第177話 称賛されるダンジョン・マスター

「今回、最優秀賞に輝くのは……」


 大きな会場に、マイクを通してプレゼンターの声が響き渡る。俺は今、4年に1度アメリカのロサンゼルスで行われている迷宮探索士の活動や成果などを讃えるための催し、アルゴスティック賞の授賞式に参加していた。


「通称ダンジョン・マスターとして、これまでに数々の立派で偉大なる功績を残したアオヤギ・リヒトッ!!」

「「「ワァァァァ!」」」


 世界で一番の迷宮探索士である者の名前が呼ばれた発表された瞬間、会場に歓声が沸き起こった。他にもノミネートされていた、腕利きとして有名な迷宮探索士たちも顔に笑みを浮かべて、スタンディングオベーション。温かい拍手で、名前が呼ばれた俺を送り出してくれた。


「どうもありがとう」


 椅子から立ち上がって、まずは周りで祝福してくれている者たちに感謝を伝えた。すると、更に拍手の音が大きくなる。


「コングラチュレーションズ!」

「ナイス、君はよくやった」

「さあ。早く、君の舞台へ上がれよ」

「観客たちが、今か今かと君の登場を待っているぞ」

「あぁ。行ってくる」


 歓声と拍手に背中を押されながら、舞台に上がる。実際に肩や腰をポンと叩かれ、よくやったという感じで讃えられながら送り出された。


「おめでとう、ダンジョン・マスター!」

「ありがとう」


 舞台上に立った俺は、プレゼンターから最優秀賞のトロフィーを受け取った。そのトロフィーはずっしりとして、重い。最優秀の迷宮探索士だと認められた者として、これからスピーチを行う。


「こんばんは。今回の受賞、本当に感謝しています。ただ、この結果は自分ひとりの力だけではなく、素晴らしい仲間が居たからこそ達成することが出来た偉業であると、私は考えています。お互いに協力して、意思疎通を図り、ミスを無くしていく。常日頃から何事にも備えてから戦う。それがちゃんと出来たからこその結果だろう、と私は考えているのです。それが、迷宮探索士にとっていちばん大事なことであると」


 そこで一旦、言葉を止めて呼吸する。舞台はスポットライトが当たっているので、眩しい。客席側は暗くて、一人ひとりの表情は見えなかった。だけど、大きな歓声や拍手喝采で観客たちから良い反応が返ってくるのが分かる。とても良い雰囲気だ。


「仲間たちには最大の感謝を。ありがとうございました。皆様には、良い夜を」

「「「ワァァァァッッ!」」」


 少し無難な感じでスピーチを終えて、舞台から降りる。また拍手が起こって会場が沸いていた。受賞者としての仕事は無事に終えた。そこそこ緊張したが、後は気楽に授賞式を楽しめる。


 この後、様々な分野での最優秀者が発表される。田中くんや大内さん、ネコも賞にノミネートされているから、受賞できるかどうか結果が楽しみだった。




 授賞式が終わって、ホテルに帰ろうとすると出口には多くのインタビュアーが待ち構えていた。疲れているので短めにして、早く終われせてくれと伝える。それでも、しばらく拘束された。


「おめでとうございます! 今の気持ちを一言で、お願いします!」

「嬉しいね。世界で一番の迷宮探索士と認められたんだからね。今後も、この名誉に恥じない活躍をしていきたい」

「日本人で初めてのノミネートと受賞という快挙を成し遂げましたが、今の気持ちを聞かせてください」

「最高ですよ。ですが、今後は俺達のように活躍をする日本人の迷宮探索士が増えることを願っています」

「なるほど。ありがとうございました」


 カメラを向けられ、パシャリパシャリと眩い光に包まれる。写真を撮られながら、向けられるマイク。インタビューには無難に答えていく。これで終わって帰れるかと思ったら、まだ離してくれない人たちが居た。


「日本人でありながら、日本からの依頼を断っているという噂がありますが。実際に依頼達成数も他国に比べて少ない。日本を軽視している、という意見について、どう思われますか!?」

