第106話【追加効果】と【再使用】の恩恵
『それで、どうするんですか?』
あれから、誰も来ない倉庫に移動した僕にイブが早速話しかけてくる。
「もちろんルナさんの酔いを止めてあげようかなと思ってね」
『…………なるほどっ! マスターはああいう子が好みなんですね?』
納得とばかりに明るい声を出すイブ。
「別にそんなことはないさ。この前手に入れた恩恵をちょうど生かせるんじゃないかと思ったから試したかっただけだよ」
イブの見当はずれな言葉を封殺すると先程ルナさんから受け取った酔い止め薬を手にする。
そして恩恵を使おうとするのだが………………。
「その前にイブ。もう一度だけ恩恵の内容を教えてくれるか?」
『はーい。今出しますねー』
そういうと目の前に幻惑魔法による説明文が浮かび上がる。僕はその説明を今一度読み直す。
【追加効果】……既に完成している物に対し新たな効果を追加させることができる。追加する効果に使う魔力は本来の倍必要となる。
「よし。問題なさそうだ」
僕は早速酔い止め薬に手をかざすと……。
「恩恵の【追加効果】で酔い止めの効果を追加する」
僕が今回追加するのは酔い耐性の効果だ。てのひらの上の酔い止め薬が輝きだす。
身体の中から少し魔力が抜けるのがわかる。倍の魔力ということなので心配したのだが、スタミナポーションと同じく錬金術関連の魔力の消費は修理に比べるとそれ程でもないようだ。
『酔い止め薬の効果上昇を確認……50……60……70………………100ですっ!』
そこで手を止める。これで完成だ。
「これなら効果あるんだよな?」
『多分大丈夫かと思います。それより他のも【追加効果】でやるんですか?』
手元にはまだ4つの酔い止め薬が残っている。
「いや、そっちはもう1つの恩恵を試すことにするよ。説明だしてくれる?」
『はいマスター』
浮かび上がった説明を読む。
【再使用】……直前に使用したスキルを瞬時に発動する。
これならば細かい調整をする必要がなく全く同じ物を作ることができる。
僕は早速酔い止め薬を1つ手に乗せると…………。
「【再使用】の恩恵を発動させる」
先程と同じように酔い止め薬が輝きだした。まず間違いなく効果が高められているのだろう。だが……。
「おかしいな?」
『どうしたんですかマスター?』
「なんでか魔力が抜けていかないのに効果が上乗せされているんだけど」
『説明通りですよ【再使用】の恩恵には魔力コストなどの代償は必要ありませんから』
「それはかなり便利だな」
こんな薬でも数をこなせばそこそこ疲れる。それを魔力消費なしでやれるのならかなり楽だ。
『効果100ぴったりです』
やがて【再使用】を終えるとイブがそう呟く。僕は残された酔い止め薬も同様に効果を高めていくのだった。
「お待たせしました」
急いでレストランフロアに戻るとそこにはタックとマリナさん、そしてマリナさんの膝に頭を預けたルナさんがいた。
「おかえりなさい。遅かったですね」
マリナさんはルナさんの頭を撫でながら受け答えする。
「なあエリク、この後暇ならトルチェでもやらねえ?」
僕はタックの隣の席に座ると……。
「ルナさん。これを飲んでもらえますか?」
先程作った酔い止め薬を差し出した。
「…………もう飲んでるから。無駄だったし」
だが、ルナさんはマリナさんの太ももに顔を埋めるとそう答える。
「お願いします。騙されたと思ってもう一度だけ」
作ったものの効果を見ないことには結果が得られない。
僕が両手で拝むとルナさんはよろよろと起き上がる。そして……。
「【ウォーター】」
コップに少量の水を魔法で作り出す。こぼさない分量をきっちりと作り出すのは相当な集中力とセンスが必要なのだが、体調が悪いにも関わらずやってのけるあたり【大賢者】の名は伊達ではないのだろう。
「……貸して」
青ざめた顔をしながらも僕から酔い止め薬を受け取ったルナさんは小さな口にそれを入れると水を含む。そしてコクコクと喉を鳴らして飲んだ。
「取り敢えず薬が効くまでは横になってなさいルナ」
マリナさんが休むようにルナさんに促すのだが…………。
「……嘘。治った」
ルナさんの表情が変わる。
「いやいや早すぎだろっ! 気のせいじゃないのかよ?」
タックの突っ込みに……。
「本当に治ったのですか?」
マリナさんも懐疑的な表情をルナさんに向ける。
「うん。すっきり気分爽快」
本人はケロリとしていて先程までの辛さが嘘のよう。心なし血色もよくなってか肌に赤みが戻っている。
「だって……あんなに辛そうだったのに……」
マリナさんは唖然とした様子を見せる。
「エリク。なにしたんだ?」
タックは僕を問い詰めるように聞いてくる。3人の視線が集中すると。
「僕は既製品に対し他の効果を上乗せすることができるんです。先程受け取った酔い止め薬に酔い防止の効果を上乗せしたのでルナさんを治すことができました」
「効果の上乗せって……まじか?」
「他人が作った魔法薬に効果を乗せられる……聞いたことないわよそんなの」
「あっ、ここだけの話にしておいてくださいね。あまり広められても僕が困るので」
僕が釘をさすとタックもマリナさんも驚きながらも頷いてくれる。そんな中、僕の腕の裾を引っ張る感触がする。
引っ張っているのはテーブルの向こうから手を伸ばしたルナさんだった。
「まだ足りなかったですか? もう1つ飲んでおきます?」
僕がそう質問すると、ルナさんは普段の眠たげな眼を少しだけ大きく開いている。
「平気。もう完全に治ってるから」
「では何か?」
僕が首を傾げるとルナさんは初めて笑顔を見せてくれた。
「助かった。本当にありがとう」
その笑顔につられて僕も笑うと。
「いえいえ、どういたしまして」
そう答えるのだった。
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