小間使い 其の一


 この時の対抗戦を、ヴラド・ドン・ヴァンパイア総族長の妻、ベルタ・ドンが見ていました。

 次の日、ブランチを兼ねて、総族長夫妻はともに食事をしながら、対抗戦を話題にしていました。


「ねえ貴方、ラダが活躍していましたよ」

「そうか……あの小さかったラダがな……一号生徒にもなったし……」

「とても凛々しかったわよ、相手の一号生徒、鈴姫さんといったかしら、良いライバルになれそうよ」


「そりゃあ、そうなってもらわねば……メイド任官課程だからな……ところで相手の鈴姫という、モンスター族の娘さんはどんなだった?」

「こちらもどうして、とても綺麗だわよ、二人とも大したものね」


「技量は?」

「技量?」

「ルシファー様をお側近くで守れるか、ということだ」

「まず、そこらの不埒な輩は、ぶちのめせるでしょうが、なぜ聞くの?」


「実はな、今朝サリー様から急な知らせがあってな……ルシファー様が一週間ほど、アールヴヘイムンへ視察という名目で休暇を取られるとか……」

「ルシファー・ステーションには、十分ほど停車するので、警備を強化してほしいと要請があった……」


「……貴方はチャンスと考えたのね……」

「ヴィーンゴールヴの女は素晴らしいと、認識していただきたい……」

「幾人かルシファー様のお側に侍っているが、さらに増えれば望ましい」


「で、二人をお目通りさせたい……」

「その通り……小間使いとしてといえば、サリー様も断ることは出来まい……サリー様さえご承諾いただければ……」

「確かにルシファー様は、サリー様にはね……」

 ベルタ・ドンは、夫の目論見が実現すると確信した。


「あの二人なら……ルシファー様はお気に召されると思うわ……ことは急を要するわね、アンネリーゼとジャンヌにも、話を通さねばならないわよ」

「ヴァラヴォルフの二人か……わしはどうも苦手だ……狼女は好かん……お前、うまく話を通してきてくれ」


 ベルタ・ドンは夫のこのような言葉に、肩を竦めましたが、とにかく二人の執政に話を通しました。


 さらに二人は軽いけがをしているはず、ベルタ・ドンは、所用でアルデアルに来ていた三好糸女を、すぐに呼びました。

 今の惑星ヴィーンゴールヴにおいて、医療魔法を使える者は、糸女しかいないのです。


「三好さん、ラダと鈴姫の怪我を、昼前までには治していただけませぬか?」

「二人を今夜、ルシファー様のご旅行のお供に差し出したい……うまくいけば……」

 糸女はすぐに意味が分かりました。


 そして新たに寵妃が生まれる可能性……そして自分が可愛がっている鈴姫の、望外なチャンスの為にも、全力を傾けると云います。


 学校にいたラダは、すぐに呼ばれました。

 鈴姫は学校にいた所を、ジャンヌに迎えに来られ、すぐにルシファー・ステーションのホテルへ向かいました。

 ラダを治療し、ベルタ・ドンと糸女とラダは、鈴姫とジャンヌが待つホテルへ……

 そして糸女は、鈴姫の治療に取り掛かります。


 ほどなくして怪我が治った鈴姫、医療魔法の絶大な効力に驚きながら、皆が待つホテルの一室へ……

 ラダも鈴姫も何の説明もされていません。

 何が何だかわからぬうちに、偉い人に引っ張りまわされたためか、キョトンとしています。


 ベルタ・ドンが、

「この度の事の説明を、しなくてはいけませんね、本当は主人のヴラド・ドンが説明しなければならないのでしょうが、なんせ女の話、主人は無骨者で、私が代わりに説明いたしましょう」


 今夜ある列車が停車する、二人はそれに乗り込み、惑星アールヴヘイムンへ、ある人のお供をする。

 期間は一週間、その間、学校は公欠とする。

 そしてそのある人とは、ルシファー様……


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