第176話 流れ行く迷宮探索士の時間

 俺たちのパーティーは拠点をニューヨークに置き、依頼を受けて世界中を飛び回った。俺には、どんな言葉も自由自在に操れるという便利な技能があったから、どこの国でも通訳無しで活動することが出来るのが大きな強みだった。


「モンスターの討伐依頼は了解しました。予定と計画書をメールで送ります。我々の到着は二日後、×××空港で。現地時間で16:00頃になる予定です。契約の最終確認と締結は、そちらに到着してからお願いします」

「わかりました。我が国は、あなた達の到着を歓迎します。日本人ヤポンチェキェムの理人さん」

「よろしくお願いします」


 次の依頼主と、国際電話による連絡を終える。依頼が受けたので、飛行機に乗って長時間の移動となるだろう。長期滞在とダンジョン攻略の準備をしないといけない。


「次は、どこに行くんだ?」

「ポーランドだよ。美しい街並みと、飯が日本人の口に合っていて美味しい。とても良い国だ」

「へぇ、そうなのか。ところで、確かポーランド語は習得するのが難しい言語だって聞いたことがあるぞ。あの国の言葉も話せるなんて、お前は本当に万能だよな」

「まぁ、その話は置いておいて。彼女たちにも伝えて、準備しようか」

「おう」


 連絡している最中、俺の側に立って依頼主との会話を聞いていた田中くんが驚きの声を上げる。そんな事を言う彼や大内さんも実は、その土地でしばらく生活をすればちゃんと言葉を覚えて、話せるようになっている。その時の習得スピードは、常人と比べるとかなり早いほうである。


 俺は最初から持っていた特殊技能によって、各国の言葉を自由自在に扱えるだけ。ズルしているような気分だったから、ちょっとだけ気が引けた。まぁ、使える能力はこれからも遠慮なく使うつもりだけど。




「じゃあ次は、この依頼を受けようか」

「そうね。それは大丈夫そう」


 各国から舞い込んでくる依頼を選別していく。その中には犯罪に関わっていたり、契約内容が怪しかったりする依頼もあるので、変な事件に巻き込まれないよう事前にちゃんと見極める必要があった。


 主に俺と、大内さんの2人でダブルチェックしていく。時には、スタッフを雇って色々と確認してもらうこともある。今回の依頼内容の確認は、俺たち2人で。




 受ける依頼を決めると、スケジュールを調整する。現地までは飛行機に乗って移動することが多い。到着したら潜ることになるダンジョンについて1日か2日ぐらい、長い時には1週間もの事前調査を行う。ダンジョン攻略のルートを決めると、綿密な計画を立ててトラブルが起きないように準備する。準備が終わればようやく、内部に入ってダンジョンを攻略していく。国々や土地によって、ダンジョンには色々と違いがあるので面白い。


 時々、何らかの意図を感じるような作りのダンジョンに遭遇することもある。このダンジョン、どういう目的で作られたのか考えたりしながら攻略していった。多分、偶然なんだろうけれど。ダンジョンというのは、自然に出来たというのが定説だったから。


 世界各地のダンジョンを調査して回り、最下層まで攻略して依頼の品を回収する。最下層まで行って、願いを叶えてくれるアイテムが存在しているかどうかを確認してほしい、という依頼を受けた時もあった。


 宝玉は、ダンジョン外には持ち出すことが出来ない。最下層まで行って、存在するのかどうかを確認するだけ。その他には、その国で育成している探索士の訓練や指導なども依頼されることも。


 迷宮探索士としての仕事は、山のようにあった。依頼を受けると世界各地を移動して、攻略が終われば依頼主に報告する。そして次の依頼へ。そんな事を繰り返していくうちに、あっという間に時は過ぎていった。




 俺とネコの間に、子供が生まれた。青柳家に新たな家族が誕生した。ちょうど同じタイミングで、田中家にも家族が増えた。


 名字が田中に変わった大内さんも、子供を生むことに。迷宮探索士としての活動がしばらくできなくなった。パーティーメンバーのうち2人が産休をとることになったので、ダンジョン攻略は一旦休止。


 ダンジョン攻略が休止になって、自由な時間が増えた俺と田中くん。


 その間、俺たちは長距離の移動や滞在を断り、主に探索士の育成や指導という依頼を受けた。必要最低限のお金だけ稼いで、極力仕事を減らしていく。家族との時間を大切にするために、家庭のために費やすプライベートな時間を増やした。意外と迷宮探索士という仕事は融通が利くので、仕事と子育てを両立することが出来ていた。




 子供が育ってくると、女性陣2人はダンジョン攻略に復帰した。再び、世界各地を巡ってダンジョンを攻略していく。仕事に子育て、更に時間は加速していく。




 子供たちは、日々成長した。大きくなってくると親の仕事に憧れるようになって、将来は迷宮探索士の仕事を目指すと言い始めた。


「たんさくしに、なりたい!」

「わたしは、ママのようにつよくなる!」

「僕もパパより、つよいから! たんさくしになる!」


 息子2人と、娘1人が生まれて3人兄妹。そんな、子どもたちの宣言。


「本当に、大丈夫? 心配」

「なら、この子たちを、危ない目にあっても生き残れるように鍛えようか」

「うん」


 迷宮探索士を目指すと言う子供たちにネコは、危ない目に合わないかとものすごく心配する母親になっていた。俺も、息子や娘たちに長生きしてほしいと願っている。


 心配ならば、死ななくなるぐらいに子供たちを鍛えてあげればいい。ということで、暇な時間を見つけて子供たちを鍛えた。




「パパ、見てて!」

「おぉっ!? もう習得したのか。よくやった、偉いぞ」

「エヘヘ」

「僕も、強くなったよ。見ててね!」

「パパ、ママ、私も稽古して!」

「わかった、わかった! 順番にな」

「いいわよ。かかってきなさい」


 子育ては順調だった。時々、稽古をつけると成長速度に本気で驚く。子供の成長は本当に早い。教えると猛スピードでドンドン知識を吸収し、技術を自分のものにしていく。


 これだけ実力があれば大丈夫だろうと安心できるぐらいに、子供たちは強くなっていた。


 そんな可愛い我が子たちと楽しい日々を過ごし、妻のネコと仲良く暮らしていた。迷宮探索士の仕事も順調である。




 更に時間が過ぎ去っていく。




「パパとママがテレビに映ってるよ! スゴイ!」

「え? パパ、どれ? あ、いた!」

「うわー! ホントだね! ここに映ってるよ!」

「そうか、聞いていた放送日は今日だったかな」

「これは、あの時の仕事。なかなか大変だった」


 俺たちパーティーは世界中で活躍していた。その成果が認められて各国で表彰されたり、現地でニュースになるほど注目されていた。テレビに映った俺達の姿を見て、子供たちが喜ぶ。とても誇らしい気持ちになる。妻のネコも嬉しそうに満面の笑みで後ろから、テレビに夢中になって喜んでいる子供たちの姿を眺める。そんな日常。




 長い間、迷宮探索士として各地のダンジョン攻略を行ってきた。世界中での活躍が評価されて、一般の人達にも名を知られるように。


 いつしか俺たちは、ダンジョン・マスターと呼ばれるようになっていた。

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