瑠璃色の想い。

霜花 桔梗

第1話

 目が覚めるとわたしは空間に浮いていた。見渡すと無限の空間が広がっていた。


「ここは何処……」

「目覚めたかミサ、わたしは『I』である 。そして、ここはデータの墓場。人々が膨

大なデータが残していく軌跡の後の行先がここである」


 どこからかともなく聞こえる不思議な声が響く。そう、わたしはミサ、そしてデータの海から生まれて、消えゆく存在。


「ミサよ、その存在を賭けて、人間になる道がある。運命に抗い、現実世界で生きる事を望むか?」


 わたしが人に……ふと、自分の両手を見る。両手は空間が歪みを起こすかの様にノイズが走る。やはりわたしはデータの塊だと確信する。


「どうすれば、人間になれるの?」

「わたしの計算ではある高校に通えばあるいわ人間になれるかもしれない」


――……。


「今一度、問う、人間になりたいか?」


 分からない……でも、消えるのは怖い、これが生きたいと言う気持ちなのか。


「はい、人間になりたいです」

「ならば、現実世界に降りる事を許そう。そして、あるいわにわたしもかけよう」


 消えゆく意識で中『I』 の言葉だけが響いていた。気が付くと、わたしは電話ボックスの中にいた。辺りを見渡すと懐かしい感じがした。どうやら高校の電話ボックスの様だ。鞄の中には教科書など普通の高校生の必需品が入っていた。

本当に高校に通うらしい。外は蒸し暑く、夏の初めと理解できた。

この学校の名前は千頭ヶ丘高校……何故、知っているのか不思議だ。


 わたしはとにかく職員室に向かった。歩く道のりは記憶の片隅にあり問題なく進む事が出来た。道のりは鳴き始めの蝉の声が響き、わたしのデータを落ち着かせる。


「あぁの、すいません……」

「お、探したよ、今日転校してくるはずのミサさんだね」


 職員室に入ると親しげに話しかけてくる男性がいた。やはり、この学校に通うらしい。たぶん『I』が諸手続きを済ませていたらしい。『I』……この世界のすべてデータを扱う存在、きっと頼めばその人のデータを操る事が出来るだろう。そう、親しげに話す担任らしき人物がそれを証明していた。


「さて、教室に行こうか」


 いくつかの荷物を持って担任らしき人は職員室を出る。わたしはその後をついていく。綺麗に掃除された校舎の中を二人で歩と。


「いや、今年は暑いね」

「は、はい」


 確かに夏の太陽の光が眩しい。こんなデータの塊のわたしでも夏を感じているのだと感心していた。


「こう暑いと顧問の陸上部での生徒の管理が大変でね。あ、この学校はテニス部が帰宅部だよ。特に女子テニス部は校舎裏でテニスのラケットを素振りするだけで終わり。ホント羨ましいかぎりだよ」

「えぇ、何となく覚えています」

「そうか、ミサさんは昔この近所に住んでいたのだってね」


 『I』がそういう設定でこの学校に転校させたのか。それで必要最低限の記憶もある訳だ。でも、なにが違うかんじである。本当にこの高校に通っていたみたいに親しみを感じる。そんな事を思いながら校舎の中を歩くと旧棟の三階に案内された。


 教室に入るとショートホームルームが始まると。わたしは担任に紹介され座る席を指示される。この隣になった人はそこそこカッコイイ男子であり。わたしが席に座ると気持ちが高鳴る。とても懐かしくてわたしのデータに無い想いであった。わたしの感情とは裏腹に名前のデータが存在していた。


『渡部 信』


 何故、クラスで彼の名前だけあるのか謎である。これは『I』の考え以上の縁を彼に感じた。そして、一日は直ぐに過ぎてしまい。放課後、わたしはどうして良いか困り取りあえず、電話ボックスに向かい様子を見ることにした。電話ボックスの中に入ると特別な回線に繋がり、わたしのデータが帰るべき所に転送される様だ。

そして、全身がデータになり消えるか消えないかのタイミングで隣の席の『渡部 信』に見られる。直感的に不味いと思い電話ボックスに戻る。



『渡部 信』は目を丸くして驚いていた。


「見ましたね、見ての通り、わたしはデータの塊、秘密にしてくれると嬉しいかな」


正気を取り戻したような彼はきりりとした目に戻った。わたしは安心して笑顔で彼のデータを消してしまいますよと呟く。そしてさらに彼にわたしが人間になりたいとうちあける。それは賭けであった。このまま彼のデータを消して何事も無かった事にするか、それとも協力者になってもらうかの二択である。彼はわたしに何もとりえのない自分で良いかと問うてきた。


 わたしに迷いは無かった。彼との縁は大きく感じていて。何より、わたしの中のデータが迷いから確信に変わっていた。それは契約に近い約束であった。これから彼に色々頼るだろうと思うとデータが落ち着いた。彼は『信さん』と呼んでくれと挨拶をしてきた。信さんの言葉は凛として輝きを放っていた。わたしは心強い仲間が出来たことに喜んでいた。そう、何年も会っていない友人、いいえ、恋する運命の人の様であった。

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