第42話アルカナダンジョン

 店の中央には一際大きな台座があり、その台座には無色透明の巨大な石が飾られている。

 僕がそちらに興味を持つと、店員さんは付き添う様に石の前まで来た。


「こちらは【アルカナダンジョン】のコアになります」


 その言葉に僕は眉をしかめる。


 【アルカナダンジョン】


 その忌まわしき名はこの世界に生きているのなら誰もが知っている。


 かつて、神は人間に試練を与えるべく22のダンジョンを世界に誕生させた。

 人々は武器や杖を持ち、そのダンジョンへ次々と挑んでいった。

 だが、どれほど屈強な戦士が力を振るおうと、どれだけ聡明な賢者が知恵をしぼろうとそれらのダンジョンは攻略されることは無かった……。

 挑んだものは全滅するか、瀕死の重傷を負い帰還するか。生存して戻れるのは1万人に1人。


 それらの話はおとぎ話としても有名で、子供達が間違っても挑まない様に戒めとして語り継がれている。

 事実、このダンジョンはおとぎ話ではなく世界の各地に存在している。


「そちらのコアには刻印が刻まれています。これはダンジョンからコアを抜き取る前から刻み込まれていたものらしいです」


 そう言われてみてみるとコアにはⅦの数字が刻み込まれていた。


「これって本物なんでしょうか?」


 気を悪くするかもしれないと思い、若干申し訳なさそうに聞いてみる。


「皆様よく疑われますね。こちらは今から100年前、突如現れた探索者の集団が命がけで攻略したコアで間違いありません。王国の史実にも当時の記録が残っておりますので」


 そこまで言うのなら本物なのだろう。


(イブ。分かるか?)


 僕は念のため、イブに確認を取る事にする。


『はい。何というか、このコアからは凄い力を感じます。恐らくですがこの店で2番目に強いコアの1000倍以上』


 その言葉に僕は耳を疑う。

 この店にある最高のダンジョンコアはⅥだ。最難関ダンジョンのⅦではないものの、そのコアと比べてもそこまで強力だとすると伝説の通り、とてつもない力を秘めていそうだ。


「これって売り物なんですか?」


 恐らくは高いのだろう。今の僕では到底手が届かないに違いない。

 だが、聞かずにはいられない。これは僕が目指す先。究極に至るのに必要な物。

 僕は流石に緊張すると喉をゴクリとならすと店員さんの言葉を待つ。


「こちらは金貨1億枚ですね」


「は?」


 あまりの金額に脳がフリーズする。

 それはこの国の国庫を空にしてようやく届く金額だったからだ。






『マスターどうするつもりなんですか?』


 店をでて飲み物を買うと公園のベンチに腰掛けた。

 先程までいた店のコアについて考えを纏めるためだ。


(どうもこうも、流石にあの金額は無理だよ)


 欲しければ1国を支配した上でその国を売り払う必要があるのだ。

 流石にそんなことはできないし、できたとしても反対が起きるに決まっている。


「つまり、売る気が無いってことなんだよな」


  なまじ買取可能な金額を提示しなかったのはそういう意味だと僕はとらえる。


『せっかくのダンジョンコアなのに……指をくわえてみてるしか無いんですか?』


 実際、イブには指は無いのでくわえることも不可能なんだけど……。


(今の時点では無理ってだけだよ。この先のやり方次第では何とかなるかもしれない……)


 最後に予想外なものを見せられたが、偵察の目的は十分に果たしたのだ。


『流石マスターです。手に入るのが楽しみですね』


 機嫌を良くしたイブの声を聞きながら、僕は最短で駆け上がるルートについて一考するのだった。

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