第90話 勇者の仲間たち
ちょっとしたトラブルに巻き込まれたりしながら王都を出発して、なんとか目的の場所に到着した。ここが、上から向かうように指示された地域。ここで俺は、勇者の活動を行う。
ルベルバック王国から、勇者の活動を支援するため仲間を派遣してくれるらしい。俺が所属される予定の地域に、先に向かって待っているらしい。まずは、その仲間と合流することから始めるか。
4人一組で行動するというのが、勇者バーティーとしての昔からの伝統らしい。
これから一緒に勇者の活動をしていくための仲間が、一気に3人も増えることに。戦闘能力が低かったとしても、面倒なのが来なければいい。
合流する予定の街に到着したけど、誰も居なかった。予定の日時を間違えたのか、それとも場所を間違えたのか。待っているとしたら、宿屋かな。
しばらく街を探し回って、ようやく出会えた。
「勇者リヒト様ですか?」
「そう」
宿屋に行くと、1人の女性が待っていた。俺よりも、少しだけ年上ぐらいの真面目そうな女性。この人が、これから俺と一緒に活動する仲間のようだ。
「ルベルバック王国から勇者様の支援のため派遣されてきました、カテリーナです。他の2人は、まだ部屋で休んでるみたいで……。すぐに呼んでくるので、待っていて下さいッ!」
「ん」
そう言って、カテリーナは慌てながら宿屋の奥へ走っていった。1人で残されて、待つこと数分後。カテリーナと一緒に、2人の男たちがやって来た。中年の男たちはなんだか、やる気のなさそうな顔をしている。
「お待たせして申し訳ありません、勇者リヒト様! 改めまして、カテリーナです。女騎士をやっています。どうぞ、よろしくお願いします」
キッチリとした立ち姿から、丁寧にお辞儀をするカテリーナ。見た目通り真面目な人なんだという印象。彼女の後ろにいる男たちも続けて、口を開く。
「クリスです。どうも」
「ウェーズリー。よろしく」
後ろにいる2人は、カテリーナとは反対に不真面目そうだった。やはり、やる気がないのかな。
2人は、見下すような視線を俺に向けてきた。俺が若いから舐められているのか。適当な挨拶で態度も悪くて、印象は最悪。初対面なのだから、もう少しぐらい態度を良くしてくれればいいのに。
「2人とも、勇者様にその態度はなんだ! しっかり挨拶しなさい」
カテリーナが2人を叱った。でも、全く反省していない様子。その目には反抗的な鋭さが隠れていた。隠しきれていないけど。
「……ちっ」
「めんどくせーなぁ……」
「「勇者様、よろしくおねがいします」」
ぶつぶつ言いながら、しぶしぶ頭を下げる2人。彼らが、仲間になる人物なのか。不安しかないんだけど。
「リヒト。よろしく」
俺も3人に向けて名乗って、挨拶を返した。カテリーナからジッと見つめられる。言葉の少ない簡単な挨拶だったから、不真面目な人間だと思われたのかな。だけど、彼女から注意はされなかった。
その後、少し話し合って情報交換をした。これから一緒に活動していくためにも、お互いのことを知っておく必要があったので。
カテリーナは積極的に、クリスとウェーズリーは面倒そうに答えた。
挨拶でも言っていた通り、カテリーナは女騎士らしい。そして、クリスは重装備で戦うパワータイプの戦士。ウェーズリーは、様々な魔法を扱える魔法使いだそうだ。
女騎士のカテリーナは、勇者とパーティーを組むのは今回が初めて。
戦士のクリスはこれまで、とある街を守る兵士を務めていたそう。過去に一度だけ勇者とパーティーを組んで、活動していた経験もある。
魔法使いのウェーズリーは、今まで何度か勇者とパーティーを組んできたそうで、この中では一番の経験者らしい。
勇者、戦士、魔法使い、女騎士。バランスは悪くないのかな。ただ、協調性があるのか心配ではある。仲間と協力し合う戦い方について、考えないと。
しかし、仲間が増えるのか。俺は今、イマヌエルという貴族に目をつけられているかもしれない。先日は、取引が終わったはずの金を返せと脅されたけれども、簡単に追い払うことが出来た。
これから先、何か仕掛けられるかもしれない。戦士と魔法使いの男2人の反抗的な態度を見たら、彼らは巻き込んだとしても別にいいかなと思う。
