第152話 手探りダンジョン攻略
「白砂さんと理人くんって、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「あー」
「……」
次の実習予定でダンジョンに潜る為の準備をしている最中、パーティーメンバーである大内さんが興味津々に聞いてきた。
突然聞かれて、俺とネコが視線を交わす。その様子を見て、大内さんも面白そうな表情を浮かべる。
やはり、気付かれるよな。前世からの関係があることを知り、俺たち2人は色々と話し合って再び仲良くなった。かつてフェリスだったネコにとっては、数十年ぶりの再会だったから。ずっと俺のことを探し続けてくれたらしい彼女は、再会することが出来た嬉しさに溢れていた。
大内にどこまで話すべきか悩んで言い淀んでいると、彼女はすぐに話題を変えてくれた。俺とネコの関係が、説明しにくい話だと察してくれたのだろう。彼女は、気の利く人だった。
「いいなぁ。私も、もっと白砂さんと仲良くなりたい」
「……」
ネコに向かって仲良くなりたいとアピールする大内さん。しかしアピールをされたネコは何も言えずに黙ったまま、俺と大内さんに交互で視線を向ける。どうするべきか悩んでいるな。俺が小さく頷くと、彼女は大内さんに向き直って手を差し出した。
「……よろしく」
「いいの?」
「いいよ」
「じゃあ、よろしくっ!」
嬉しそうに、ネコの差し出した手を握り返す大内さん。パーティーのメンバーとしてコミュニケーションを取り、これから仲良くなっていきそうな2人だった。
女子たち2人が仲良くしていたので、男子である俺達も仲良くしていきたい。そう思って、俺は静かにしていた田中くんに話しかける。
「ダンジョンの疲れは、もう回復した?」
「え? あ、あぁ。今はもう、疲れてない、かな」
我関せずと、ずっと静かにしていた田中くんに話を振る。彼は突然話しかけられて驚いたのか、少し遅れてから返事をした。
「そっか。次の実習も上手くいくかな?」
「……さぁ?」
話しかけてみたが、あまり反応のよくない返事の田中くん。こちらは、仲良くするためにもう少し時間が必要そうだ。
学校からの指示でパーティーを組まされたけれど、せっかくなので仲良くしていきたいと思う。それにダンジョンを攻略していくために、関係を良くしておくのは非常に大事だろう。
前回のダンジョン攻略の結果、学年の中で一番に優秀だと先生からの評価を得た。事前にシミュレーションしておいたので、ちゃんと良い結果が出ていた。
俺たち以外に他のパーティーは、初めて組んだパーティーで思うように連携をしてモンスターと戦えなかったり、目的地にたどり着けなかったり、パニックを起こして先生に助けられたり、色々とハプニングが起こっていたようだ。
そもそも、今回の課題をちゃんとクリアをして無事に地上へ戻ってこられたのは、数組だけだった。その中でも俺たちのパーティーは、ダンジョン攻略している様子がプロの迷宮探索士らしい、理想的な動きが出来ていたと評価された。
持ち帰ったアイテムの買取額も数万円になって、レンタルした装備品などの費用を引いても、十分な利益を得られた。一人あたり、1万円ほどの収入を得た。
もう少しダンジョンの奥まで進んでアイテムを入手すれば、数倍、数十倍の収入になっていくと思う。しかし、学生である俺達はそこまで進む事はできない。低層で、迷宮探索士としての練習を積み重ねて、成長しないといけない。
なので、実習で利益を出すのは、そこそこ難しいことだった。色々と制限があり、経験も少ないので失敗も多い。多くのパーティーが、実習で利益を出せないでいる。だから今回の俺たちの結果は良くて、先生たちからも評価されていた。
次回から、先生の補助が無くても4人だけでダンジョンに潜ることを許可された。他と比べたらダントツに、パーティーの完成度が高いから。
早速、次回のダンジョン攻略に向けた準備の話し合いをしている最中である。
「次も、失敗しないように注意していこう」
