第135話 転生者との話し合い

「数週間前に私は、女神様からのお告げを受け取りました」

「お告げ?」

「そうです。我らが女神様は、この地に非常に大事な方が降臨なさったと。女神様と同格に扱うべき、非常に大事な方だと。そして数日前には、私に会いに来るだろうと女神様は知らせてくれました」

「そして、寺院を訪れたのが私だった、ということね」


 ラムアーンという名の幼女は、俺を神様だと思った理由を語った。彼女は出会った瞬間に、お待ちしておりました、と言ってきた。そういう経緯があったのか。


 しかし、俺の来訪を予期していたなんて。


 数週間前といえば、確かに俺がこの国に来た日だったと思う。屋台を引いて各地を巡りながら、地元の味を調査していた頃だった。数日前になって、地元に住んでいるお客から転生者についての話を聞いた。そして、この場所に辿り着いた。


 彼女の言う女神様という存在が、ここに招いたということなのかな。しかし、俺を同格に扱うべきと言ったらしいが、それはどういうことなのか。


「貴女の女神様は、他に何か言っていなかった?」

「いいえ、その他には何も。とにかく寺院を訪れる貴女様には失礼が無いよう、注意されました。くれぐれも無礼な真似をしないように、何度も言われていたのです」


 何故だろうか。そんな丁重に扱われる理由に、まったく思い当たる節が無かった。

どうして、そこまで。


「そっか」

「はい」


 とりあえず、神様だと勘違いした理由は彼女の説明を聞いて理解した。しかし俺は転生者である。彼女も転生者らしいので、転生についての話をすることに。


「転生の話を聞かせてもらえる?」

「わかりました。けれども、私が話せることは少ないです。こんな生意気な話し方が出来るぐらいで、前の記憶については生まれた瞬間に大半を失ってしまいました」


 彼女も前世の記憶を引き継いで生まれてきた。しかし生まれた瞬間に記憶の大半を失ったらしい。断片が残っているだけで、すべての記憶を覚えているわけじゃない。


 俺も同じように、前世の記憶を引き継いで生まれてきた。だけど、生まれた瞬間に記憶がなくなる、ということはなかった。記録に書き残しているので、前世のことは覚えている。そう思っていた。もしかしたら、忘れていることもあるかもしれない。


「貴女の前世は、どんな世界だったの?」

「今から1000年以上も昔、とても古い王朝が存在した頃に生きていました」


 ラムアーンの答えを聞いて、俺は少しだけ勘違いしていたことがわかった。彼女は別世界からの転生ではなく、同じ世界に生まれてきたようだ。


「ラムアーンは、異世界から転生したわけではないのね?」

「?」


 彼女は、俺の言葉を聞いて疑問の表情を浮かべている。俺は、自分の生まれてきた世界の数々について彼女に明かした。


 魔法が存在している世界に、勇者が存在している世界。それから、はるか遠い未来だと思われる世界について等など。ラムアーンは俺の語る数々の世界について、興味津々で話を聞いていた。


「残念ながら、私が前世で生きた世界というのは、今いるこの世だけです。レイラ様のおっしゃる世界を、私は知らないです。申し訳ございません」

「いいえ、謝らなくていいわよ。気にしないで」


 転生者だが、同じ世界に再び生まれてきたラムアーン。異なる世界に何度も転生を繰り返している俺とは、少し事情が違っている。俺の知っている転生者だったマリアとも、違うようだ。ラムアーンは、異世界を知らない。


「その魔力の操作は、前世で学んだの?」


 今の世界には、魔法は空想の存在とされているようだった。簡単に調べてみたが、おとぎ話なんかで魔法という単語は存在しているだけ。


 実在の魔法使いは居ない。そう思っていた。


 けれど、ラムアーンはしっかりと魔力操作の技術を身につけているように見える。魔力を鍛えて、常人よりも多くの魔力を体の中に秘めていた。魔法を使えるかどうか分からないけれど、確実に魔力の存在を知っている。


「はい。前世で修行をして、今も寺院に伝わる秘技を練習している途中です」

「なるほど。ラムアーンの魔力は、とても安定しているように見える」

「見て分かるのですか。凄いです。レイラ様も、この力を使いこなせるのですね」

「えぇ。それなりに得意よ。こうしたら、見える?」

「確かに見えました! 私なんかよりも、遥かにお上手なのですね」


 彼女は、体の中にある魔力を操作する様子を見せながら語った。この寺院には古くから言い伝えられてきた秘技があるという。それが、魔力の操作技術。だから、彼女以外にも何人か、魔力の操作を習得している人が居るらしい。


 世間には公表していない、秘密の技術。その技術を身につけられる者は、限られた一部の人間だけ。


 一般には知られていないが、一部の人間には魔力の存在を認知していることが判明した。ということは、ここの寺院以外にも世界各地に魔力について知っているけど、その事実を隠している人間が居るのかもしれない。


 そんな人物が世界に居るのなら、会って話をしてみたいと思った。




 それから俺はラムアーンと、転生や魔力とは関係ない会話を楽しんだ。


 俺が、この土地に訪れた理由は料理を勉強するため。世界を巡って、各地の料理を学んでること。生まれたのは、日本という国だということを彼女に話す。


 そしてラムアーンは、この国の宗教について教えてくれた。俺たちが今いる、この寺院の歴史について。ラムアーンたちが信仰している女神様のことも。


 けれど、その女神様の名前や姿形などについては詳しく教えてもらえなかった。


 どうやら、宗教上の理由によって教えられないらしい。他の土地で生活する人に、女神様の名前を明かしてはダメだというルールだそう。お告げでも、名は伏せておくようにと強く言い付けられたらしい。


「申し訳ございません」

「いや、大丈夫」


 宗教上の理由ならば仕方がない。気になるけれど、無理に聞き出さないでおこう。しかし、わざわざ念を押して言い付けるのは理由があったのかもしれない。


 なんとなく、女神様から警戒されているような気配を感じた。それが理由なのかもしれない。俺には全く、警戒されるような心当たりはないのだけれども。




「もう、こんな時間」

「残念ですが、そろそろお話は終わりにしましょうか」

「そうだね」


 1時間ほど、ラムアーンと楽しく有意義な会話していたようだ。俺は、部屋の外に待機している者たちの焦る気配を察知した。これ以上話が長くなると、彼らの心配と不安が限界を超えて、無理やり部屋の中に突入してくるかも。なので、楽しいお話はここで終わり。


「また来てください、レイラ様。お待ちしております」

「うん。また来るね」


 話を終えて床から立ち上がり、ラムアーンと別れの挨拶を交わす。また会いに来ると約束して、俺は寺院を出た。

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