そんな2人とは違って、カテリーナという女騎士を巻き込んでしまうかもしれないのは、申し訳ないと感じていた。
それに彼女は、見た目や仕草から平民ではないように見えた。ということは。
「貴族?」
「私ですか? はい、そうです」
カテリーナに尋ねると、そうだという答えが返ってくる。そういう雰囲気があったから、そうかもしれないと思ったけど。やはり彼女は、貴族の令嬢だった。
となると、巻き込んでしまうと面倒なことになる可能性があるよな。
貴族だったジョナスは、弟子を卒業したので関係を一旦、断ち切れたと思う。だが新しく出会ったカテリーナは、どうしようかな。
「しかし、女だてらに騎士だなんて、と両親から言われて認めてもらえず。今は勘当されているような状態なので、家は関係ありません」
「わかった」
実家との関係は悪いらしい。それなら、イマヌエルの嫌がらせでカテリーナの家が標的にされる可能性は低そうなのかな。とりあえず様子を見てようか。イマヌエルが諦めて、何も仕掛けてこないことを願おう。
「それよりも」
「ん?」
今度は、カテリーナの方から俺に尋ねてきた。彼女は、何やら心配だという表情を浮かべている。
「勇者様の仲間の一員に加えてもらうのが私なんかで、よかったのでしょうか?」
「?」
どういうことだろうか。むしろ、派遣されてきた3人の中では一番まともそうで、助かるのだが。彼女は、そう思っていないようだ。
「男のように剣を振るう女よりも、回復の技能を持つ可愛らしい女性のほうが……」
「問題ない」
申し訳無さそうな表情で告げる彼女。そういう事なら、問題はないだろう。確かに回復役が居ないけれど、いざというときは俺が回復魔法を使って回復役を担うことも可能だから、パーティーメンバーに居なくても問題ない。
俺が一言で答えると、彼女は安心してくれたのか、少しだけ表情を緩めた。
「やっぱり、噂通りの勇者みたいだな」
「あぁ。全然、強そうに見えないしなぁ。しかも女に、甘い」
俺とカテリーナが2人で会話している場所から、少し離れた所で戦士のクリスと、魔法使いのウェーズリーが小声でヒソヒソと話している。
聞こえないように会話をしているつもりみたいだけど、彼ら2人の声は俺の耳にもバッチリ聞こえているんだよなぁ。
しかし、俺の噂が既に届いていたのか。その噂が事実だと、信じ込んでいる2人。だから、あんなに態度が悪かったんだな。納得した。
「あんな奴と組まされるなんて、運が悪いぜ。まったくよぉ」
「どうする? このパーティーから、抜け出すか?」
俺の方をチラッと確認しながら、会話を続ける。2人は、知り合いだったのかな。親しげに、どうするのか相談していた。
「しかし、王国から与えられた仕事だしなぁ」
「わかった。もう少しだけ、様子を見よう」
「面倒だけど、そうするか」
「仕方ないさ」
「だが、ダメそうならすぐ」
「そうだな、そうしよう」
そんな事を、2人が話し合っているのが聞こえてくる。パーティーから抜け出そうとする計画を立てているな。早いうちに、2人は居なくなりそうだ。
仲間と合流して、パーティーを組むことに成功した。けれども、そのパーティーの雰囲気は良くないまま街を出発する。
これから俺たちが目指すのは、勇者の守護を求める者たちが居る町や村など。まだ勇者に守護されていない場所。モンスターが発生して、被害が出ているような場所。
「みんな、行く」
「わかりました、出発しましょう。どの街から、訪ねていきますか?」
これから向かう先を決めるのは、勇者である俺の役目だった。カテリーナの質問に答える。
「近くの街」
「なるほど、順番に行くんですね。では、行きましょう!」
これが最初の勇者としての仕事らしい。王国から指定された地域を巡って、勇者の守護を求めている人たちを自分で探し出さないといけない。
「えぇ!? 大きな街なんて、行ったって無駄だろ」
「もっと、小さな村から探していかないと。リヒト様の実力では、ちょっと……」
男2人が何やら言っているが無視して、まずは近くの街から順番にまわって探していく。
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