貴女様の為に


「ルシファー様……その肩の傷は?」

「いえね、貴女のお部屋、初めてでしょう、あわてていたから台所で転んで、その拍子に、そこにあったナイフで肩を斬ったの、お馬鹿でしょう?」


「しかし……その腕の傷は……」

「あぁこれね、そのね、ゾーイが寝ている時ね、あまりに官能的なので、ちょっとね、悪さをしようとしたら……寝ぼけていた貴女に咬まれちゃったのね、まぁ自業自得、不埒な行いのツケですよ」


 下手な嘘ですね……私……少しは記憶が戻ってきたのですよ……でも、ありがとうございます……

 オットーの事は済んだこと、皆、信じたことを行っただけ……その結果は身に受けなければ……


 ヴァンパイア族は絶対の忠誠を誓った、それゆえのこの平和……我らが女帝……ルシファー様……

 でも、そんなことはもうどうでもいい……


 そう、いまこそ分かった……

 多くの女が付き従うのは、このさり気ない優しさ……

 つまらないところで差し出される手に……思わずすがりつくのよ……


 官能は確かにある、抱かれれば喜びに全身が震える……

 でも……それだけではない……全幅の信頼……そして安らぎがある……

 生きてそして尽くす……ルシファー様に尽くすことは、そのまま世界に何らかの貢献が出来る……人は使命感が必要なのね……


「ルシファー様、ありがとうございました……何もおっしゃられませんが、今回の事、感謝します」


 すこし真面目な顔をしてルシファーが、

「私は貴女に約束しました、今回の事は私の至らなさが原因、何もいわないでください」

「心底申し訳なく思っています、すこしお休みなさい、今夜は私がついていますから」


 ルシファー様……だから必殺の女たらしなのね……ほんと、ぐらっとするわね……

 そういえばルシファー様の女って、どの方も曰くつきの方が多いわよね……そんな方は参ってしまうわね……


 なるほど、よくルシファー様は、外に出ると女を拾ってくると、いわれているけど、これは噂ではないわ……

 ご本人が意識しなくても、吸い寄せられるのね……まぁ私もそのうちの一人なのだけど……

 ハウスキーパーのサリー様のご苦労が分かるわ……


「ルシファー様、私はもう大丈夫です、今度は私にその肩を治させてください」

「いえ、怪我人さんにそのように云われても……」

 と、ルシファーは渋る。


「怪我はルシファー様もでしょう、女奴隷に仕事をさせてください、お願いします」

 そういいながら、ゾーイはルシファーの服を脱がせにかかる。


「えっ……」と、なぜか真っ赤になるルシファー……

 ルシファー様、可愛い♪


「さぁ、いつも私たちを脱がしているじゃありませんか、さあさあ消毒ですよ」

 と、強引に上着を脱がせ、上半身を裸にしますと、ルシファーの全身はあざだらけ、かなり殴られた跡がある。

 そのあざは、ゾーイの拳の大きさのようであった。


 ゾーイはただ黙って、右肩の傷を消毒し、全身のあざの後には、ビニール袋に氷を詰め、すこしだけ水をいれ冷やした。

「すこし痛いわね……」

「消毒はしみる物ですよ」

「そう……」と、ルシファーは云った。


 ゾーイは、そんなルシファーの背後から抱きついて、そして言った。

「ルシファー様……貴女様の為に……ゾーイは尽くします……何なりとお申し付けください……この命、必要なら喜んで差し出します」


 ルシファーは前を向いたまま、

「じゃあ今夜ね、このベッド貸してね……二人では少々狭いけど……」

 と、明るく笑った。


    FIN


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る