第201話 転生のお話
彼女が前世からのファンだということを知り、会話しているうちに手助けしたいという気持ちが出てきた。魔王の討伐について、俺も何か手伝ってあげたい。どうやら彼女は色々と大変な状況のようなので、手を貸せば役に立つはず。そう思って彼女に問いかける。
「魔王の問題、何か俺に手伝えることはあるか?」
「それは、大丈夫です」
手伝いを申し出ると、バッサリと拒否されてしまった。余計なお世話だったかな。だけどナディーヌは、慌てた様子で説明してくれた。
「あ、いえ! 迷惑だとかじゃないですよ。リヒトさんが協力してくれたら、とても心強くて本当にありがたいと思います。だけど私が転生した時、女神様から言われたことがあって」
「女神に?」
ナディーヌが言う女神というのは、転生した際に出会ったあの女神のことなのか。どういうことか聞くと、彼女は説明してくれた。
「転生する時に出会った女神様から、こう言われました。”もう一人、貴女の他にも向こうの世界に転生させた方が居ます。ですが、その方の力を頼りにするのはやめて下さい。おそらく静かに暮らしているので、なるべく関わるのも避けて下さい”と。まさか、リヒトさんのことだとは思いませんでしたけど」
「なるほど」
そういえば俺も、女神に出会って転生をする時に”好きなように生きて下さい! 出来れば、静かにゆっくりと暮らして下さい”と言われていたな。この世界の問題に関わらせないようにしている。ナディーヌにも、関わらせるなと伝えていたらしい。そこまで言われているのなら、手伝うことは出来ないな。
「ちなみに、女神というのはウェーブのかかった髪の上に金色の冠を載せていて、神々しい見た目をした衣装に身を包んだ女性だったかな?」
「そうです、そうです! おそらく、私が出会った女神様と同じだと思います」
念のために、俺が見た女神の特徴について確認してみた。その結果、転生した時に俺が出会った女神とナディーヌが出会った女神は、同一の存在で間違いないようだ。
本当ならば、俺に使命が与えられていたのかな。なぜか女神は俺を見ると慌てて、詳しい説明も無しで転生させられたから。それで俺の代わりにナディーヌが、魔王の問題を解決するという使命を与えられることになったのか。
つまり、この世界の主人公はナディーヌということになるだろう。俺は、脇役でもない。その他大勢のモブキャラという存在になるのかな。
転生した者は、俺とナディーヌの2人だけなのか。ということは、ネコたちがこの世界にいる可能性も非常に低いかな。別の経路で、こちらの世界に来ている可能性もあるかもしれない。だが少なくとも、俺たちと同じような女神による転生で、こちらの世界に来ている可能性はなさそうだ。
「転生した際に、何か特典というものを貰ったか? 俺は女神から、今も外で待機しているリヴという神獣を授かったが、君はどうだ?」
「やはり、あの白くて強い可愛い子は普通の狼ではなかったのですね。私も、女神様から転生特典を2つ授かりましたよ」
ナディーヌは、リヴのことを可愛い子と褒めてくれた。そして、女神から授かったという転生特典について詳しく話してくれる。
「1つは、今度こそ事故にあっても死なないような、頑丈な体をお願いしました」
両手をグッと握って、拳を作り力強さをアピールしてくる。確かに、彼女の身体を巡っている魔力の量は多くて生命力が高いのが見てわかる。それで、耐久力も普通の人間と比べて高くなっているはず。とても頑丈ということだ。前世のように、事故の被害にあって死んでしまうようなことはない。
女神は、彼女の望み通りの体を用意した。
「2つ目は、使命を果たすのを手助けしてくれる素敵なパートナーと出会えるようにとお願いしました。女神様は、その条件に該当する人物となるべく早く出会えるように、運命を操作しておくと言っていました。そして出会ったのが、外で待機している彼でした」
「なるほど、あの勇者と」
俺の出会った女神は、そんなことも出来るというのか。しかし、使命を果たすのを助けてくれるパートナーとしては、あの勇者は少し頼りないような気もするが。他に該当する人物が居なかったのかな。
ナディーヌと話して、色々と事情を知ることが出来た。女神から使命を果たせと、命じられいてることも。
「とりあえず、治療した2人の怪我が治るまではここに居て構わないよ。魔王を倒すための武器が見つかるまで、ここを自分たちの拠点として使ってもらって大丈夫だ」
「ありがとうございます。とっても助かります!」
女神は、俺を面倒なことに関わらせないようにしているようだ。だけど、ちょっとぐらいなら手伝っても問題ないだろう。ここで出会ったのは偶然。俺が、彼女たちの旅に同行しなければ大丈夫なはずだと判断。
ということでナディーヌたちは、しばらく俺の拠点に滞在することに。魔王を倒すために必要だという武器を探しながら、2人の仲間の怪我が回復するのを待つ。
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