第124話伝説の巨人VS仮面の男

「さて、まずは皆を避難させるか」


 目の前には激しい戦闘のせいか、ボロボロになったセレーヌさんとタックがいる。

 立っているのもやっとなようだが、二人は驚愕の表情を僕へと向けている。


「イ……リク。この二人を下がらせておいてくれ」


 咄嗟に本当の名前を呼びそうになったが、あらかじめ決めて置いた偽名を言う。


「はい。マス……ブイはどうするんですか?」


「ん、僕はちょっと一人回収してくるから」


 巨人がめり込んだ壁の横に知り合いが倒れているのを発見したからだ。

 僕は手に持っていた柱を一旦地面に置くと――。


「えっ? いつの間に……あなたは一体?」


 高速でマリナさんの横に移動する。


「マリナさん助けに来ましたよ。ちょっと失礼しますね」


「な、なんで名前を……きゃっ!」


 抵抗する力が無いマリナさんをお姫様抱っこした僕はそのまま高速で皆の元へと戻る。


「さてリク。後は僕がやるから皆の護衛頼んだからね」


「はいブイ。仰せのままに」


 そうこうしている間にも巨人はめり込んでいる壁から抜け出そうと必死に動いていた。


 僕は地面に立てておいた柱の取っ手を持ち上げるとそれを装備しなおした。


「まて、あいつと戦うつもりかっ!」


 魔道士のローブを着た男が聞いてくる。僕は頷いて見せると……。


「あいつの鎧は伝説の金属オリハルコンで出来ている。砕くには同等の金属で作られた武器が必要なのだぞ!」


 その忠告を聞いている間に巨人は壁から抜け出したのか怒り狂いながら僕へと突進をしてきた。


「フルスイング!」


 ――ドゴオオオオオォ――


「なんだとおっ!?」


 再び巨人が吹き飛んでいき壁へと張り付く。

 あまりの光景に男から驚き声が聞こえる。だが、今度は壁にめり込まなかったようですぐに立ち上がると……。


「駄目だ、いくら攻撃したところで鎧に守られているのだ。直ぐに復活して……うええええええええっ!?」


 どうにも感情の起伏が激しい男のようだ。


「馬鹿な……オリハルコンでできた鎧が……」


 男の言うように巨人の鎧が壊れ中身が露出していた。


「ブイの武器は全身オリハルコン製ですもん。当然ですよね」


 イブが誇らしげに言って見せる。

 僕は手になじむそれを見る。黄金色の金属に取り廻しを考えて取っ手をつけた一抱えほどの大きさの柱。そう【オリハルコンの丸太】である。


 通常なら希少金属のオリハルコンなんぞ簡単に手に入るわけが無いのだが、僕の元にはキャロルがいる。キャロルは食べた物のエネルギーを金属に変換させて排泄することが出来る。

 ザ・ワールド内の【畑】でとれた野菜や果物を食べまくって生産したオリハルコンが大量に余っていたので僕はこの武器を作ったのだ。


「インゴット1つあれば一生遊んで暮らせるといわれているオリハルコンをこんなに……。それにしてもこの形は馬鹿にしているのか……?」


「むっ……」


 思わず男に丸太を振り下ろしたくなるが我慢する。

 魔石を買ってくれた上客だし意識を保っている人間は少ない。この戦いを見届けて報告してもらう義務があるからだ。


「い、今なら魔法で倒すこともできるっ! 私も援護するぞっ!」


 鎧が剥がれたのを好機と取ったのか男とルナさんが魔法を放つ。


「ジャッジメントレイ!」


「クリムゾンフレア!」


 天から光のレーザーが直撃して巨人に当たる。業火が巨人を包み込む。

 中々強力な攻撃で防ぐのにはそれなりの力がいるのは間違いない。

 事実、巨人も鎧が破損したせいでダメージを受けたようだ。


「グググッルルル」


 うめき声を上げた。


「よし行けるっ! ルナとやら、魔石に触れて魔力を回復するのだ。そして連続魔法でこのまま倒すぞ」


「わかったっ!」


 二人は僕が売った魔石から魔力を吸い出すと連続で魔法をぶつけ始めた……。





「ば、馬鹿な……」


「あ、ありえない……」


 二人の恐怖に満ちた声がする。

 肩で息をしていて、ルナさんの綺麗な銀髪が汗で顔に張り付いている。


 あれから何十という回数の魔法を唱え巨人を攻撃した。

 巨人は攻撃を無抵抗で受け止めていたのだが、現在もピンピンしている。


「取りえず打つ手なしなら僕がやるので下がっててくださいね」


 巻き添えにならないように様子を見ていたのだが、ここまでのようなので僕がでることにする。

 僕はオリハルコンの丸太を担ぐと一足飛びに巨人と距離をつめた。そして持ち得る限りの力で巨人を殴り始めるのだった。




「うん? どういうことだろう?」


 それから暫く殴り続けた。相手の鎧は僕の打撃で砕け散り既に巨人は何も身に纏っていない。

 流石は僕の相棒ということもあって殴りつけるたびに巨人の身体が歪み確実にダメージを受けている。だが…………。


(さてイブ。あれはなんで回復してるんだ?)


