第102話港街レーベ

「それでは、この街に数日滞在した後、船でアスタナへと向かう」


 魔道車に乗ること数日。これといったトラブルに見舞われることなく、僕らアカデミーの生徒達は予定通りに【港街レーベ】へと到着した。


 ここで数日過ごすことになる。それと言うのも…………。


『他国からも人が集まるなんて凄いですよね』


 イブが楽しそうに感想を述べる。

 滞在する理由は遠方から招待されている学校がまだ到着していないからだ。

 アスタナ島はレーベから船で移動するのだが、大型魔道船をこの為に貸切ることになっているので、全ての招待客が揃わなけれ出発できないのだ。


「基本的に滞在時の行動は自由だが、街からは出ないように。数日後には乗船するので日をまたぐ依頼なども受けないように。あと、アカデミーの品格を貶めることがないように常に他人の視線を意識して行動するように。以上だ」


 トリスタン先生の締めの言葉を聞いて皆は行動を開始する。

 大がかりな荷物は魔道車からそのまま船の倉庫へと運ばれていく。なので身の回りの小物を部屋に置きに行く動きが見て取れる。

 そして、そのあとで観光をするつもりなのか、旅行ガイドを片手に楽しそうに話している。


 僕は部屋に持っていく荷物が無いので、ひとまずどうするか悩んでいると……。


「エリクさんはどうされるのですか?」


 セレーヌさんに質問をされる。もしかして一緒に見て回るという誘いだろうか?


「僕はコアショップでも見に行こうかと思ってますけど……」


 新しい街にきたらまずはコアの確認をすることが決まっている。


『ここではどんな子達が売られているのか楽しみです』


 イブも興奮気味なようで、鼻歌を交えて機嫌のよさが伝わってくる。


「セレーヌさんはどうするつもりですか?」


 彼女はアイテムボックスのスキルを持っているので僕と同じく部屋に荷物を置きに行く手間が無い。

 もしかすると誰かと待ち合わせをしているのではないか?


「私はせっかくレーベにきたのでこの街の神殿に挨拶に伺おうと思っています」


 そういえばセレーヌさんは司祭でもあったのだ。


「そうなんですか」


 アカデミーの生徒会長というだけではなく公的な立場を目の前の女性は持っているのだ。前世でもこの手の人間はよくみかけた。

 仕事や部下に対して真剣で親身になってくれ、最後には過労で倒れて職場を去っていった。


「では、エリクさんも楽しんできてください」


 そう笑顔で立ち去ろうとするセレーヌさん。


「セレーヌさん、これ持っていってください」


 僕はスタミナポーションを取り出すとセレーヌさんに渡した。


「こちらは?」


「お城で国王が愛用しているスタミナポーションです。疲れたら飲んでください」


 セレーヌさんは目をパチクリさせると柔らかく微笑む。


「ありがとうございます。エリクさんは優しくて本当に素敵な男の子ですね」


 そう言うと僕の頭を撫でてきた。僕は何ともむずかゆい感覚になるのだが……。

 何となく母親に褒められた時の記憶が蘇りされるがままになるのだった。





「あーあ、無駄手間だったな…………」


『本当ですよ。まさか高ランクのコアが無いなんて……』


 僕のぼやきにイブが乗っかる。

 アスタナ島はダンジョン探索のメッカだ。年間で1000以上のダンジョンが生成されては攻略され消えていく。


 その生成数は世界全体の6割を占めている。

 そんな島に唯一繋がっているレーベだからこそ高ランクの……それこそⅦのコアぐらいは期待したのだが……。


『入手したコアはオークションで買われて世界中に散らばって行くなんて……。まだ見ぬ子達に逢いたいですよ』


 そうなのだ。アスタナ島はどの国家にも属していない島で、探索者ギルドが元になって治めている。

 そして、その島で探索されたダンジョンコアは例外なく探索者ギルドが買い上げ、後ほどオークションに掛けられるのだ。


 そんなわけで、コアショップに残されているのはランクⅣ以下のコアだけなので僕としても入手の必要性を全く感じない。


『どうするんですか、こうなったら一足先に【飛翔】で攻め込んでダンジョンを荒らしに……』


「や・め・ろ!」


 何処まで本気かわからないイブの言葉に僕は強い突っ込みを入れる。すると…………。


「イブ。あれどんな状況だ?」


 視界の端に路地奥の光景がとびこんできた。

 そこでは2人の女の子と3人の冒険者達が話をしている。


『典型的なナンパのようです。話を聞いてみると結構強い冒険者みたいですね「数日時間が空いたから一緒に遊ぼうぜぐへへへへ」と言ってます』


 最後の下卑た笑い方は完全にイブの作り話な気がする。だが、こうしてみつけた以上、アカデミーの品格のためにも困っている人を見過ごさない方が良いだろう。


 僕は溜息を吐くと5人の元へと近寄って行く。そして……。


「そこの人達、彼女たちが迷惑し――」


「てめえら何してやがるっ!」


 全く同じタイミングで路地の向こう側から怒鳴り声がした。

 僕の方に振り向こうとしていた冒険者達も吃驚するとその男を見た。


「嫌がってる女を強引に口説くなんて情けねえ。俺の目が光ってる内はそんな真似許さねえぞ」


 その男は赤い髪に赤い瞳をしていていかにも高そうな服に身を包んでいた。

 釣り目だが整った顔立ちをしているがやや幼さが残っているため、恐らくだが僕とそう変わらない年だと思われる。そして何より目を惹いたのは……。


「てめえら4人共、男の風上にも置けねえ! このタック様が成敗してやらぁっ!」


 頭部から伸びる2本の角だった。


  




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