第6話【ルーム】と名付けた恩恵は便利なようです

「ふぅ……恩恵が役に立った」


 恐らく表では先程まで僕がいた場所を何かが通り過ぎているころだろう。取り敢えず安全は確保した事で溜息を吐く。


 僕が逃げ込んだのは自分の恩恵のスペースの中だ。入ってから入り口を消してしまえば完全に隠れることが可能だった。


「それにしても、この能力案外悪くないのでは?」


 アイテムボックスに比べると空間が狭いと思っていたが、いざ中に入ってみるとそれ程の狭さを感じない。

 レックスの体格が良いからキツキツに見えただけなのかもしれない。僕が見る限りミランダとセレーヌさんぐらいなら同時に入れそうな大きさだ。


「ん。なんだこの石?」


 足下に違和感を覚えたので見てみると、地面に小さくて綺麗な石が嵌っていた。

 最初に恩恵を使った時には気付かなかったがこんなのあったっけ?


「まあいいや。とりあえずこの中にいれば安全は確保できそうだし」


 大人しく救助を待っていれば生き残れるに違いない。僕は自分のスキルの中で横になって休むことにした。




「そろそろ、平気かな?」


 僕は身体を起こすと伸びをする。結構な時間を休息にあてる事ができたので疲労が抜けている。


 ここらで一度外の様子を見ておく必要がある。


 それというのも、急ぎで救助が向かってきた場合、隠れている僕に気付かずに通り過ぎてしまう可能性があるからだ。


 そうなると、僕は完全に詰んでしまうだろう。


「よし。ちょっとだけ出てみよう」


 出た瞬間にモンスターと鉢合わせもあり得なくない。だが、このままずっと中にいる訳にもいかないので、僕は勇気をもって外にでた。



「うぇ……なんだこれ……?」


 戦いでもあったのか、近くの岩は溶けており温度も上昇している。

 ところどころにはモンスターのものと思われる血がこびりついていた。


 どうやら何かがここで戦ったあとのようだ……。


「さっきの奴らか?」


 足音の軽い方と重い方がここで戦ったのだ。

 どちらが勝ったかはわからない。もしかして更に奥に移動した可能性もある……。


「おっ。ちょっと大きめの魔核発見」


 こんな時だというのに訓練の結果に結びつくかと思い拾ってしまう。

 僕はその魔核を恩恵で出来た部屋に放り込んで置いた。


「ここにいるのは流石に嫌だな」


 さっきのやつが戻ってくるかもしれないし、むせかえるような血の臭いで吐き気を覚える。

 僕はもう少し先へと進んでいくことにした。







「結構進んでる気がするな」


 途中で生き物の気配を感じる度に【ルーム】(僕名付け)を使ってやり過ごすうち、僕はだんだん奥へと進んでいった。


「おっと、落ちてる魔核拾っておかなきゃね」


 生き物同士が争っているのか、途中途中で魔核が落ちている。


「さて、大きくなってるかな?」


 そしてこれまで何度もルームの中に入ってる間に僕はある事に気が付いた。


 僕はルームを開くと中をみて笑う。


「ここまでくれば間違いないな」


 入った時、最初に比べて部屋の大きさが変わっていると思ったのだが、その原因が判明した。

 最初に入った時から違和感を覚えたのだが、ルームに入った時ある物が無くなっている事に気付いたのだ。


 そのあるべきものとはレックスから預かった魔核である。


 何処か隅にでも落ちているのかと思ったのだが、中に入って探してみるが見当たらない。


 それどころか先程拾った大きい魔核も消えてしまったのだ。

 そこで僕はルームを見渡して一つの推測を立てる。


 魔核が消え、その代わりにルームの面積が拡張されている。


 その事に気付いた僕はミランダが落としていた魔核も放り込んで様子を見た。


 再度ルームを開きなおしたところ部屋が大きくなっていたので、それ以降僕は地面に落ちている魔核を拾っては次々にルームへと放り込んでいった。

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