第二章 ゾーイの物語 造血装置

ヴァンパイア族


 ブラッド・メアリーのハウス・バトラー、ゾーイ。


 東欧系の顔立ち、背が高く足が長い、申し分のない女で、『夫人』のチョーカーを身に着けている。

 彼女はじっと目の前の簡易造血装置を眺めていた……それにはゾーイの隠された過去が……


     * * * * *


 惑星ヴィーンゴールヴの夜は月がない、しかし夜空には、ルシファー・ステーションが明るく輝いて見える、人々はそれを月に見た立てている。


 夜が深まり、ヴァンパイアといえどベッドに入る深夜、ゾーイは目の前の簡易造血装置を眺めていた……

 そしていつもの言葉、誓いをつぶやいた。


 ルシファー様……このゾーイは貴女様の物です……いついつまでも……


 惑星ヴィーンゴールヴに、ヴァンパイア族が移住して間もない頃、まだ当時は『最後の審判戦争』の直前であった。

 ブラッド・メアリーのハウス・バトラーであるゾーイは、ヴァンパイア地区の第一都市アルデアルの、自分のアパートメントで荷物の片づけをしていた。


 小さい恒星アースガルズと、一個の惑星によるこのアースガルズ星系は、もともとテラの人類のマルス移転が難しくなった場合、緊急退避用にと、ルシファーのしもべであるマレーネが作り上げた人工星系。


 当時のテラにおけるナーキッドの本拠地、レイキャネース・ハウスの転移先としてである。


 大きめの浮遊ガス惑星を何百個かくっつけて小さい恒星とし、さらに銀河をふらついていた浮遊岩石惑星を公転させた。

 ルシファーの本拠地とも呼べる、惑星エラムの環境を一年で再現したのだが、何とかマルス移住が成功し、ルシファーがこの人工星系をテラでの貢献を評価して、ヴァンパイア族とモンスター族に与えたのである。


 ヴァンパイア族は、主流である主戦派がルシファーに牙を向け、その結果、主戦派二部族は殲滅させられた。

 五万名いた一族は、二万五千名に半減、対立していた穏健派と中立派である弱小六部族は降伏し、なんとか種族としては生き残ることができた。


 ヴァンパイア族は人類、つまりクロマニヨンより枝分かれしたホモ・サピエンスで、より進化したホモ・サピエンスの捕食者。


 血液という高カロリーなものを主食として、人種的にはより進化した存在だが、その主食ゆえに人類に寄生する状態になった。

 しかし、人類の血液は徐々に、ヴァンパイア族の口に合わなくなっていたのである。

 明らかに種族として衰退していた。


 この種族個体の減少は、ヴァンパイア族衰退に拍車をかけると思われた。

 もはやヴァンパイア族は滅亡が定まったかと思われたのだが……


 ルシファーはヴァンパイア族の降伏を良しとし、食糧である人類の血液、その代用として、哺乳類の高タンパク飲料ともいえるミルクから、新鮮血液を作り出す造血装置を与えた。

 しかも簡易造血装置も大量生産し、それをヴァンパイア族に下賜したのである。


 ヴァンパイア族はルシファーをメシア、ヴァンパイアの女帝と仰ぎ、絶対の忠誠を誓った。

 その証として、六部族は部族から選り抜きの女をルシファーの奴隷として差し出した……


 その一人がゾーイである。

 六名の中の総族長の娘であるカミーラは別格として、残りの五人もかなりの美女、ルシファーの身辺警護の意味もあり、女兵士というべき娘たちである。


 彼女らはブラッド・メアリーと呼ばれ、ルシファーの寵愛の印でもあるチョーカーを身に着けている。

 その中でもゾーイは、夫人という一つ上の位を授かっているのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る