪から手を離し指を立てる。


「たとえば【畑】とか【牧場】他には【温泉】なんかもですね。ゴールデンシープやキャロルとカイザーは大体このどこかにいますので、基本的にSPを納めていますよ」


 なるほど、僕が住んでいる家も牧場に間借りしていた。だからこれまでもSPを収めてワールドの維持に使っていたのだろう。


「そうなると、あいつらを引っ張ってきてダンジョンに住ませてもあまり意味はないって事か……」


「まあ、このランクⅡのコアを育てたいのなら無意味というわけではないですけどね。無理して育てるよりも買った方が早いですし」


 確かに、低ランクのコアならわざわざ育てる意味はない。


「だからですね。地道にダンジョン運営を軌道にのせていずれはがっぽりSPを稼ぐようになればいいんじゃないかとイブは思うんですけど……ってマスター?」


「ん。悪い。ちょっと考え事してた」


 イブがぶつぶつと言っている間に僕は良いアイデアを思いついてしまった。


「何を考えていたんですか?」


「それについてはとりあえず実験だな。忙しくなるぞ」



     ★


「えー、それでは過半数の反対を持ちまして、ソフィアにライセンスを与える件については否決となります」


「ば、馬鹿な。アスタナ島の先を考えれば断る方がおかしいだろう!」


 議長が立ち上がると椅子が倒れる。


「まあ落ち着いてください議長。そう興奮されても困りますよ」


「……副議長」


 なだめてきた男を睨みつける。アスタナ島評議会の副議長。

 彼が今回のイブのライセンス取得に異を唱えるのには意味がある。


 ここ最近、議長側に有力な人間が集まっているからだ。

 アスタナ島では数年に一度、選挙が行われる。仮にここでイブのライセンス取得を許してしまえば、議長側がさらに力をつけてしまうのだ。


 今のところ、次期議長の座は自分になると疑っていない副議長だが、議長の肝いりとなれば勝てる保証はない。


 今のうちに力を削いでおくにこしたことはないのだ。


「ですが、あれ程の人材だ。そのまま逃すには惜しい。なので一つ提案なのですが」


「なんだ?」


「もしそのソフィアと言う学生がこの島の繁栄に何らかの貢献をしたのなら、その実績を持ってライセンスを与えるという事です」









「宜しかったのですか?」


 他の人間た立ち去った会議室で副議長は腹心の議員と話をしている。


「何がだ?」


「無理に譲歩せずともそのままメンツを潰してしまえば議長側の力を削げたのではないかと」


「それでは面白くないだろう」


「と言いますと?」


「この島は去年の星降りの夜にダンジョンを攻略されてしまって以来、芯となる部分が無くなった。今はダンジョンが生成されるので何とかなっているが、将来はどうなるかわからん。私が議長になった暁にはとある国に便宜を図ることになっている」


「なるほど、そうすると例のソフィアには注意をすべきでは?」


「少し力が強いようだがたかが学生。我々がどれだけかけても戻せなかった経営を立て直せるわけがない」


 貴族の観光も止み、星屑も採れなくなった。現在は生成されるダンジョンから出るコアを買い上げてその利益で運営しているのだが、アルカナダンジョンがないせいで活気に欠けている。


「もしもここからこの状態を立て直せる人間がいるとしたらそれは化け物だろうよ」


 だからこそ自分は議長の座を得て国と結びつくつもりなのだ。


「とにかく、来年の選挙に向けて根回しをしていく。忙しくなるからそのつもりで頼んだぞ」


 だが、彼らは知らなかった。

 今この島には彼らがいう『化け物』が滞在しており、いらぬ企みをしている事を……。


     ★


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