第81話 試験のトーナメント2回戦

 勇者の試験は、数日間にわたって行われるようだった。連日にわたり会場を訪れ、試験のトーナメントを見る観客たちも居るそうだ。舞台の上で実力を競い合う様子を観客に見られている状況で、順番に勝敗が決まっていく。


 俺は1回戦の戦いが呆気なく終わって、観客の1人として試合を観戦していた。


 盛り上がりを見せる試合、一方が圧倒する試合、観客が野次を飛ばすような泥仕合もあった。


 この勇者の称号を得るための試験というのは、王都の市民たちが娯楽として楽しむイベントでもあるようだ。観戦中に酒を飲みながら、勝敗予想に賭けて楽しんでいる人々の姿もあった。


 意外と、大衆的な雰囲気溢れる催し物という感じだ。勇者を決めるなんて、もっと厳かに、粛々とした儀式として行われるものかと思っていたな。けれども、違った。祭りのような盛り上がりである。




 そして、2回戦。1回戦を勝ち上がった俺は、鉄の剣と鎧を身に着け、再び舞台に上がる。今度は、もう少し歯ごたえのあるような相手が出てきてくれると、いいのだが。でも、あまり目立つような戦いもしたくないし。


 しかし、優勝したら結局は注目を集めてしまうかな。どうしようか。


 対戦相手も支給された武器防具を装備して、反対側にある場所から上がってくる。1回戦では見なかった受験者だ。2回戦からの参加ということは、貴族なのかな。


 勇者の試験は、貴族も参加するようだ。勇者という称号を手に入れて、箔をつけるために。それと、貴族の次男以下が仕事を求めて勇者になることが、意外と多いらしい。


 勇者の試験にはシード制があった。貴族に対して、試験参加の優先権が与えられているようだ。貴族は試験に参加すれば、1回戦は無条件で突破をすることが出来る。


 まぁでも、実力があれば勝ち上がっていける。貴族が優遇されて、シード制だったとしても特に問題は無いかな。


「それでは、第二回戦を始める! 両者、定位置について」


 審判が俺たちの間に立ち、ルールの説明をする。説明された内容を簡単にまとめると、対戦相手を殺さないように注意しなさい、ということ。


 試験が始まる前、それから1回戦の時にも同じ内容の警告を聞いていたので、もう分かっている。審判の言葉は聞き流しつつ、対戦相手の観察した。


 向かい側に立つ相手は、真剣に審判の話を聞いて頷いていた。真面目だ。金髪に、整った顔で高身長。いかにも好青年、というような見た目をしている相手だった。


 けれども彼の立ち振舞からは、あまり強さを感じなかった。それなりに鍛えているようだし、剣術を身に着けているみたい。けれど、隙は多かった。彼と対戦して俺が負ける可能性は低いだろうと予想する。


 対戦相手も、俺と同じように感じていたらしい。感じ方は、逆だったけれど。


「残念だろうけれど、君は2回戦で敗退だ。今回の結果で気落ちせずに、来年もまた勇者の試験に挑戦してほしい」

「……」


 審判の説明が終わった瞬間に、対戦相手から指をさされる。そして、宣言された。相手の青年は、とても自信満々だった。


 彼は、申し訳無さそうに言う。まだ、勝敗は決まっていないのに、もう既に勝ったような物言いだった。それほど、自分の実力に自信があるのか。


 対戦相手の挑発に、観客たちの大きな歓声で会場が湧き上がった。見ている分には楽しいのかな。


「なぜ、反論しない? 反応もなし。そもそも、この勝負に勝つ気がないのか」

「……」


 黙ったままの俺に、眉をひそめて問いかけてくる対戦相手。反論しないんじゃなく言葉を返せないんだ。話すと喉が痛くなるし。いちいち、説明するのも面倒だから。俺は何も言い返すことはせず、青年と視線を交わした。




「なるほど。戦いに余計なお喋りは不要、ということか。分かった、やろう!」

「……」


 黙ったままでいると、なぜか勝手に納得してくれた。それから、ヒートアップする対戦相手。少し接しただけで、対戦相手の暑苦しい性格が理解できた。まぁ、戦いが始まれば集中して、静かになるだろう。


「先手を譲るよ。せめて、一度ぐらいは攻撃してきてくれ。剣を交えよう」

「いいの?」

「もちろん! 一度でも私に有効な攻撃を入れられたなら、観客たちも喜ぶだろう」

「わかった」


 その提案は、負けない自信があるからこそ出たのだろう。力の差を察知する能力は低いようだ。それに、先手を譲られる前から油断しているのか、攻め放題だった。


 もしかしたら、俺ってかなり弱く見えるのかも。背丈は、周りと比べたら少し低めだけれど。でも、ちゃんと鍛えてるんだけどな。


 本当に、先に攻撃していいのかな。俺が問いかけると、目の前の青年は問題ないと頷いた。彼の語る言葉から、俺の攻撃を受けきれるという自負を感じる。




「さぁ、来い!!」


 本人がそう言っているけれど、いいのかなぁ。相手は待って、攻撃をしてこない。それじゃあ、お言葉に甘えて。俺はスピードに乗った剣の一撃を相手に喰らわせる。


 これで終わらせるつもりで、相手に一瞬で近づいていく。そのまま、剣を振るう。偶然上手い所に入ったという感じに見せかけて、気絶させようか。


「な!? ガアッ!?」


 フェイントを混ぜた、相手にとっては意識外からの攻撃。その一発で、対戦相手の青年は地面に倒れた。これで、勝負はついたかな。そう思ったが。


「ま、まだ……ッ!」

「ん」


 お。根性はあるようだった。まだ戦えると言って、気力で立ち上がる。その戦意の高さは素晴らしいと思う。


「ぐぅ……、まさか、そんな力を秘めているとは。だが!」


 まだ戦う意志を見せてくる相手。偶然だとは思ってくれないか。彼は、俺の実力を認めて、真剣な表情で剣を構えた。


「もう、油断はしないッ……!」

「「「ワァァァァ!」」」


 観客たちが対戦相手の青年を応援する。頑張って立ち上がる姿を見て、彼の味方が一気に増えたようだ。この場では、俺がアウェーかな。


「ハァァァァ!」


 相手の繰り出し続ける攻撃を、次々といなしていく。なかなか、有望そうな才能を秘めていそうな相手だった。


 けれど、残念ながら今の彼の実力では、俺に敵わない。


「ッ!? あっ」


 相手の振る剣のタイミングに合わせ、カウンターを入れる。俺は剣を振り上げた。青年の手に握られていた武器を、弾き飛ばすことに成功していた。明後日の方向に、飛んでいく剣。目の前で驚愕する表情を浮かべている、対戦相手。


「くっ!?」

「……」


 呆然としている対戦相手は隙だらけ。突っ立っている対戦相手、その喉元に剣先を突きつけた。これで、決着はついたかな。


「「「オオォォォォッ!」」」


 もう少し、実力を隠して戦うつもりだったが、予定が狂ってしまった。俺の実力の一端を垣間見せたことで、観客たちは盛り上がっている。


「ま、まいった……。降参だ」

「勝者、リヒト!」

「「「オォォォォ!」」」


 悔しそうに降参する青年と、審判の声。よし、勝ったな。観客席から盛大な拍手と歓声が湧き上がる。


 こうして俺は、試験の2回戦も無事に突破した。

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