 先程の魔法攻撃もそうなのだが、傷を与えたそばから回復していくのだ。


『恐らくですけど、星の力を取り込んでいるのかと思います』


 そう言われて空を見上げると、星降りの光が見える。

 最終日のピークと言うこともあってなのか常に空から星が降り注いでいる状態だ。


『星には大量の魔力が含まれていますからね。それを回復に転換する魔法陣が組み込まれているのでしょう』


 イブの分析に頷く。恐らくそれで間違いないのだろう。


(倒し方は?)


『単純に回復が追い付かなくなるぐらいにダメージを与え続ければいいんじゃないでしょうかね?』


 提示された方法はシンプルだった。僕は溜息を吐くと……。


(こりゃ確かに誰もクリアできないわけだな)


 初手で魔法を無効化する防具を身に着けているので同じオリハルコンの武器が必要になる。しかも鎧を完全に破損させるほどとなればそれなりの量を失う覚悟が必要だ。

 初見でそれを見破るのは不可能だし、過去の挑戦者の中にはこれを何とかできた人間もいるかもしれない。

 だが、鎧を剥がしたところで次はこの回復力だ。

 ようやく魔法が効くようになったとしても星降りのピークに近付くにしたがって回復力が増すようなのだ。


 最初は圧倒できるかもしれないが、巨人だけあって生命力が強い。

 削り切れなければこうして回復させてしまうのだろう……。


『どうしますかマスター。一度出直しますか?』


 イブが念話で話しかけてくる。


 確かにこのダンジョンを無理に攻略する必要はない。攻略方法は既に頭にあるし、来年までに力をつけて再チャレンジをするのもありだろう。だが……。


(イブは目の前に特大のコアがあるのにお預けを食らっても平気なのか?)


 巨人を傷つけた時に内部に輝く黒い石のようなものが見える。

 恐らくあれこそがこのアルカナダンジョンのコアに違いない。


『欲しいですけど、倒せないなら仕方ないじゃないですかぁ?』


 まだ細かい手札は持っているが、現状を考えると倒すのは厳しい。

 それは僕にもわかっている。


「いい加減にくたばれっ!」


 巨人を丸太で殴り飛ばしながら考える。撤退をするのなら周囲の人間に被害が及ぶ前がいい。だが僕の中の何かがまだいけると告げているのだ。


 どうするべきか考える中、ふとベースの方をみると祈りを捧げているセレーヌさんと目が合った。


(イブ。僕に考えがある。……を出して僕に渡してくれ)


『わかりましたけど、そんなものが役に立つんですかね?』


 イブの声を無視すると僕は皆の元へと戻るそして……。


「セレーヌさん。どうかこれを受け取ってください」


「えっ! ええぇっ!?」


 それは以前にランクⅦダンジョンで手に入れた財宝だった。

 魔道具などは除いているので宝石や金で出来た装飾など金銭的に価値があるものだ。


「おまっ! これって……」


 タックが何かを言おうとしているが今は一刻を争うのだ。

 僕は捲し立てるように言う。


「いいからはやくっ! 時間が無いんですっ!」


「わ、わかりましたっ! 受け取らせていただきます」


 必死な様子を見せる僕に根負けしたセレーヌさんは頷いてくれる。


『マスター! 巨人が回復してこっちに向かってきています。どうやら星の力をステータスに転換したのかこれまでの数倍のパワーとスピードを得ているようで危険ですっ!』


「ちっ!」


 やはり奥の手を残していたのか……。

 今から全員をザ・ワールドに避難させても間に合わない。逃げ遅れる人間が数名でるだろう。


(イブ、……を出せっ!)


 次の瞬間、空に神々しい建物が浮かび上がる。


「グアアアアア?」


 巨人も突然現れた建物に驚き行動が止まっている。


『ままま、マスターこれどういうことですかっ! なにか凄いことになってるんですけど! いつの間にかっ!』


(それに関しては後で説明してやるからっ!)


 僕はイブにそう返事を返すとオリハルコンの丸太を持ち上げ巨人を殴りつける。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 これまでで最大の叫びをあげる。

 僕は全身からみなぎるこれまで感じたことのない力を制御しようと気合を入れる。


「さて、これ以上奥の手が出てくる前に片付けさせてもらおうか」


 そして巨人を睨みつける。


「グヒイイイイイイッ!」


 巨人の表情に恐怖が浮かぶ。どうやら今の僕の力を感じ取ったようで勝ち目がないのを理解しているらしい。


「今からホームラン地獄を味合わせてやるからなっ!」


 オリハルコンの丸太を振りかぶると延々と巨人を打ち上げ続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る