第48話土のダンジョンランクⅣ④
「動くなよ? 少しでも妙な素振りをみせたらこいつがどうなっても知らないからな?」
突然現れた男達は僕を取り囲む。
そしてリーダーと思われる男が僕に剣を向けてきた。
『あー、すいませんマスター。何か生き物がいるとは思っていましたけど油断してましたよ』
イブの声が響く。
(仕方ないさ、ボス戦に集中してたし……)
今回のダンジョン探索の主役はあくまでもトーマスさん達だったので、僕はイブに索敵情報を聞かなかった。
自分が戦わないのだから報告は不要と言っておいたからだ。
探索者はダンジョン内の全てに責任を持つ必要がある。なので、こういった輩の捌き方も彼らの仕事になるのだろう。
「トーマスさん。この人達は……?」
「……こいつらはダンジョン専門の盗賊だ。こうしてボス部屋の前に潜伏して、ボスが倒されたらその報酬やコアを横取りするんだ」
トーマスさんはそう言うと警戒を最大にして盗賊達を睨みつける。
その並々ならぬ敵意をみて僕は気付く。
――もしかするとこのまま見捨てられるんじゃないか?――
彼らにしてみれば僕はただの荷物持ち。出会って2日のひよっこ探索者だ。
むざむざ要求を呑んで助ける必要が無い。
(イブ。武器の用意をしておいてくれ)
それどころか、僕が彼らを手引きしたと疑っている可能性もある。そうなれば僕は前後を挟まれたことになってしまう。
僕はこの場の全員の挙動を油断なく観察を始める。
「よし。まずは全員武器を捨てろ!」
盗賊のリーダーはまずトーマスさん達の無力化を優先した。
僕を人質にして言う事を聞かせられると思ったのか……それは恐らく不可能だろう。
なぜなら彼らの装備には相当金がかかってる。
今までのダンジョン探索でこつこつと揃えて行ったのだろう。それを捨てるという事はこの先の探索者生活に支障をきたすことに直結する。
つまり。この先の展開も容易に読める。恐らく拒否をした瞬間にリーダーが襲い掛かってくるに違いない。
自分の身は自分で守るしかないのだ……。
僕は臨戦態勢を整えると――
――ガシャン! ガシャガシャ!――
「えっ?」
全員が装備を投げ捨てた。
「へっへっへ、物分かりが良いじゃねえか。てめえらそこを動くんじゃねえぞ」
手下達が武器を回収していく。ゴーレムを砕く事の出来る特製メイスも。魔法の威力を増幅できる杖も。念入りに手入れしていた弓も。使い込まれた両手剣も……。
この探索を共にした……いわば彼らにとっての半身のような存在を。
「……トーマスさん。どうして?」
自然と疑問が口から出てしまう。
その意味は「どうして僕を見捨てなかった?」だ。
すると僕の言葉が正しく伝わったのか彼らは笑って見せると……。
「エリク君が無事ならそれでいい」
「そうよ。装備はまた買えばいいし」
「今は自分の身を守ることだけを考えてください」
トーマスさんが、魔法使いさんが、治癒士さんが僕に向かってそう言ってくれる。
女戦士さんも男戦士さんも弓使いさんも気にするなという素振りで応じてくれる。
「へっ、甘っちょろい奴らだぜ。おかげでこうして楽にお宝ゲットできるんだからな」
本当にそうだ。普通なら見捨てる場面なのに……この人達ときたら……。
「すいません皆さん」
僕は謝罪を口にする。
「おうそうだな。おまえみたいなゴブリンの腰巻がいなきゃこいつらも抵抗できたんだからよ」
その謝罪を盗賊達が笑い飛ばす。
「別にそう言う意味で言ったわけじゃないですよ」
次の瞬間。僕の手に得物が現れる。
「なんだぁー? 逆らう気か? このくそガキぶっころしてや――ペブッ」
「「「「「「ななななあっ!」」」」」」
トーマスさん達が一斉に口を大きく開けて惚けている。
「うーん、ポテンヒットかな?」
勢いよく飛んでいき壁にぶち当たって崩れ落ちるリーダー。痙攣しているので命までは失っていないようだ。
「なっ、てめぇっ! そんな丸太何処から……パギュッ!」
近くで叫んでいる盗賊の1人に一足飛びで距離を詰めると丸太を振るう。
祝福でパワーアップしているので殺さない様に慎重に……。今日はヒット狙いだな。
「ひっ! なんだこいつっ!」
「ひるむなっ! 全員でかかれっ!」
「あんな攻撃ありなのかよっ!」
問答無用で敵をポテンヒットしていく僕に盗賊達は恐慌をきたしたようだ。
碌に連携をとることすら出来ず、気が付けば全員が壁の花となっていた。
「本当にすいませんでした」
戦闘が終了すると僕は彼らに頭を下げる。
実力を隠していた事にではない。
良く知りもしない人に自分の力を見せないのは当然だ。
「なぜ謝るんだ?」
トーマスさんは僕の謝罪理由を聞く。
「皆さんが僕を見捨てるんじゃないかと一瞬でも疑ってしまったことについてです」
正直心情を吐露するのは怖い。
だけど、トーマスさんたちは僕のために全てを捨てようとしてくれたのだ。そんな人達を前に自分を偽るのは何より許せない。
僕は罵倒の言葉を待つのだが…………。
「本当にお前は馬鹿な奴だなぁ」
トーマスさんはそう言うと僕に近寄ってくる。
「えっ?」
そして乱暴に頭を撫でまわすのだった。
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