第199話 報酬についての話し合いと
2人を引き連れて、テーブルと椅子が設置してある広めの部屋まで移動してきた。リヴは外に待機させて、彼女たちを部屋の中に招いて座らせる。俺は、飲水を入れた木製のコップを人数分用意して、テーブルの上に運んだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……」
俺は対面の席に腰を下ろし、話を始める。ドレスの少女と勇者が横に並んで座り、テーブルを挟んで向かいの席に俺が座っているという位置で。
「それで、何から聞いていこうかな」
「まずは、自己紹介からしましょう」
「うん、そうしよう」
色々と聞きたいと思ったけど、まずは自己紹介から始めることに。勇者に関しては知っているけれど、他の3人は知らない。
「私は、ヴィシューパ王国の第二王女ナディーヌと申します。で、こちらが」
「……レオナルトだ。よろしく頼む」
ヴィシューパ王国とは、この国の名前。しかし、本物のお姫様だったのか。彼女に促されて、勇者も無表情で俺に挨拶をする。感情を隠そうとしているのかな。だが、友好的でないことは明らか。そんな彼は、俺と初めて出会ったかのように自己紹介をした。
以前会ったことがあるけれど、そのことについては覚えていないようだ。
「初めまして。俺の名はリヒト。よろしく頼む」
「……」
名乗ってみたけれど、やはり勇者レオナルトは反応しない。覚えていないのなら、わざわざ思い出させることもないか。初対面のフリをして、彼と接することにする。
「コラッ、レオナルト! 助けて下さった方に対して、そんな顔をするなんて無礼でしょ!」
「し、しかし、ナディ」
「本当に申し訳ありません。この男が失礼な態度を。代わりに謝罪します」
「気にしないでください。知らない男に対して、警戒しているだけでしょう」
「そう言っていただけると、助かります」
お姫様は、勇者を叱る。年下の女の子に怒られて、勇者はしゅんとしていた。
「怪我人の2人については、後で自己紹介させますので」
「わかった、それで次は」
「報酬について話し合う前に、こちらの事情について説明してもよろしいですか?」
向こうから詳しい事情について説明すると言ってきた。これは、ちょっと警戒するべきかな。話をして、俺を巻き込もうという企みがありそうだが。それは警戒しすぎだろうか。
でも、話を聞かないと先に進まなさそう。まぁ、聞くだけ聞いてみよう。
「どうぞ」
先を促すと、ナディーヌは語り始めた。現在の世界の状況について。俺が森の中で人との関わりを絶って生活している間、どういう状況になっていたのかを。
どうやら現在、魔王が復活する寸前らしい。世界中でモンスターが活発になって、数もどんどん増えている。それは、魔王の復活に向かっている前兆だという。もう間もなく、魔王復活の瞬間が訪れる。
その話については、村を出る前に聞いたことがあったな。そこから、どうなったのか。
魔王が蘇れば、人類を滅ぼそうと世界中のモンスターを率いての戦いが勃発して、人間は絶滅に向かうだろうという予言がなされた。
人類が生き残るためには、ここに居る勇者が魔王に立ち向かわないといけない。人々は協力して、復活する魔王を倒すために急いで準備を進めている状況だそうだ。
この世界には、魔王が存在しているらしい。まぁ、物語でもよくあるような勇者のお話である。
そして、もうひとつの予言。オプスクの森には、魔王を倒すための武器が存在するという予言を授かったそうだ。その予言に従い、彼女たちは魔王を倒すための武器を求めて凶暴なモンスターが生息する、この森に立ち入った。
俺が数年前に訪れて生活し始めたこの場所は、オプスクの森と呼ばれているということを初めて知った。しかも、勇者に関係するような場所だったなんて。
「なるほど。しかし、たった4人だけでか? もう少し、メンバーを増やしたほうが良かったんじゃないか?」
そこが気になった。第二王女だという守るべき存在が居るのに、これだけの戦力でこの森に立ち入るのは困難のはずだ。しかも、存在するかどうかも分からない武器を探すだけでも大変だろう。4人だけでは、目的を果たすのは無理そうだが。この森に来た理由が本当なのか、疑ってしまうほど。他に何か、目的があるのではないか。
「王国は現在、魔王に対抗するための準備を進めている最中。それで、私たちの旅に同行させる人材も、これが出せる最大だと。これ以上は、人員を割けないと」
「だとしても、4人だけというのは少なくないか」
「……お恥ずかしい話、私は王家から疎まれているような存在でして。この勇者も色々と問題を起こしてしまい」
「あぁ」
ナディーヌは、悔しく悲しそうな微妙な表情で打ち明けた。どうやら、彼女たちも色々と問題を抱えているらしい。特に勇者が。それを聞いて納得した。深くは、追求しないでおこう。
つまり、報酬についても要求を甘くしてほしいという話なのか。まぁ俺は、お金も土地も物品も、すぐに必要なモノは無いから。要求する報酬は、適当で良いだろうと考えている。
「報酬については、いつでも大丈夫だ」
「ありがとうございます! それでもう一つ、お話をしたいことが」
とても真剣な表情。これは勧誘だろうか。先程の戦闘から優秀な人材として見られているだろうし、魔王に対抗するための有益な人材だと思われているかも。王国は、人手不足らしいから。勧誘であれば面倒なので、断ろうか。
「その話をする前に。レオナルト、少しの間だけ席を外して」
「えっ!? な、なぜ?」
話の途中で突然、ナディーヌは横に座っていた勇者に対して部屋から出るようにと指示した。困惑する彼。勇者が居ると、勧誘を邪魔してきそうだという判断か。
「いいから。リヒトさんと、2人だけで話をさせてください」
「それは……」
彼女は、俺と2人だけで話し合いたいと言い始めた。そのために、レオナルトには外へ出るようにと、再び指示する。チラリとこちらに視線を向けてから、また彼女を見る勇者。どういうことなのか、俺にも分からない。
「早く!」
「ッ! わ、わかったよ。俺は怪我人の様子を見てくる。何かあったら、すぐに俺を呼べよ」
「わかっています」
荒々しく席から立ち上がって、俺に冷たい視線を向けながら部屋を出ていく勇者。そして、その部屋の中には俺と彼女の2人だけになった。
さて、一体何を言うつもりなのかな。俺は身構えながら視線を合わせると、彼女は口を開いた。
「貴方は、転生者ではありませんか?」
その言葉は、ちょっとだけ予感していた。もしかしたら、彼女もそうではないかと。だが、いきなりストレートに尋ねてくるのは予想外。
そして彼女は、俺が転生者であることを確信していた。それは、かなり自信のある聞き方だった。どこで俺が転生者であることを見破ったのか。
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