第192話 自由で丁寧な暮らしの始まり

「じゃあ、この場所に家を建ててから近くに畑でも作ろうか」

「ワウウッ!」


 住処を創ろうという場所を決めたので、次はどこに何を配置していくのか予定地をリヴと一緒に決めていく。家と畑、食料や道具を保管しておく倉庫なども作ろうか。それから後は、何が必要かな。


 この土地に到着した後、まずは周辺の調査を行った。その時に、シンプルな地図を制作していた。リヴと話し合いを行って、その地図の紙に筆記具で書き込んで今後の計画を決めていく。


 人の気配が一切ない、俺たち以外には誰も辿り着けないような森の奥深く。


 今はまだ木々で覆われて、地面はデコボコ。人工的なモノが何も無いような状態の土地だった。けれど、これから徐々に心地よく住めるような場所に開拓していく予定である。希望に満ち溢れた場所。


「リヴの使う予定地は、この辺りで良いかな?」

「ワウワウッ!」

「そうか、そんなに気に入ったか。そこはリヴの自由に使ってくれていいから」


 この場所は俺たちが好きなように使う予定だから、家の直ぐ側にリヴ専用の場所も決めておく。横から地図を覗き込んでくるリヴに、ここを自由に使っていいぞという許可を出すと、地面を飛び跳ねながら嬉しそうに尻尾をブンブン振っていた。




「よし、やるか」

「ゥワウッ!」


 計画を立て終えた。声を出して気合を入れる。それから、俺たちは作業に入った。とはいえ、そんなに急いで全ての行程を終わらせるような必要はない。時間の余裕はいくらでもあった。


 しばらくの間はテント生活で寝床の心配はないし、食料もアイテムボックスの中に大量に保管してある。畑を耕して、作物を育てる必要もない。森に生息している獣を狩って肉を手に入れたり、森に生えている植物を採取して飢えを凌ぐことも簡単だ。


 着替えの衣服だけ予備は少な目だけど、それも今すぐ問題になって足りないような事もない。最悪、裸で過ごす野生児スタイルでも問題なかった。ということなので、やっぱり急ぐ必要は全くないというわけである。


 誰かに急かされたりすることなく、ゆっくりと自分たちだけの時間が流れる生活を楽しみながら、丁寧に日々を積み重ねていって住処を創っていく。久しぶりに1人と1頭だけで、人里から離れて誰にも邪魔されないような時間を過ごせるように。




「フッ! っと、よし」


 木の根本が埋まっている土の部分をスコップで掘り起こし、地中から引き抜いた。ようやく地面から離れた切り株を横に置いて、一息つく。額に流れた汗を拭いながら作業完了の達成感を味わっていた。


 なかなかに手強かった。地中の奥深くまで根っこが伸びていたので、引き抜くのにかなりの時間が掛かった。だが、予定していた作業はこれで終わり。


 周りを見渡すと、開けた土地が目の前に広がっている。森に生えている木々を切り倒して、見晴らしのいい広場が出来ていた。


 この場所に到着してから1週間が経った頃、住処を創る予定地の木々を根っこから撤去していく抜根が完了したのだ。


「ようやく、広くなったな」


 まだ地面はデコボコのままなので見栄えが悪かった。そんな地面の上に家を建てることは難しそうだ。ということで次は地面をキレイに、平らにする作業が必要そうだと考えていた。




「よいしょっと!」


 広場が出来上がってから1週間後、地面が土で盛り上がっているところは掘り出し土砂を取り除いて、低くなっている場所には掘り出してきた土を埋めて、その場所を平らにしていく。


 草が生えているような所は刈って、茶色っぽい土を露出させた。


 デコボコを無くして平らになった地面の上に、岩を砕いて小石にしたモノを撒いて整地していく。火の魔法を使って高温で地面を炙り、ガッチリと固めた。これで雨や川の水が流れ込んできても、地面はドロドロにならない。かなり歩きやすくなって、建物の土台にしても大丈夫なぐらい地面は頑丈になっているはず。


「うん。これで、良さそうかな」


 地面を整地する方法は、おそらくもっと効率的で有効な方法があるだろう。だけど俺は、そのやり方を知らないので独自の方法で挑戦してみた。失敗してしまっても、別の方法を考えて繰り返し挑戦してみれば良い。時間は、たっぷりとあるんだから。




「そっちの状況は、どう?」


 まだ整地が済んでいない反対側に移動して、そこで作業しているリヴの様子を見に来た。先程まで隆起していた地面が平らになっている。そしてリヴの側に、地面から掘り起こした土砂が山になっていた。


「ワウッ」

「おぉ! もう終わったのか。スゴイじゃないか」


 声を掛けると、誇らしげにリヴが吠えた。どうやら、任せていた作業が終わったと報告してくれたようだ。確認してみたら、ちゃんと出来ている。仕事が早い。


 リブも一緒に協力して住処を創っている。いつも一緒に作業しているが、かなりの働き者だった。そして、頼りになる。


「ワウワウッ!」

「うーん。そろそろ、昼休憩にしようか」

「ワウッ」


 次に何をすれば良いのかと、リヴが指示を求めてくる。だが、作業の区切りとしてタイミングが丁度よかったので昼休憩に入ることにした。リヴも素直に従う。ただ、ちょっと不満そうかな。


 リヴはもっと働きたいようだけど、あまり急ぎすぎないように。仕事はしっかりと進めていくが、ちゃんと休憩も忘れないように取ることを心がける。


「まぁまぁ、焦らずにいこうよ」

「ワウ!」


 そう言うと、ちゃんと納得してくれるリヴ。聞き分けが良くて本当に助かる。


 日々の生活において緩急を大事にしていた。時間をたっぷりと使って自由な時間を送りつつ、仕事をする時は全力で楽しみながら。そしてまた、休憩に入ったら仕事を忘れてゆっくり過ごす。それの繰り返し。


 とても平和な暮らしだった。反応してくれる相方も居てくれるので、寂しさも感じない。1人だけだったら、こんなに楽しめていないかも。リヴを与えてくれた、あの女神には感謝だな。




 昼休憩が終わって、十分な休憩も取った。さて次の作業は、何をしようかな。そう考えている最中に、ひらめいた。


「あっ、そうだ! これだけ広くて、ひと目がつかない場所だったら都合が良いな。アイテムボックスの中身を全部取り出して、久しぶりに持ち物の整理でもしてみようかな」


 今の俺たちの目標は、家を建てて快適に過ごせる住処を創ることだった。しかし、最優先事項ではない。たった今思いついたようなことも、進行している作業を止めてやってみる。優先順位は、やりたいことを今やる。それぐらい気楽で自由な生き方をしているのだ。

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