第85話火と地のランクⅤダンジョン③
『マスターなんか出てきましたぁ!』
「ククククエエエエエー!」
イブとカイザーが警戒している。
僕は目の前に現れたそいつを観察していた。
ライオンほどの体に3つの頭。全身を白毛で覆ったそいつをアカデミーのモンスター図鑑で見たことがある。
「Aランクモンスターのケルベロス」
「「「GURURURU」」」
涎を垂らしながらこちらを睨みつける6つの目。僕のことを餌としか見ていないようなその視線に眉をひそめる。
「ほんとうに……このダンジョンの仕掛人はどれだけ性格が悪いんだ?」
多分こいつがこのダンジョンのボスなのだろう。
先程まで倒していた中にボスらしきモンスターはいなかった。
ダンジョンのボスというのはそれだけで格が1つ上がるのだ。
目の前のケルベロスは普通に遭遇した場合はAランクだが、ボスとしてダンジョンに君臨しているとなればSランク相当の強さになっているはず。
『な、なんなんですか! このダンジョンは!』
「ク、クェ~」
事実、イブもカイザーも弱気になっている。
これは不味いと思った僕は撤退を指示しようとするのだが…………。
「「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」」」
「うわっ!」
ケルベロスが地を蹴るとまるで矢のような勢いで僕へと飛んできた。
——ガキンッ――
僕はそれを咄嗟に抜いた2本のショートソードで受け止める。
「つ、強いな…………」
これまで生きてきた中で一番の力で押されるが、何とか数メートルほど押されたところで相手の勢いが止まった。
お返しとばかりに押し返そうとするのだが…………。
「「GAAAAAAAAAAAAAAA」」
ショートソードを受けていない両側の首が僕に向き、口を開くとそこには氷と炎がそれぞれ見える。
至近距離からのブレス攻撃だ。僕はダメージを覚悟するのだが……。
『さ、させませんよっ!』
「クエッ!」
我にかえったイブが魔法を。カイザーが翼で真空波のようなものを巻き起こしケルベロスの体を狙って攻撃をした。
「「「GURRURUU」」」
その強烈な攻撃を受けるのを不味いと判断したのか、ケルベロスは俊敏な動きで範囲内から逃れた。
『こ、このっ! イブのマスターに何してくれてるんですかぁっ!』
「グエッグエッ!」
だが、イブとカイザーは僕を攻撃したのが余程腹にたったらしく、先程の弱気を完全に忘れたかのようにケルベロスを追撃しはじめた。
『マスターを襲ったことを悔いて死んでくださいっ!』
先程までよりも苛烈な魔法が飛び交う。
巨大な火球を避けたかと思えば土の杭が地面から生えるとケルベロスの腹を突き上げる。
上空に打ち上げられたかと思えばそこにカイザーが突撃し、削っていく。
やがてケルベロスは地面に落ちるのだが…………。
『はぁはぁ……。なんてしぶとい。流石はボスだけありますね』
「クヘッ……クヘッ……」
力を出し尽くしたのか2人が息を切らしていた。
この2人の全力を持っても倒しきれないのだから、Sランクモンスターというのは遭遇すると死を免れないと言われる理由が解ろうというもの。
「「「GUGUGU…………」」」
耐えきった自分達の有利を確信したケルベロスは改めて僕をみて笑った。
そして…………。
「いいよ。かかってこい」
「「「GUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAA」」」
さっきまでほどではないがそれなりのスピードと跳躍力をもって襲い掛かってくるケルベロス。その鋭い牙や爪を浴びたら今の僕でも怪我をするだろう。
だが…………。
「さて、久々に振ってみるか」
気が付けば僕の手元にはあるものが存在していた。
「「「GAAAAAAAAAA——…………AAAa?」」」
途中、叫び声が止まるケルベロスだったが、一度飛んでしまっては目標に向かって進むだけ。
「さあ、新しい武器のお披露目もかねて行ってみようか!」
僕の手元にある金属でコーティングされた新しい丸太――【ホームラン1号】。
風のランクⅡのダンジョンコアを付与したそれを僕は大きく振りかぶると――
「「「キャイン!!!」」」
丸太が振り切られるとケルベロスは子犬のような鳴き声を上げると天井にぶち当たった。
「うん、風魔法を選択したのは正解だったな。浮かせることで振りやすくなった上、ヴェライトでコーティングして硬度を上げたからな。飛距離も出せるようになったし十分使えるね」
流石に疲労が限界なのでこれ以上は振りたくないが、Sランクモンスターをホームランできる機会なんてそうそうにないからね。自分で倒せてよかった。
『ドロップアイテムしたのは魔核と【ケルベロスの牙】【ケルベロスの爪】ですね』
「それは良い武器の材料になりそうだな」
あれだけの攻撃に耐えたのだ。使えば相当有効な武器になるに違いない。
「さて、今度こそ何も起こらないだろう。流石の僕も限界に近いから帰るとするか」
短時間とはいえSランクモンスターとの戦闘は堪える。
イブやカイザーも疲労しているのを見て取れるのでここが引き際だろう…………。
『マスターに報告があります』
だが、このダンジョンの黒幕はとことんまで僕を追い込みたいらしい。
『今のボスが出現したおかげで解ったんですけど。ここってデュアルダンジョンですね』
なので、もし黒幕に会えたら僕は容赦なくホームランをプレゼントしなければならないだろう。
『先程のボスの出現場所から隠しダンジョンに行けますけど…………』
そんなイブの言葉に身体がふらつくのだった。
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