「どうも思わないよ。依頼を受けて、俺たちは仕事をしているだけだ。依頼を選別はしているが、どこの国をどうとか軽視なんてしていないよ」

「日本人として、もっと日本のことを考えて依頼を受けるべきだ、という意見が多数です。それについて一言、お願いします」

「ちゃんと日本関係の依頼も受けているよ。だけど、ダンジョン関連で依頼してくる国はもっと沢山ある。助けを求めてくる人たちがね。危険度や救済など優先するべき順番も違うから」

「日本にも、困っている人が多くいると思われますが」

「日本には、俺たち以外にも優秀な迷宮探索士も多く居ます。彼らの活躍があれば、大丈夫でしょう」

「とある国は、あなた達のパーティーに何度も依頼したというのに受けてくれない、と語っていましたが、なぜでしょうか? 国を選んで依頼は選別していない、という発言に矛盾があるのでは」

「今回のイベントには関係ないことなので、回答を拒否します」


 どんどん、インタビューの内容が関係ないことを聞いてくる。拒否をして強制的に終わらせることにした。それでも、何人かしつこくインタビューを続けようとする。


 とある国って、依頼の内容が困難なのに達成報酬は少ししか出そうとしていない、あの国のことだろう。その事実を隠して、こんなインタビュアーを通して責めてくるなんて。やっぱり、依頼を断って正解だったな。これからも、断ろう。


「質問に答えて下さい!」

「そこ! それ以上のインタビューは、止めなさい!」

「ダンジョン・マスターは気にせず。どうぞ、行って下さい」

「ありがとう」


 とうとうイベント会場の要人警護官が間に入り、インタビュアーを止めてくれた。ありがたい。相変わらず、あの国のマスコミは面倒だなと思いつつ移動する。


 そのまま、面倒なインタビュアーたちを振り切って移動用の車に乗り込みホテルへ向かった。




 その後、ホテルに戻ることが事ができた。


「ふぅ。疲れたぁ」

「お疲れ様、アナタ。ありがとう、マスコミ対応を引き受けてくれて」


 ホテルの部屋に戻ってくると、先に妻のネコが待っていて出迎えてくれた。背後に回り、スーツを脱ぐのを手伝ってくれた。活動しやすい部屋着に着替える。これで、一息つける。


「あぁ、大丈夫。彼らは、無事に帰れた?」

「うん。私と一緒に、すぐホテルに戻った」

「それは良かった」


 先に帰らせて正解だった。田中くんたちは面倒なマスコミに囲まれることもなく、ホテルに帰ってこれたようだ。




「寝る前に、日本へ帰る準備をしておこうか」

「そうね。早く子供に会いたい」


 寝る前に帰国する準備を済ませておく。子供たちは、授賞式が行われている最中に面倒を見れないから連れてこれなかった。それで日本にいる両親に預けていた。すぐ子供たちに会うために帰りたかった。今日はホテルに泊まって、明日には日本へ帰る予定だ。


 今日のマスコミの反応を見てみると、また周辺がうるさくなりそうだった。なので子供を受けとったら、すぐ違う国へ移動することになりそうだな。


 日本という国は俺の生まれ故郷だし、親切で優しく色々と手助けしてくれるような良い人たちが沢山いるから大好きだった。けど、有名人になると生活するのは色々と大変だと思う。特に、あのマスコミ連中とか。




「じゃあ、お疲れさまということで乾杯」

「最優秀賞おめでとう、リヒト」

「ネコも、優秀戦士賞おめでとう」

「うん。嬉しい」


 日本への帰り支度を終えると、ルームサービスで注文した美味しい食事と酒で乾杯をした。お互いの受賞を喜び、称え合う。活動を評価してもらえて、嬉しかった。


 酒を飲み、久しぶりに2人きりの時間を楽しんで、語らう。夜も更けてきたので、その日はもう休むことに。眠る準備に入る。ネコと一緒にクイーンサイズのベッドに潜り込んだ。


「おやすみ、リヒト」

「あぁ。おやすみネコ」


 2人で抱き合って、朝までぐっすりと眠った。

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