第147話チャレンジバトルイベント

「こうなったらルナ王女だけが頼りです」


 翌日。僕とルナとセレーヌさんは再び議員に呼び出されて話を聞いていた。


「とはいえ……相手が魔法の授業を取るとは限らない」


 ルナがもっともな事を言う。剣技でそれだけの実力があるのだ。魔法の才能を持ち合わせていない方が自然だろう。


「安心してくれ、本日は授業を全て無くして闘技場を解放したチャレンジバトルイベントにするから」


「チャレンジバトル?」


 ルナは首を傾げた。議員の言う事がいまいちピンとこないらしい。


「アスタナ島側のライセンス持ちが学生達と闘技場で戦うイベントだ。元々宣伝として考えていたが、こうなったら仕方ない。ここで例の学生を倒すことで我が島に所属している探索者の質を宣伝するのだ」


 熱くなってそう語る議員に僕は口を挟む。


「それ上手くいくんですかね? ルナは大賢者で後衛ですよ? 実力を発揮するには魔法を詠唱する間を守る前衛が必要なんじゃ?」


 魔道士はあくまで後方から攻撃をするものであって、一対一で戦うようにできていない。


「その点は心配ない。その為に聖女セレーヌを呼んだのだから」


 そう言って眼鏡をクイっと上げて見せる。その言葉だけで議員の考えが透けて見えた。


「どういうこと?」


 首を傾げるルナにセレーヌさんが言った。


「つまり、私の支援魔法でルナ王女を支援して身体能力と魔力を増幅させて戦わせるということですか?」


「その通り」


「それは流石に卑怯ではないですか?」


 ルナは確かに後衛だがそんじょそこらの魔道士とはレベルが違う。

 無詠唱はお手のもの。一度見た魔法を使う事も出来るし魔力を読むことで相手がこれから唱える魔法すらも先読みする事ができる。


 そんな彼女の実力を魔法で底上げしてしまえば一方的な蹂躙になりかねないだろう。


「だまらっしゃい! ここでルナ王女が負けるような事があれば後がいないのですよっ!」


 確かに聖騎士アークも大魔道ロレンスも来ていない以上現在残っている戦力で最高峰はルナになる。だが…………。


「ん、無くても勝つからいらない」


 ルナは負けず嫌いなのでその提案を跳ねのける。


「そっ、そんなっ! 解っているのですかっ! アスタナ島の威信が掛かっているのですよっ!」


 泣きそうになりながら説得して欲しそうに僕を見る議員。僕は笑顔を浮かべると……。


「ルナ頑張れ」


 親指を立てて応援すると。


「ん。任せて」


 そう言って嬉しそうに手を振り返すのだった。






『ザワザワザワ』


 闘技場が解放されると招待学生達が入場してくる。

 その中でも実際に対戦を願う者達はそれぞれの控室に集まっているらしい。


 事前の申請によると対戦を申し込んだ学生は全部で数十人らしく、こちらが出すライセンス持ちは5名程。

 運営側も名乗りでる学生は十数名ぐらいだと思っていたらしいのだが、噂を聞いて自分達もやれるのではないかと思った学生が多いようだ。


 リングの上にはアルカナダンジョンに潜っていた探索者が立っている。

 控室に続く入り口から対戦相手の学生達が現れた。


「おおーい、ロベルトー頑張れよー」


 僕は観戦席から身を乗り出すとアカデミーでの友人に声を掛ける。


「おうっ! 任せておけっ!」


 ロベルトを含むアカデミーで鍛えている学生達だ。彼らは島の議員や有力者が注目しているこのチャンスに自分を売り込もうと考えているようだ。

 ここでC級ライセンスでも倒して見せればその地位と取って代われるかもしれないからだ。

 なので僕はここで彼らにはっぱをかけておくことにした。


「負けたらアカデミーでの訓練をもっと厳しくするからねっ!」


「「「「「えっ?」」」」」


 何故か彼らは悲痛そうな表情を浮かべるとリングへと向かっていった。







「さて、どいつが例の剣士なのかな……?」


 対戦が始まり、ライセンス持ちと学生の試合が行われていく。

 やはり鍛えていても実戦経験がない学生は攻撃の鋭さや戦闘時の判断が遅い。

 次々とライセンス持ちに敗れていくのだが……。


「ん? たいした相手がいないような……」


 次々に試合が組まれ、戦っていく中僕は学生達の実力を見極めようと目をこらしているのだが、マリナやタックを下せる程の相手は見当たらない。


「次、私の番」


 とうとうルナの出番が来てしまった。

 ルナはリングに上がるとマントをなびかせると杖を掲げた。その様は堂々としており、どんな対戦相手が来ても絶対負ける事は無い。そんな決意がうかがえる。


 リング自体はそれなりに広いが、魔法を使うことを考えるとやはり狭い。この距離が戦闘にどこまで影響するか僕が検討していると、一人の学生がリングに上がってきた。


「えっ、あの子って……」


「あっ、先輩ー! またお会いしましたね」


 観客席の最前列で見ていた僕に気付いたのか彼女は笑顔を向けてくる。


「ソフィア?」


 その子はアスタナ島に来てから何気なく絡んでくる女の子だった。

 彼女はその場の全員が見惚れるような笑顔を振りまきつつ僕に手を振っている。

 そんな彼女を見守る学生と探索者。どうやら彼女は人気があるらしく、所々から殺意のようなものが向けられている。


「対戦相手は私。だよ?」


 リング上に立っているのに無視された形のルナはムッとしてソフィアを睨みつけた。早くも戦闘態勢を取ろうかと杖を構えると……。


「「ちょっとまった!!」」


 二人の人間がリングへと飛び降りてきた。


「タックとマリナどうして?」


 二人は完全装備に身を包みリングに立つと。


「その娘との対戦私に譲ってください!」


「何言ってやがる。俺が先だっ!」


 二人のその発言で噂の女学生の正体がソフィアだと気付く。


「二人ともふざけないで。あの子は私が……やる」


 だが、ルナもやる気満々だったので引くつもりは無い。

 闘技場が騒めく。その場には三人者B級ライセンス保持者にしてアルカナダンジョン攻略組がいるのだ。


 一体誰がソフィアと戦うのか興味をひかれていると。


「わわっ、皆さんソフィアと戦いたいのは解りましたけど、ソフィアも目的があるのであまり時間かけたく無いんですよね」


 そして「うーん」と顎に手をやって考えたのち、何かを閃いたのか手をポンと叩くと。


「それじゃこの四人でバトルロイヤルってどうでしょうか?」


 そう笑顔で提案するのだった。

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