パーティーメンバーの皆に油断しないように準備をしっかりようと、注意を促す。そう言うと、田中がムッとした表情を浮かべ口を開く。
「そう言う、青柳さんは油断がないのかよ」
「もちろん。俺も、注意を怠らないようにするよ」
突っかかってきた彼に、笑顔を浮かべて答える。もちろん、油断しないように俺も注意しておく。
「まぁ、分かってるなら良いけどさ」
俺の答えを聞いて、視線を外した田中くん。少し不満そうだった。
「次のダンジョン攻略は、どうするの?」
「とりあえず今回の予定は――」
ちょっとだけ雰囲気がピリッとしたのを察して、大内さんが俺に疑問を投げかけてくる。次回のダンジョンの実習について。とりあえず、先生の補助がなくても大丈夫なのか、みんなで確認しておきたいかな。
次のダンジョン攻略に向けて、入念な話し合いを行った。
再び、4人組のパーティーでダンジョンに潜ってみた。今回は、離れた場所で様子を見ている先生が居ない。問題が発生したら自分たちで解決しないといけない。でも余裕を持って進めていた。
「やっぱり、明かりはつかないか」
俺は休憩の最中に、ダンジョン内で色々と実験していた。ハンディライトをつけてみるけど、やはり明かりはつかない。
どういう原理で、電子機器が使えないのか。色々と、自分でも調べてみたかった。まず、使えない事を実際に見て確認する。聞いていた通り確かに、ダンジョンの中では使えない。
「そりゃ、当然だろ。ダンジョン内でソレが使えないのは、授業で習った常識だろ」
「それじゃあ、何でダンジョン内では電子機器が使えないのかな?」
俺の実験を見て、あたり前のことだと田中くんは言ってくる。しかし、その当たり前の原因は何なのか。彼にも聞いてみる。
「え? そ、それは、わからないけど……」
「ダンジョン内でも電子機器が使えるようになったら、もの凄く便利になるだろう。だから原因を探ってみるのは、必要さ」
どうにかして使えないのか。ランタンや、紙の地図では使い勝手が悪い。なんとか原因を探って電子機器を使えいないか。
「まぁ、どうでもいいけど」
田中は興味を失って、視線を外した。
俺はライトの電池を交換してみたり、故障していないかどうか確認してみる。問題は見つからなかった。やはり、早々に原因を特定することは難しいのかな。
なんで、ダンジョンの中だけダメなんだろう。
「あれ?」
持ってきたハンディライトをアイテムボックスの中にしまい込もうとした瞬間に、キラッと光ったように見えた。
「んー?」
取り出してみると、一瞬だけ光っているように見えた。しかし、取り出した瞬間にすぐに光が消える。これは。
「どうしたの?」
「いや、一瞬光って見えたから」
「そんなの、見間違いじゃないのか?」
「……私も見た。光ってた」
大内さんに聞かれたので、答える。興味を失っていた田中くんが指摘してくるが、見間違いじゃない。ダンジョン内では使えないはずのライトが光った。その後、すぐ光は消えてしまう。だけど、間違いない。
アイテムボックスから取り出した瞬間だけ、ライトに光が灯ったのが見えていた。俺だけではなく、ネコにも見えたようだ。
「どういうことだろう」
考える。1つ思いついたので、試してみた。アイテムボックスの中から、食料など保存するために使っていた袋を一枚取って、その中にハンディライトを入れてみる。
「ダメか」
ハンディライトはつかない。ダンジョンの空気に触れたらダメかと思ったけれど、違うか。普通の袋じゃダメなのかな。なら、特性の袋の中に入れてみるとか。
例えば、俺が付与した魔力に覆われた袋の中に。
「お」
「え?」
「凄い光ってる」
「……おぉ」
ハンディライトを入れた袋に魔力付与をしてみた。すると、袋の中にあるライトがピカッと光った。4人、それぞれが反応を示す。間違いなく、光り続けている。
ダンジョン内でもライトが問題なく光って、洞窟の先を明るく照らしていた。
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