第19話王立総合アカデミー試験

「ここであってるんだよな?」


 翌朝になり、僕はイブに起こされると軽く身だしなみを整えてクリーンの魔法を使った。

 寝ている最中に掻いた汗や寝癖。更には装備品の汚れまでが一瞬で消えて、朝からゆっくりお風呂にでも入ったかのようにスッキリした。


 そんなわけで、近くの食堂で朝食を摂ったあと、指定された試験会場に来てみたのだが…………。


「どうして船着き場なんだ?」


 間違いという事は無いと思う。何故ならそこかしこに僕と同じぐらいの年の少年少女が武器防具を身に着けて集まっているからだ。

 ここが王立総合アカデミーの受験会場なのは明らかだった。


 それにしても………………。僕は彼らの装備を見渡す。銀の紋章で飾られた鎧や宝玉の入った杖。魔力の篭ったイヤリングなど。どいつもこいつも…………。


『凄い装備ですね。それに比べてマスターは…………』


(それを言わないでくれ)


 もっと時間があれば装備を整えるお金を稼いだりも出来たのだ。

 だが、今回は試験までの時間が足りなかった為、ぎりぎりで用意をした。


 自身の恩恵を強化する方にお金をつぎ込んだ結果、このみすぼらしい格好になっただけだ。


『まあ、大事なのは中身ですマスター。外見を取り繕った所で実力が無ければ意味がないですから』


 慰めだろうか、その言葉が妙に痛ましい。


 短くお礼を言うと。周囲の受験生が和やかに会話をしているのが耳に入る。

 やれ「〇〇工房の特注品」だの「有名付与師の魔道具」だの自慢合戦を繰り広げている。


 僕は周囲をなるべく見ないようにしながら奥へと進んでいった。






「それでは、試験を開始する」


 目の前には試験官がずらりと横一列に並んでおり、その内の一人が台の上に立ち僕らを見ている。


 僕らは浜辺に整列させられるとその言葉を真剣に聞いている。


「ここはアカデミーが所有する訓練のための島である」


 あれから僕らは船に乗せられること数時間、無人島に連れてこられた。


「諸君らにはここで1週間生活をしてもらう事になる」


 それというのも、試験の内容が今しがた試験官が言った通り無人島で生活する事だからだ。


「質問宜しいでしょうか?」


 受験生の一人が挙手をすると試験官は首肯する。


「ただ生活をすれば良いのですか? 他に何か課題のようなものは?」


 それは僕ら全員が思っていた事だった。単に生活するだけならば難しくは無い。アカデミーの試験は難関だと聞いていたのに拍子抜けだ。


「他に課題は無い。何故ならこの島には多数のモンスターが生息しているからである」


 その言葉に多くの受験生が息を飲む。


「確認されている中では最大でDランクまでのモンスターが存在している」


 モンスターのランクはSSS・SS・S・A・B・C・D・E・F・Gまでだ。

 僕が相手をしていたゴブリンは最弱のGランク。それより上のコボルトとかでもFランク。


 Dランクというのは同ランクの冒険者や探索者が数人掛かりで相手をする程度の強さを持つモンスターだ。


 受験生達の顔付が変わる。


「そ、そんなの嘘ですよね? だって俺達はまだ駆け出しの探索者ですよ?」


 一人の受験生がブラフだと思ったのか試験官に問い詰めるのだが……。


「君は高ランクのモンスターが目の前に現れた時『まだ未熟なので見逃してください』とでも言うのか?」


 試験官の怜悧な視線を受けてそいつは押し黙った。それを良い機会と思ったのか試験官は続ける。


「我がアカデミーは巨大な施設が多数存在する王都でも最高の学校だ。最新の設備に現役の人間が講師をしている。だが、勘違いするな。広大な敷地だからといって鍛えても意味のない生徒を在籍させるつもりは無い」


 その言葉に騒めきが発生する。


「もし試験を受けるのが嫌になったら早々にリタイアするが良い。直ぐにでも船で港まで帰してやる」


 ここまで来ておきながらそんなみっともない真似ができるわけもない。

 その場の何人かは試験官の言葉をただの揺さぶりだと思ったようだ。


 そいつらはよい身なりをしているので恐らくは貴族かそれに近しい身分なのだろう。

 自分達のような立場の人間がいるのに危険なモンスターを配置するわけがないと考えた。


 だが、そんな浅知恵をあざ笑うかのように試験官は言葉を続けた。


「ここでは家格がどうとか身分がどうとかは関係ない。たとえ王族であろうとこのアカデミーでは単なる1生徒だ。試験で優遇するつもりは一切ない」


 その言葉を皮切りに試験が開始される。


 受験生達が青ざめた顔をする中――


『マスター、この島。手つかずのダンジョンが結構ありますよ。滞在期間中に一杯回りましょうよ』


 ――イブだけが楽しそうな声を出してはしゃいでいるのだった。

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